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第二十六話 エデン大農場と、お味噌とお醤油の足音

「わぁ……! あっちにもこっちにも、人がいっぱいですわねぇ」


私が完成したばかりの我が家の縁側に腰掛けて、淹れたての緑茶をズズッと啜っていると、のどかだったエデン村の入り口から、とんでもない数の人馬が土煙を上げて次々と入村してきたのよ。


それはね、お芋のあまりの美味さと「輪作」という新しい知識に心を奪われてしまった優秀な領主様のエドワード様が居城へ戻ってすぐに手配してくれた、大量の職人さんや人足の皆さんだったわ。「一刻も早く大規模な大農場を国費で建設せよ!」という領主様の物凄い執念のせいで、村の周りの荒れ地はあっという間に切り開かれ、大規模な大農園へと大改造され始めたの。


それだけじゃないわ。ビジネスパートナーであるマルク商会のマルクさんも、王都から大勢の若手商人や荷馬車を送り込んできたの。国境近くの物流ルートを騎士団で保護してもらいながら、一大流通を行うための巨大な倉庫が建ち並んでいくじゃないの。


(あらあら。領主様と大商人さんが本気を出すと、こんな辺境の村がまるで賑やかなお城の城下町みたいになってしまいますわねぇ)


そんな周囲の大騒ぎを横目に、私は我が家ののどかなお庭で、ギルくんたちにハッシュドポテトを食べさせながら、のんびりとお茶を啜って過ごしていたの。


◇◇◇


――それから、数ヶ月の月日が流れたわ。


村の周りの広大な大農園では、持続可能な『輪作』が本格的に始まっていたの。ファーストロットのジャパイモが見事に大量収穫された後、次のエリアには一面に『大豆』が青々と植えられ、収穫の時期を迎えていたわ。


大農園のそんな様子を眺めつつ、我が家のお庭にある私の小さな畑でも、同じように収穫の秋がやってきたのよ。


「シャルロット様! お嬢様の仰った通りに大豆を植えたら、このお庭の畑の土も、驚くほどホクホクに肥えました! 本当に素晴らしい知恵です!」


収穫したばかりの大豆が入った麻袋を、泥だらけの顔で誇らしげに運んでくるギルくんの姿を見て、私は縁側で「まぁ、まぁ!」と、これ以上ないほど激しく胸を躍らせて大喜びしちゃったわ。


だって、大豆がこれだけ大量に獲れたということはよ?

前世の体に染み込んだ長年の主婦の知恵が、ついに火を吹く時が来たのよ!ずーっと恋焦がれていた、日本の伝統的な万能調味料――『お味噌』と『お醤油』が、ついにこの世界で手作りできるようになるんですもの!


「まぁ、素晴らしいです、ギルバート様。その大豆、よく乾燥させておいてください。これから、とーっても美味しい調味料を作りますのよ」


私が完璧なお嬢様スマイルで袖をまくり上げる横で、ギルくんたちは「お、お味噌とお醤油……? あのシャルロット様が作る聞いたことのない調味料……!」と、大真面目に目を丸くしていたけれど、私は上品に知らんぷりをしておいたわ。


ちなみにね、この世界にはお味噌に欠かせないお米がないのだけれど、そこはおばあちゃんの知恵袋ですわ。大農園でこれでもかと大量に収穫された大麦を譲り受けてね、あたたかいお部屋でじっくり寝かせて、特製の『麦麹』を起こしたのよ。

それを乾燥させた大豆とお塩と合わせて、樽の中で数ヶ月間、じっくりと熟成させるつもりなの。お米がなければ麦で作る。前世の日本の田舎で愛されていた、あの芳醇で香ばしい甘みのある『麦みそ』の仕込みは、こうして私の手でバチッと完了していたわけ。


そんな風に私が辺境の平穏な縁側で、のんびり大豆を弄っていた時のことよ。


新しく村にやってきたマルク商会の若手商人さんたちがね、おばあちゃんへのお土産話として、現在の王都の様子をとっても嬉しそうに聞かせてくれたわ。


商人さんたちの話によると、マルクさんが大量の人手をかけて運んでいった我が家のジャパイモは、王都の城下町で凄まじい大流行を巻き起こしているらしいわ。


王都の市場や酒場にはお芋が溢れかえり、城下町の大通りには、あのカリカリのフライドポテトやハッシュドポテトを揚げる『ポテト料理の屋台』がズラリと建ち並んでいるんですって。


夕暮れ時の王都の街にはね、香ばしいお油の匂いと、お塩とお芋の焦げるたまらない良い匂いが、お腹を空かせた人々の鼻腔をこれでもかとくすぐるように漂っていて、王都の平民から若い貴族の子たちまで、大喜びで胃袋を掴まれているそうよ。


王都の城下町がおばあちゃん発のポテト料理の香ばしい匂いで完全に支配さたのを、私はお土産話を聞きながら、うふふと目を細めて楽しむのでした。

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