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第四話 ぶらり散歩と、運命の「ジャパイモ」発見

「ふふ、お日様がぽかぽかと暖かくて、とっても気持ちが良いですこと!」


お部屋に荷物を置いた私は、お気に入りの手鏡だけを懐に忍ばせて、さっそく村の探索へと出かけたの。

歩くたびに土の柔らかな感触が足の裏から伝わってきてね、なんだかそれだけで寿命が延びるような気がしちゃうわ。


山の斜面に沿って段々に広がる畑では、麦の若い芽が風にさらさらと揺れているの。

その向こうでは、素朴な麻の服を着た村人さんたちが、クワを振るって一生懸命に土を耕していたわ。


私が「こんにちは、良いお天気ですねぇ」なんて、近所のおばあちゃんよろしく笑顔で手を振ったら、みんな最初こそ「おーい、綺麗なご令嬢が来たぞ」って驚いていたけれど、すぐに「こんちは、お嬢さん!」って、汗を拭いながら温かい笑顔を返してくれたのよ。


道端に目を落とせば、日本のタンポポにそっくりな黄色い野花が元気に咲いていてね。

「あらあら、まあまあ。こんなところにヨモギに似た野草が生えてるじゃないの。これ、お団子に入れたら美味しそうだわぁ」


なんて、132歳のおばあちゃんセンサーを働かせながら歩みを進めたわ。


村の奥まで歩いていくと、冷たくて透き通った小川がサラサラと流れる、日当たりの良い南向きの空き地を見つけたの。

「ええ、ここ、とっても素敵ですこと! ここに平屋を建てて、南側に広ーい縁側を作りましょうかねぇ。マルクさんからもらったあのお茶を啜るには、これ以上ない特等席だわ」


なんて、頭の中でマイホームの図面を広げて、すっかりウキウキしちゃった。


そんな充実したお散歩をぐるりと一回り終えて、私はマルクさんの交易所へと戻ってきたわ。


交易所の中は、木のいい香りが漂っていてね、

奥のほうではマルクさんが村人さんたちと熱心に商談をしている声が聞こえるわ。

私は邪魔をしないように足音を消して、生活雑貨や食料品がずらりと並んでいる棚のほうへと向かったの。


だって私、二回目の人生では長年主婦をやっておりましたのでね。

隠居生活を始めるにしても、まずは毎日のご飯をどうするかが一番の大事。

どんなお野菜や干し肉が手に入るのか、自分の目でしっかり確かめておかないと気が済まないのよ。


「どれどれ、この辺りの干し肉は塩気が強そうだから、スープの出汁に使うと良さそうねぇ。お野菜は……あら?」


カゴに盛られたお野菜を一つずつ手に取って眺めていた、その時だったわ。


棚の片隅、藁の敷かれた籠の中に、ゴロゴロと転がっている茶色くて丸い、少し土のついた塊が目に飛び込んできたの。


王都の高級市場では、見たことも聞いたこともないお野菜。

貴族たちが好むような、きらびやかで上品なウリやトマトとは程遠い、なんとも泥臭い見た目の塊。


だけど、私の目は一瞬で釘付けになっちゃった。


「あら……? あらあら、まあまあ! これって、まさか……!」


そっと手を伸ばして拾い上げ、指先で土を払ってみる。

少しゴツゴツとした皮の感触。芽が出かかっている窪み。間違いないわ。

これ、前世の日本の食卓で、それこそ数え切れないほどお世話になった「ジャガイモ」にそっくりじゃないの!


この世界では、洗練されていない辺境の「貧しい人の食べ物」として扱われているのかしらね。だから王都の市場には出回っていなかったんだわ。


「これを上手に料理すれば……王都のきらびやかな宮廷料理では逆立ちしても食べられなかった、あの『肉じゃが』が食べられるんじゃないかしら!?」


日本の味が恋しくなっていた私には、もうご馳走にしか見えないわ。

だけど、次の瞬間、私はお芋を抱えたままピタッと動きを止めちゃった。


(……待ちなさいな。肉じゃがを作るとなると、調味料はどうしましょう?)


