第五十三話 ダンジョンの銀髪美少女
(よし! 今回の俺のカッコよさは100点満点中95点だったな! 今頃、俺の噂で持ちきりだぜ!)
内心でニヤニヤが止まらない小田圭が目指すのは、目的地である『エデンの村』のさらに北にある、上級ダンジョンだ。
前世ではパッとしなかったゲームオタクの引きこもり。だが今の彼は、この世界で最強の存在へと成り上がっていた。
転移時に女神から授けられたチート能力は、文字通り桁外れの『経験値100万倍』。
この世界に降り立ち、最初にそこらへんにいた最弱のスライムを一匹倒しただけで、圭の身体には規格外の経験値が流れ込んだ。その結果、レベルが爆発的に上昇し、ステータスが一瞬で全て『99』にカンストしたのだ。筋力、魔力、俊敏、知力。すべてが世界の頂点に達していた。
前世のゲーム知識とこの圧倒的なチート能力があれば、上級ダンジョンなどただの遊び場に過ぎない。
「グルルル……!」
「ギャウッ!」
薄暗い洞窟を進むと、すぐに不気味な咆哮が響き渡った。
奥から現れたのは、鋭い牙を持つ巨大な双頭の狼や、鋼の毛皮をまとった熊のような、凶悪な「獣型」の上級モンスターたちだ。
一匹、二匹と、暗闇から次々と湧き出してくる。
一斉に牙を剥き、凄まじいスピードで飛びかかってくる獣たち。
しかし、俊敏のステータスが最高値の『99』である圭の目には、彼らの動きがまるで止まっているかのように遅く見えた。
「ふん、スピード自慢のつもりか? 鈍すぎてあくびが出るぜ」
圭はなびく黒コートを翻し、迫る爪をミリ単位の動きでヒラリとかわす。
そして、すれ違いざまに軽く指先を突き出した。
「消えろ」
ザコには詠唱すら必要ない。
圭の指先から、超高熱の炎の弾が目にも留まらぬ速さで連射された。
ドババババッ! と空気を爆破するような音が激しく響く。
放たれた灼熱の炎は正確に獣型モンスターたちを捉え、その巨体を一瞬で黒焦げの灰へと変えていく。
どんなに分厚い鋼の毛皮も、圭の魔力『99』から放たれる圧倒的な火力の前には、ただの乾いた紙切れ同然だった。
一歩進むたびに、灰の山ができていく。まさに圧倒的な無双状態だ。
そのまま洞窟の最奥へと足を踏みに入れると、急に視界がひらけ、巨大なドーム状の空間に出た。
「……っと、これは」
圭の足が止まる。
暗闇のあちこちで、無数の赤い光がギラギラと怪しく蠢き始めた。
地響きのような唸り声が、四方八方から降ってくる。
『モンスターハウス』だ。
そこにいたのは、燃え盛る地獄の炎をまとった巨大な魔狼――『ヘルハウンド』の群れだった。
数匹いれば一国の軍隊を脅かすと言われる凶悪な魔物が、数え切れないほどこの空間を埋め尽くしている。
「おいおい、大サービスじゃねえか……」
さすがの圭も、一瞬だけ眉をひそめて焦った。
だが、それだけだ。
ステータスが全てカンストし、世界最強の力を手に入れた今の自分なら、何匹、何十匹いようが敵ではない。
(一気に、派手な大魔法でまとめて消し去ってやるか)
そう思って、再びカッコつけた詠唱の構えに入ろうとした時――圭は違和感に気づいた。
「……あ? なんだ、あれ……」
凶暴なヘルハウンドたちの群れ。その中央に、ぽつんと不自然な空白地帯があった。周囲の魔狼たちが怯えるように身をすくめる中、そいつはいた。
闇の中でかすかにきらめく、美しい銀の髪。
そして、すべてを見透かすような、冷たく澄んだ氷藍の瞳。
そこに佇んでいたのは、圭と同じ、16歳くらいの一人の少女だった。
なぜ、こんな最深部に人間がいるのか。
なぜ、凶悪な魔物たちが彼女を襲わずに遠巻きに囲んでいるのか。
驚く圭と、静かに視線を返す銀髪の少女。
ダンジョンの暗闇の中で、二人の視線が交錯した――。




