第五十二話 ダークヒーロー、登場
「うあああっ!」
悲鳴と共に、また一人、聖騎士が激しく地面に叩きつけられた。
闇に包まれた森の開けた場所で、聖騎士隊の隊長は絶望に顔を歪めていた。
彼らが対峙しているのは、禍々しい魔力を放つ漆黒の巨骨――『ジャイアントダークスケルトン』。
およそ20人の精鋭たちが大剣を構えて囲んでいるが、戦況は最悪だった。
「隊長! 刃が通りません! 奴の骨が硬すぎる!」
「ひるむな! 聖なる光の加護を武器に宿せ! 防衛線を維持するんだ!」
隊長が声を枯らして叫ぶ。
しかし、化け物が巨大な骨の腕をただ一振りしただけで、凄まじい暴風が巻き起こる。
その風圧だけで、前衛の聖騎士たちが木の葉のように吹き飛ばされ、大木に激突して気絶していった。
残った者たちで一斉に放った光の魔法も、奴の放つ黒い霧にかき消される。
ジャイアントダークスケルトンの赤い眼光が、冷酷に彼らを見下ろした。
踏み荒らされる大地。へし折られる鉄の盾。
20人いた隊員はすでに半分以上が戦闘不能になり、残っている者も息を切らせ、膝をガクガクと震わせている。
「ここまで、なのか……。我ら聖騎士隊が、こんな場所で全滅するとは……」
隊長は血の混じった唾を吐き、折れかけた剣を握り直した。
化け物がとどめを刺そうと、巨大な足を持ち上げる。誰もが死を覚悟し、目を閉じたその時だ。
「おいおい、そんな雑魚一匹に寄ってたかって無様だな、お前ら」
上空から、彼らを見下すような、ひどく軽い若い声が響いた。
聖騎士たちが驚いて目を開け、一斉に見上げる。
そこには、星一つない夜空を背景に、ただ一人で宙に浮いている少年がいた。
闇に溶け込むような長い黒色のコートが、夜風に激しくなびいている。
前髪を大げさに掻き揚げ、不敵な笑みを浮かべる少年――小田圭だ。
「グオオオオ!」
獲物を邪魔されたジャイアントダークスケルトンが、標的を空中の圭へと変える。
空気が爆発するような速度で、巨大な骨の拳が圭へと振り下ろされた。
「危ない! 逃げろ!」
隊長が思わず叫ぶ。しかし、圭は避けるどころか、不敵な笑みを浮かべた。
「その程度かよ。――俺の領域を侵した罰だ。灰すら残さず消え失せろ、雑魚が」
迫り来る巨大な拳を、圭は避けるどころか片手で事も無げに受け止めた。
「なっ……!?」と聖騎士たちが息をのむ中、圭はそのまま両手を大げさに広げ、天を仰ぐ。
そして、誰もが耳を疑うような、やたらと長くて響き渡る『大魔法』の詠唱を大声で始めた。
「――神聖なる深淵に眠りし滅びの光よ! 今ここに契約の鎖を解き放ち、愚者に終焉の裁きを下せ! 顕現せよ、すべてを統べる我が真名! 織り成す世界の破壊の系譜――! 我が名は『オダ・ケイ』! 天を穿つ光の聖矢よ、すべてを貫き消滅させよ――ッ!!」
(よし、一言も噛まずに言えた……!)
心の中で大ガッツポーズを決める圭。
「ジャッジメント・レイ――ッ!!」
その瞬間、圭の背後に無数の光の魔法陣が展開する。
そこから放たれたのは、極太のレーザーのごとき眩い光の矢。
一筋の閃光が夜の闇を切り裂き、真っ直ぐに化け物へと降り注ぐ。
直撃。轟音と共に、つい先ほどまで聖騎士たちを絶望させていたジャイアントダークスケルトンの巨体が、一瞬で蒸発した。
あとに残ったのは、ただの静寂だ。
聖騎士たちは、あまりの光景に口を開けたまま、石のように固まっていた。
圭はゆっくりと、何事もなかったかのように地面に着地する。
心の中では『よっしゃあ!俺のカッコよさ、完全に世界を凌駕したわ!今の指パッチン最高に決まったろ!』と大興奮していたが、顔には徹底して余裕の笑みを張り付かせる。
「き、きみは一体……何者なんだ……?」
冷や汗を流しながら、聖騎士隊長が震える声で問いかけた。
(キタキタキタキタ!名前聞かれた!よーし、ここはお約束通り、大物っぽくあえて名乗らないスタイルでいくぜ!)
圭はふっと視線を斜め下に落とし、フッ、と鼻で笑って背中を向けた。
「ふん……名乗るほどのものじゃねーよ」
「そんな、あれほどの化け物を一撃で……!」
「ま、どうしても俺に用があるなら……。あー、そうだな。ユルトの街の冒険者ギルド。そこに俺の所属がある、とだけ言っておくか」
(本当は小田圭って言いたい!めちゃくちゃ言いたい!聖騎士団の公式記録に俺の名前刻んでほしい!ユルトの街のギルドに来てね!絶対探してね!)
内心では自分の名前を言いたくてのたうち回りながらも、圭は「じゃあな」とだけクールに言い残し、漆黒のコートをなびかせて夜空へと飛び去っていった。
残された聖騎士たちは、ただただその圧倒的な背中を、畏怖の念を込めて見送るしかなかった。
沈黙を破ったのは、副隊長だった。
「隊長……あの、聞き間違いでなければ、彼は今『名乗るほどのものじゃねーよ』と言っていましたよね?」
「あ、ああ。確かにそう言っていたな……」
「しかし、その直前の大魔法の詠唱で……」
「ああ、 我が名は『オダ・ケイ』と、フルネームを叫んでいたな……」
聖騎士たちは全員、同じことを思っていた。
「……お、おそらくだが、何か深い意味があるのだろう! ユルトの街の『オダ・ケイ』殿だな! 覚えておこう!」
隊長は無理やり納得し、深くうなずいた。
新章が開幕しました!
1話目は新キャラクター、小田圭の視点からスタートです。
次回(明日の朝8時更新)、この新キャラが、シャルばあと衝撃の出会いを果たします!新キャラの目から見たシャルばあがどれだけ規格外なのか……ぜひ今後の更新を楽しみにお待ちください!




