第四十一話 国境を繋ぐ一大流通ルート(前編)
「シャルロット様、もしよろしければ、この春の陽気の中に、私と一緒に大農園やあちらの集荷場を回ってみませんか?ぜひこのエデン村の偉大なる発展の姿を、その目で見ていただきたいのです!」
『じゃがバター醤油焼き』のあまりの美味さにすっくと立ち上がって絶叫し、ようやく一息ついたマルクさんが、熱い目を輝かせながらそんな提案をしてくれたの。
「あら、まぁ! それは素敵な提案ですわね。わたしも最近は我が家の庭先の畑にばかりつきっきりでしたから、皆さんが頑張ってくださっている大農園がどうなっているのか、とっても興味がありますことよ」
私がにっこりと微笑んで頷くと、横でお口をモグモグさせていたアイちゃんが「わぁ、私も一緒に行きたいな!」と、無邪気な笑顔で手を挙げたわ。
「ふふふ、もちろん一緒に行きましょうねぇ」
縁側の隅で、肉じゃがの美味しさに感動の涙目を浮かべたままフリーズしていたギルくんが、私の言葉にハッと我に返り、クワをパッと置いてこれ以上ないほど生真面目なお顔で胸を張ったわ。
「シャルロット様! 大農園や交易所は、今や多くの人々や馬車が行き交う活気あふれる場所にございます!一時クワを剣に持ち替え、全力を以て皆様の護衛を拝命いたしますッ!」
「まぁまぁ、頼もしいことですわねぇ。それじゃあギルバート様、よろしくお願いいたします」
ギルくんが「はっ!」と鋭い返事をして、クワの代わりに流麗な銀色の剣を腰にカチッと帯び直す姿は、泥まみれだったさっきまでの農家さん姿が嘘のようね。
こうして、私とマルクさん、アイちゃん、そしてすっかり騎士の顔に戻った護衛のギルくんの四人で、見違えるような大発展を遂げたエデン村の心臓部へとお散歩に出発することになったの。
うららかな春のそよ風が、私たちの袖を優しく揺らす中、我が家の門を一歩踏み出した私たちは、まずは地平線まで広がるというあの大農園の方へと、のんびり足取りも軽く歩き出したのだった――。
◇
「シャルロット様、まずはあちらの広大な『大農園』のほうから回ってみましょう。エデン村の全ての豊かさが、あそこから始まっているのですから!」
マルクさんが熱い目を輝かせながら先導してくれて、私とアイちゃん、そしてすっかり騎士の顔に戻って周囲を警戒してくれているギルくんの四人で、のんびりと歩き出したの。
我が家の庭先を少し離れると、そこにはもう、私が最初に来た頃の寂れた開拓村の面影なんて一ミリも残っていない、息を呑むような大パノラマが広がっていたわ。
「まぁ……! 本当に、見渡す限りの地平線まで、青々とした緑が広がっていますわねぇ」
思わず足を止めて感嘆の声を漏らしてしまった私の横で、アイちゃんも「すごーいっ! これ、全部おばあちゃんが教えた『輪作』で育ててるんだよね!?」って、無邪気な笑顔で目をキラキラ輝かせているわ。
そうなのよ。エドワード様が国費で建設してくれたこの大農園ではね、辺境伯様が手配してくれた大勢の農業のプロの職人さんたちが、毎日それはそれは活気に満ちた声を掛け合いながら働いてくださっているの。
ある区画ではおイモがすくすくと育ち、別の区画ではお醤油やお味噌の原材料になる大豆や小麦が完璧に計画されて「輪作」されていて、どこを見ても土がふかふかに肥えているのが本当によく分かりますわ。
「国境近くにこれほどの莫大な利権と物資が集まるからこそ、我らエドワード伯爵様の騎士団がここに駐留する軍事的な意味も跳ね上がるというもの」
目を細めてギルくんがつぶやく。
「まぁまぁ、頼もしいことですわねぇ」
私が歩きながらニコニコと微笑むと、職人さんたちの収穫したおイモを山積みにした馬車が、パカパカと小気味いい蹄の音を響かせながら、大農園から次々と集荷場の方へと向かって走り出していくのが見えたわ。
「あ、おばあちゃん見て! おイモを乗せた馬車が、あっちの大きな建物のほうへ向かっていくよ!」
アイちゃんが楽しそうに指差した先には、かつての小さな面影を完全に無くした、あの巨大な交易所の屋根が見えているの。
大農園で実った豊かな大地の恵みが、あそこに集まって、そこから王都や隣国へと繋がっていくのねぇ。
「ふふふ、それじゃあアイちゃん、私たちもあの馬車を追いかけて、次は新しくなった集荷場と交易所を見に行きましょうか」
うららかな春の光が降り注ぐ中、私たちは職人さんたちに「ご苦労様ですわ」と手を振り返しながら、物資が次々と運び込まれていくエデン村の次なる重要拠点へと、のほのほんと足取りも軽く向かうのだった。




