第三話 道中はにぎやかに、到着したらのんびりと
マルクさんの商隊に同行させてもらってからの旅路はね、それはもう退屈しないにぎやかなものだったわ。
道中、数回の魔物遭遇や夜盗遭遇があったんだけど、そこは護衛の冒険者パーティー『鉄壁の四重奏』の男の子4人が「ここは俺たちに任せて、お嬢様方は馬車の中へ!」なんて格好よく盾になってくれたのよ。
まぁ、彼らが苦戦する前に、私が無音でササッと裏に回り込んで、敵をコロリと気絶させちゃったんだけどね。
男の子たちは「あれ? 俺たちの一撃、いつの間にあんなにキレ味増したんだ!?」なんて不思議そうに首を傾げていたけれど、全部彼らの手柄にしてお譲りしちゃいましたわ。めんどくさいもの。
そんな私の「裏工作」に唯一、なんとなく違和感を覚えていたのが、後衛の魔法使いの女の子(16歳)だったの。彼女、前衛の男の子の1人の実の妹ちゃんでね、お名前をリリィちゃんというのよ。
でもね、私が「あらあら、まあまあ」っていつもの笑顔で煙に巻いていたら、いつの間にかすっかり仲良くなって、お友達になっちゃったわ。
「ねえねえ、シャルロット様! シャルロット様ってあの王太子殿下の元婚約者様だったんですか!?」
馬車の席で、彼女は目をキラキラ輝かせながらキャピキャピと騒ぎ出したわ。やっぱり16歳の女の子って、こういう恋バナが本当に大好きなのよねぇ。
「そんないいものじゃないわよ。あの方、いつもツンツンしていて、私とは全然お話が合わなかったし。今回は、ほら、あちらがお可愛い男爵令嬢に夢中になっちゃったから、お譲りしましたの」
達観気味にそう返事をしたんだけど、りりィちゃんは「ええーっ! 泥棒猫に奪われたってことですか!? シャルロット様、こんなに綺麗で素敵なのに、悔しくないんですか!?」って、さらにキャピキャピと身を乗り出してくるじゃない。
(うふふ、若いわねぇ~……)
精神年齢132歳のおばあちゃんからすれば、10代の恋愛なんて「おままごと」みたいな可愛いもの。
孫の恋愛相談を縁側で聞いてあげているような、なんとも微笑ましい気持ちになっちゃったわ。
そんな賑やかな旅路の末、馬車が大きく揺れるのをやめて、ゆっくりと速度を落としたの。
「シャルロット様、到着です!」
ハンスさんの声に誘われて馬車の窓から顔を覗かせると、そこには私の理想を絵に描いたような光景が広がっていたわ。
山の間にすっぽりと挟まれた、広くてとーっても喉かな山間の村。
ぐるりと見渡しても、木と土で作られた素朴な家がぜんぶで15軒ほどしかない、本当に小さくて静かな集落よ。
都会の喧騒なんてどこ吹く風、高い建物なんて一つもなくて、遮るもののない青い空がどこまでも広く感じられるわ。
馬車の扉が開いた瞬間、胸いっぱいに流れ込んできたのは、ひんやりとした澄んだ空気。
それに、どこか懐かしい瑞々しい新緑の匂いと、かすかに香るお日様の匂いが混ざり合って、お肌にすーっと染み渡るようだわ。
遠くからは、優しくせせらぐ小川の音と、のんびりとした鳥のさえずりしか聞こえないの。
(あぁ……これよ、これ! 私が求めていた隠居先は、まさにこういう場所ですわ!)
王宮でギスギスした痴話喧嘩に巻き込まれるより、こういう田舎で静かに暮らす方が、よっぽど寿命を延ばすってものよね。
マルクさんはさすが大商人だけあって、この小さな村の一角に、すでに立派な丸太造りの「交易所」を建てていたの。
周囲の素朴な家々に比べると少し立派で、荷馬車が何台も停められる広い敷地があるわ。
「シャルロット様、まずは我が商会の宿泊用の建物を使ってください」
マルクさんがそう言ってくれたので、お言葉に甘えてそこの一室にお世話になることにしたわ。木の香りが優しく漂う、とても清潔で落ち着くお部屋よ。
「それではシャルロット様、私は交易所の荷下ろしと村長への挨拶に行ってまいります!」
「俺たちも村の周囲を警戒してくる!」
「シャルロット様、お散歩されるなら気をつけてくださいね! また後でお話ししましょう!」
マルクさんたちや、お友達になったリリィちゃんたち『鉄壁の四重奏』のメンバーは、到着早々にお仕事があるみたいで、それぞれバタバタと出かけて行ったわ。本当、若い人はみんな働き者で感心しちゃうわね。
「それじゃあ、私はお言葉に甘えて、のんびりお散歩でもさせてもらいましょうかねぇ」
お部屋に荷物を置いた私は、お気に入りの手鏡だけを懐に忍ばせて、さっそく村の探索へ出かけることにしたの。
一歩外へ出ると、お日様の光がぽかぽかと暖かくて、歩くたびに土の柔らかな感触が足の裏から伝わってきて、とっても気持ちが良い。
(さてさて、お散歩をしながら、私の『縁側付きマイホーム』を建てるのにちょうど良い土地も探さなくっちゃね。あのお茶を美味しく啜るための準備、本格的に始めちゃいましょうかねぇ)
私は胸を躍らせながら、どこまでも穏やかな山間の村を、一歩一歩のんびりと歩き進めていくのでした。




