表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
51/84

閑話(終) 氷の貴公子の執着と初代首相の誕生 (お兄様視点)

「……アルベルト。もう私の胃は、薬を受け付ける段階をとうに通り越してしまったよ。君はとうとう、この国の歴史そのものを真っ白に片付けてしまったじゃないか……」


新設された『首相執務室』。


親友であり、今や私の有能な補佐官となったクロードが、ゴーストのように青白い顔で自らの腹部を押さえながら、デスクに積まれた『近衛配置換懇願書』と『国家体制移行宣言書』の山を見つめて、魂の抜けたようなため息を吐いた。


「何を言うんだ、クロード。私はただ、不要な制度と害虫どもを綺麗に掃除しただけだよ」


私は手元の最高決裁書類にササッとサインをしながら、冷徹な仮面の裏で、ふっと不敵な笑みを浮かべた。


すべては、あの愚かなジークハルト殿下が、直属の近衛兵を率いて国境の開拓村――エデン村へ傲慢に侵入し、あろうことかシャルロットの護衛騎士であるギルバートに刃を向けようとした、あの決定的な失態から始まった。


他国の辺境領に無断で侵入し、その領主直属の近衛騎士をその手にかけようなど、全面戦争を引き起こしかねない正気の沙汰とは思えぬ大暴挙。王都へ逃げ帰ってきた近衛騎士たちは、一様に顔面を真っ青に硬直させ、「どうか、どうか配属を変えてください……! あんな国際問題を引き起こす狂った殿下には、もはやついていけません……っ!」と、自らの命を守るためにクロードへ泣きついて懇願してきたのだ。


身内の騎士にすら完璧に見限られ、裏の協力者もすべて私が合法的に排除した今、あの生意気な王太子は完全に孤立無援となった。


そこへ追い打ちをかけるように、隣国の帝国から一通の親書が我が国へ突きつけられた。それは、ジークハルト殿下による不法侵入と軍事挑発を烈火のごとく糾弾し、一歩間違えれば即座に開戦も辞さないとする、事実上の最後通牒――極めて深刻な外交問題の親書であった。


私はその決定的な狂気と危機の証拠を逃さず、国王陛下に対し「現王太子にはこれ以上、国政を預かる資格はありません。帝国の怒りを買い、国を滅ぼしかけた愚者を戴くわけにはまいりません」と、冷徹に廃嫡を進言した。もはや言い逃れの不可能な大失態と帝国からの強硬な姿勢文を前に、陛下もそれを受け入れるほかなかった。


そして、後継ぎのいなくなった王国に対し、私は以前から議論されていた、王の一独裁ではない議会制への移行を極めて合法かつ合理的に進言したのだ。


民衆の圧倒的な支持を得て、王都の新たな経済の生命線であるおイモの利権をすべて握っている我がローゼンバーグ公爵家に、逆らえる者など王宮にはもう一人も存在しない。

逆らう者には、職を辞すか、不正で捕まるかの二択しか与えなかった。結果、王宮の腐った陰謀勢力は、今や一掃されることとなった。


「公爵家のお金を流用して殿下に媚びを売っていた父上たちも、大人しく遠くの別荘へ強制隠居させられた。……これで我が家を脅かす障害はすべて消えたな」


結果、腐った王政は泡を吹いて一掃され、本日、新たに発足した議会において、この私が「初代首相」の座に就任することとなった。

次期当主として、一族の長として、家族の安全と名誉を完璧に守るための当然の義務を果たしたまでだ。これのどこに加減を誤る要素があるというんだ。


「国家規模の危機どころか、国の体制そのものを丸ごと利用して、自分の実家乗っ取りと王国の完全なシステム移行を同時に完遂させちゃうなんてね……。本当に、妹のことになると加減が利かなくて恐ろしい男だよ、君は。……あ、ハイ、そうだね。君が正しいよ。何も間違っていないさ」


クロードが諦めたように手元の書類に目を落としながら、突っ込んでも無駄だと机に突っ伏した。私はその親友の視線を余所に、開け放たれた窓の外を見下ろした。


城下町は、新しい時代の幕開けと、おイモ料理によって飢えから救われたことへの感謝から、我がローゼンバーグ家を称える民衆の熱狂的な歓声で沸き返っている。


窓の外のまばゆい喧盛を見つめながら、私は「氷の貴公子」の名に恥じぬ凍てつくような、けれど狂おしいほどの歓喜を孕んだ冷酷な微笑を浮かべた。


すべては、我が愛しき妹の平穏のためだけに。


お前を不当に貶めた王宮の害虫どもは、この私が一匹残らず駆除してやった。王太子の権力も、腐った身分の壁も、お前を脅かすものはこの国のどこを探しても、もはや何一つ存在しない。


システムごとすべてを真っ白に片付けて、私はお前のための「完璧な絶対安全圏」を今ここで完成させたよ。


「――さぁ、待っていなさい、シャルロット」


私は愛しき妹の面影を脳裏に描き、胸の奥で熱く、激しく執着の炎を燃え上がらせた。


私はやり遂げたよ。もはやこの国にお前を脅かすものは誰もいない。国家の全権は私の手の中にある。

さあ、これでもう、あの辺境の村に引きこもる大義名分はなくなったはずだ。お前は完璧な安全が約束された、この私の元へと帰ってきてくれるんだろ?

いや、帰ってこなければならない。長男としての義務を果たした私には、お前をこの腕で生涯守り抜く正当な権利があるのだから――。


私は不敵な笑みを浮かべながら、初代首相としての最初の公文書へと、冷徹にペンを走らせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