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第四十七話 若き辺境伯の執着と、食の大革命

ヴァルハイト帝国の国境沿いに位置する、広大なエドワード辺境領。


その中心に厳めしくそびえ立つ辺境伯城の執務室において、当主であるエドワードは、デスクの上に山積みにされた驚異的な数字の報告書を前に、感嘆とも畏怖ともつかぬ複雑なため息を漏らしていた。


「……信じられん。ただの国境の開拓村だった場所が、今や我が領、いや、この帝国の経済そのものを揺るがす巨大な心臓部と化しているとはな」


独身でありながら、その若さで広大な辺境領を完璧に統治する有能な怪物、エドワード。彼はただの地方領主ではない。ヴァルハイト帝国の現皇帝陛下からの覚えが極めてめでたく、若くして『我が右腕として、首都へ来てこの帝国の未来を担ってくれ』と絶大な信頼を寄せられている、国家レベルの超重要人物であった。今回のおイモ大革命によって、お膝元の辺境領を爆発的に豊かにした圧倒的な実績も加わり、今や帝国全土における彼の影響力は、中央の老獪な貴族たちをも畏怖させるほど著しく広がっている。


だが、彼が帝国の首都からの度重なる招集すら突っぱねて、この辺境城に留まり続けている理由はただ一つ。デスクの上の、エデン村の「大農園」から届いた、最新の収穫および交易のデータであった。


エドワード領内で起きている「食のパラダイムシフト(大革命)」は、すでに隣のグランベル王国の王都で起きている大ブームなど遥かに凌駕する規模に達している。シャルロットから伝授された、大豆や小麦を計画的に育てる『輪作』の知識。これによって肥え太った広大な大地からは、連作障害を引き起こすことなく、家畜の餌同然だったジャパイモが地平線の果てまで文字通り山のように収穫され続けていた。


さらに、マルク商会を通じて交易所からハチミツや干し肉がジャンジャンと集荷され、シャルロットが考案したフライドポテトやチップスといった革新的なイモ料理が領内に爆発的に広まった結果、領民たちの生活は根底からひっくり返るほどの激変を遂げていた。


寒さの厳しいエドワード領において、冬の飢えは常に命がけの死活問題であったはずだ。それが今や、領民たちはもたらされたイモ料理によって、身も心もこれ以上ないほど豊かに満たされている。

当然、餓死者など一人として出るわけもなく、領民たちがエドワードへ寄せる支持と忠誠心は、もはや狂熱的な神格化のレベルにまで跳ね上がっていた。


「あの可憐な少女がもたらした知恵袋は、我が領を救うどころか、帝国全土を胃袋から支配するほどの莫大な富の源泉そのものだったというわけか……」


エドワードは背もたれに深く体を預け、鋭い目をギラギラと輝かせた。


最初は、グランベル王国の旧友アルベルトから「妹を厳重に保護し、動向を監視してほしい」と、大真面目な顔で公文書を突きつけられたから預かっただけに過ぎなかった。

だが、現在のシャルロットは、エドワード領にとっても、ヴァルハイト帝国の安全保障にとっても、決して手放してはならない「生きる至宝」だ。


だからこそ、彼は村へ大農園の守護という名目で守備隊や憲兵を大量に増員し、ガチガチの要人警護体制を敷いて彼女を囲い込んだ。

だが、帝国の未来を担う独身の男としてのエドワードの胸中に渦巻く本音は、もはや単なる「要人の保護」という大義名分だけでは、到底収まりきらなくなっていたのである。


(あの恐ろしいほどの知恵を持ちながら、縁側でお茶をののほほんと啜る、完璧な美姫――シャルロット。……あのお嬢様を、グランベル王国へ返すなど損失の極み。何が何でも、我がエドワード領の、いや、私の妻として永久に独占してみせる)


エドワードは机の上の報告書を力強く握りしめ、その有能な頭脳で、大真面目な顔をして不届きなアプローチのロジックを組み立て始めていた。


グランベル王国側ではアルベルトが「初代首相」の座に就任し、我が妹のための完璧な安全圏を作ったとドヤ顔で迎えにくるだろうが、エドワードとて一歩も引く気はない。


「――おい、ギルバートたちからの定期報告はまだか。シャルロット嬢の次なる動向を早く持ってこい」


若き大領主エドワードの、底知れぬ独占欲と執着の炎が静かに燃え上がるなか、エデン村の至宝を巡る、新たなる大騒動の幕が今、静かに上がろうとしていた。

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