そうなのよ。肉じゃがに絶対欠かせない「醤油」や「みりん」、そして「お砂糖」なんて、この中世ヨーロッパ風の異世界の、しかもこんな端っこの開拓村にあるはずがないのよね。

お塩とハーブなら棚にあるけれど、それではただのポトフになっちゃうわ。


(せっかくお茶を手に入れて、ジャガイモまで見つけたっていうのに、調味料という高い壁にぶつかっちゃうなんて、とっても残念……)


私が腕にお芋を抱えたまま、「うーん」と深刻な顔で棚の前で悩み込んでしまった、まさにその時よ。


「これはこれは、シャルロット様」


奥の商談を終えたマルクさんが、何やら一枚の書類を手に、額にじっとりと汗をかきながらこちらに歩いてきたわ。


手渡されたその書状をチラリと見てみれば、文字やバツ印が書き殴られていてね。OLだった私には、商談が上手くいっていないのがありありと分かっちゃった。


「あらあら、まあまあ。マルクさん、 額にすごい汗よ」


「シャルロット様...... 実は村長との商談が難航しておりまして。この『エデンの開拓村』を軌道に乗せるために、中央の商会に認められるような『村の特産品』を作りたいのですが、アイデアが尽きてしまったのです」


マルクさんはがっくりと肩を落として、ため息をついたわ。


「王都で流行りの高級ハーブや、手間のかかる織物なんかも候補には挙がったのです。ですが、ここはまだまだ貧乏な開拓村。畑を耕し、日々の食料を確保するだけで全員手一杯で、新しい産業に振り分ける人手が圧倒的に少ないのですよ……。もっとこう、手間がかからなくて、特別な技術も要らず、それでいて大量に獲れて商品になるものはないだろうか、と頭を抱えていたところでして……」

要するに「人手が足りないから、ほったらかしでも勝手に育って、たくさん収穫できる作物はないか」ってことね。


(……あら? それなら、ちょうどいいじゃないの)


私は、腕に抱えていた茶色くて泥臭いお芋を、マルクさんの目の前にすっと差し出したわ。


「マルクさん。それなら、これがいいじゃない」


「え? その『ジャパイモ』ですか……? いえいえシャルロット様、それは王都の貴族様どころか、街の平民ですら見向きもしない、辺境の貧しい人たちが飢えを凌ぐためだけに齧るような雑草同然の芋ですよ? 特産品だなんて、まさか……」


マルクさんは呆れたように苦笑い。


「マルクさん、このお芋はね、痩せた土地でも、大したお世話をしなくても、土の中に埋めておくだけで勝手にゴロゴロ増える、とっても親孝行なお野菜なのよ。人手が足りないこの村には、これ以上ない救世主じゃないの」


「は、はあ……確かに栽培は驚くほど簡単だと村長も言っていましたが、買い手がいなければ意味がありませんよ?」


「買い手がいないなら、美味しくして私たちが流行らせればいいのよ。醤油やみりんがなくても、これだけ立派なお芋ならね、お塩をパパッと振って、そこの鉄瓶で蒸かすだけで、ほっぺたが落ちるほど甘くて美味しくなるんだから。油でお野菜と一緒にカリカリに揚げ焼きするだけでも、手が止まらなくなるおやつになるわよ」


シンプルな味付けだからこそ、素材の旨味が引き立つもの。

お塩と油なら、ここの交易所にもたっぷりあるものね。


「マルクさん、村長さんたちをここに呼びなさいな。今から私が、この泥臭いお芋を『一皿100ウェン』でも飛ぶように売れる絶品料理に変えてみせるわ」


私が不敵に微笑むと、マルクさんは「は、はいぃ!」と大急ぎで村長たちを呼びに走っていったわ。


さあ、調味料の壁なんて、おばあちゃんの手料理の工夫で美味しく乗り越えてみせましょう!

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。もし少しでも楽しんでいただけましたら、一言感想をいただけたり、ブックマーク・評価などで応援していただけると励みになります。また次の話でお会いできるのを楽しみにしています。

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