第二十四話 涙と笑顔の旅立ち(第二部 完)
エドワード辺境伯様が「すぐに我が領の総力を挙げて大農場を建設する!」と、契約書を大事に抱えてホクホク顔で居城へ戻られてから、数日後のこと。
村の警備にギルくんたち騎士団が正式に駐留することになり、このエデン村の安全が保証されたところで――ついに、その時がやってきたわ。
「シャルロット様。ここでの生活も慣れてきて惜しいですが……俺たち『鉄壁の四重奏』はマルクさんの商隊の護衛として、これにて王都へ帰ります!」
新しく完成した我が家の縁側。
旅支度を整えたロイくんが、少し寂しそうな、でもどこか晴れやかな顔で私にそう告げたわ。
「あぁ、ついに旅立ちの時ですか……」
私が目を細めて微笑むと、お調子者のカインくんが「ええーっ、僕ちゃん本当はもっとシャルロット様の側で格好いい護衛姿をお見せしたかったのにー!」と大げさに泣き真似をしてみせる。
ハンスくんも「……うん、王都に帰るより、この村でシャルロット様の職人技をずっと見ていた方が、僕の斥候としてのスキルが上がる気がするけど」なんて、すっかりおばあちゃんリスペクトに染まった目で微笑んでいるわ。無口なガイルくんに至っては、何も言わずにただ寂しそうに視線を落としていたわね。
「皆さん、ここへ来るまでの物騒な道中から、お家を建てるのまで、本当にたくさんお手伝いしてくれてありがとうございました。皆さんのおかげで、私はこんなに素敵な暮らしを始められましたわ」
私が縁側から立ち上がり、一歩前に踏み出すと、男の子たちとリリィちゃんは真っ直ぐに私を見つめたわ。
私は、前世の日本で愛おしい孫たちを送り出していたあの時のように、自然と手が動いていた。
「ロイくん、いつも苦労性で行儀よくメンバーをまとめて偉かったわ。夜道は冷えるから、ちゃんと暖かくして進んでくださいね」
まずはリーダーのロイくんの頭を優しく、よしよしと撫でてあげたわ。ロイくんは「は、はい……!」と顔を真っ赤にしながら、嬉しそうに目を細めていたわね。
「ガイルくん、あなたは無口だけど気が優しくて力持ちで、本当に頼りになりました。お城に戻っても、お野菜をたくさん食べて健康に気をつけてね」
大きなガイルくんには手が届かないから、逞しいその肩をポンポンと優しく叩いてあげたの。ガイルくんは言葉には出さなかったけれど、大きな体を少し丸めて、とっても優しげな顔でコクンと深く深く頷いてくれたわ。
「カインくん、お調子者だけどあなたがいると場が明るくなって楽しかったわ。でもね、女の子をからかうのも程々にして、ちゃんとお仕事に励んでくださいね」
「はーい! シャルロット様に言われたなら、僕ちゃん真面目な冒険者になります!」と笑うカインくんの頭も、よしよしと撫でてあげる。
「ハンスくん、あなたの器用さと真面目な目は、これからもっと立派な職人……いえ、斥候になるわ。お茶を気に入ってくれて嬉しかったわ」
ハンスくんの頭も優しく撫でてあげると、「……うん。シャルロット様に褒められたのなら、きっとt一流になれるかな」と、嬉しそうに目を輝かせていたわ。
「そしてリリィちゃん。あなたのおかげで道中もとっても賑やかで楽しかったわ。王都に帰っても、お兄ちゃんの言うことをよく聞いて、可愛いお嬢さんでいてくださいね」
最後に、一番小さくて可愛いリリィちゃんを優しく抱きしめて頭を撫でてあげたら――リリィちゃん、目に涙をいっぱいに溜めて、私の服の裾をぎゅっと握りしめて声を震わせたの。
「うぅ……っ、シャルロット様ぁ……! 離れるの、寂しいです……っ! 大好きな、おばあちゃん……っ!!」
「ぶふっ!?」
真面目に聞いていたロイくんたちが、一斉に盛大なお茶を噴くような顔をしたわ。
リリィちゃんはハッとして、すぐに真っ赤になって口を両手で塞いだの。
「あ、ち、違うの! シャルロット様! あまりにも優しくて温かくて、田舎の私のおばあちゃんを思い出して、ついうっかり……っ! そ、その、大好きなお姉様です!!」
慌てて言い直すリリィちゃんが愛おしくて、私はうふふと上品に、けれど心から声を上げて笑ってしまったわ。
「いいのよ、リリィちゃん。私はとっても嬉しいわ。王都のややこしいお仕事が終わったら、またいつでも、この家をおばあちゃんの家だと思って、美味しいお芋を食べに帰ってきてね。縁側を広くして待っていますから」
「はいっ……! 絶対、絶対にまたお茶を飲みに来ますっ!」
リリィちゃんは涙を拭って元気よく笑顔を見せてくれたわ。
横でマルクさんも「シャルロット様、このジャパイモとお茶の流通網が王都に整いましたら、すぐにまた素晴らしいご報告とお土産を持って参りますよ」と、頼もしく微笑んでくれたの。
みんな、馬車に乗り込み、国境の向こうの王都へとゆっくりと出発していったわ。
「シャルロット様、お元気でー!」「またなー!」なんて、遠ざかる馬車からリリィちゃんたちがちぎれるほど手を振っている後ろ姿を、私は縁側に腰掛けて、目を細めながらひらひらといつまでもいつまでも、見送っていたの。
(みんな、道中気をつけるのよ。……可愛い孫たち)
面倒な王都の婚約破棄から始まった私の三度目の人生。
愛おしい仲間たちの温かい旅立ちを見届け、ギルくんに畑を守ってもらいながら、合計132歳のおばあちゃんシャルロットの極上の隠居スローライフは、ここからますます、穏やかに深まっていくわけでございます。
(第二部 完)
読者の皆様、第二部をお読みいただき本当にありがとうございました!
おばあちゃんの理想の我が家建築から始まり、夜のゴブリンお片付け、隣国領主との大農交渉まで、のんびりのはずが周囲が勝手に大勘違いしていく激動の章でした。
続く第三部では、シャルばあの元へ、あの男爵令嬢が命がけで逃げ込んできます。
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