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第十九話 騎士様に温かいお茶を

「シャルロット様、エドワード辺境伯様の使者であるギルバート殿をお連れいたしました」


しばらくすると、マルクさんが少し緊張した面持ちで、我が家の庭先へとお客様を案内してきたわ。その後ろについてきたのは、いかにも騎士らしくキリッとした顔立ちの、とーっても男前な若い男の子だったんだけど……。


(あらあら、まあまあ。随分と顔色がよろしくないわねぇ)


ギルバートくんというその騎士様、そしてお供の四騎の精鋭たちも、全員揃って一睡もできなかったのか、魂が半分口から抜けかかったような真っ青な顔をして、膝をガタガタと震えさせているじゃないの。よっぽど夕べ、森のゴブリンの群れが怖かったのかしらねぇ。


「は、初めまして……ッ。私はエドワード辺境伯直属の騎士、ギルバート・フォン・シュタインと申します……!アルベルト様より、シャルロット様のご動向を監視、いえ、お様子を窺うようにと、極秘の任務を帯びて参りました……!」


消え入りそうな声で、だけど必死に騎士の礼を取るギルバートくん。そんな彼の様子を、土間の横で相変わらずのんびりお茶を飲んでいたカインくんたちが、呑気にヒソヒソ話しているわ。


「まぁ、辺境伯様の居城からはるばるこんな領地の端っこまで、大急ぎでお使いにきてくださって、本当に嬉しいですわ。ギルバート様、夜道は物騒で、酷くお疲れでしょう?さあ、温かいお茶と、昨日の残りの美味しいおイモが温め直してありますから、まずはこれを食べて落ち着いてください。ほかの皆様も、どうぞ」


私は縁側から、淹れたての温かい緑茶と、大好評だったあのカリカリほくほくのフライドポテトを差し出したの。


「あ、ありがたき幸せ……」


ギルバートくんと四騎の部下たちは震える手で湯呑みを受け取り、ズズッと緑茶を啜ったわ。そして、勧められるままに金色のおイモを一口、齧ったのよ。


サクッ、ホクォ……。


その瞬間、騎士たち全員の真っ青だった目が、これ以上ないほど見開かれたわ。


(な、なんだこの美味いものは……!口の中を支配する濃厚な甘みと絶妙な塩気、そしてこの緑のスープが脂っぽさを完璧に洗い流していく……!それに、この食べ物は一体……!?)


「お口に合いましたかしら? これ、この村でたくさん獲れる『ジャパイモ』というお野菜なのですわ。マルクさんと協力して、いずれこの村の名産品にするつもりですの」


私がにっこり微笑みながらそう告げると、ギルバートくんはハグハグとおイモを口に詰め込みながら、畏怖と感動の目で私を凝視し始めたわ。


(そうか、そういうことか……!アルベルト様は『妹の監視を頼む』という冷徹な公文書を送りつつ、裏では夕べのあの化け物じみた暗殺者――あの『殺戮の天使』を、シャルロット様の絶対の護衛として密かに張り付かせていたのだ!あのような規格外の怪物が裏で目を光らせているのなら、お嬢様の安全は守られる。……いや、だからこそ、辺境伯の騎士である我らも、死に物狂いでこのエデン村の警備を完璧に全うしなければ……!)


ギルバートくん、おイモのあまりの美味しさと、我が家ののどかな空気、そして夕べの遭遇が合わさったせいで、責任感に凄まじい火がついちゃったみたいね。急にキリッとやる気を出したけれど、よっぽどゴブリンたちが怖かった反動かしらねぇ。


「ギルバート様、おイモはお代わりがたくさんありますから、遠慮しないでたくさん召し上がってくださいね」


「は、はっ……!エドワード様には、このエデン村が、あの『御方』の庇護のもとにあること、そして我ら騎士団も全力でこの地を死守すること、そのようにご報告書を認めさせていただきます……っ!シャルロット様、これより我ら、この村の防衛強化のために、命を賭して駐留させていただきます!」


ギルバートくんは力強く頭を下げ、私の差し出したおイモの2皿目を、まるで出陣前の決意の供物を受け取るかのように恭しく受け取っていたわ。


ふふ、お隣のエドワード辺境伯様への「美味しい名産品の餌付け」の第一歩としても、これ以上ない完璧な滑り出しですわねぇ。何より、優秀な騎士様たちが自ら志願して村の警備をガチガチに強化してくれるだなんて、本当に願ったり叶ったりだわ。


お騒がせなお邪魔虫たちも片付いて、頼もしい警備部隊も手に入れた私は、完成したばかりの縁側で、のんびりと青空を見上げながら、温かいお茶をお代わりするのでした。

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