第十八話 何事もない、のどかな朝の目覚めですわ
「う、うーん……よく寝たぁ……」
「あれ……? 俺たち、寝ちまってたのか……!?」
翌朝、山の端から差し込むお日様の光が、出来上がったばかりの我が家の土間をぽかぽかと照らす頃。引き戸の向こうから、ロイくんたちの慌てふためく声が聞こえてきたわ。
そりゃあそうですわよね。夜通し村を警備するってあんなに息巻いていた男の子たちが、全員揃って長椅子や毛布の上で、絵に描いたような大寝坊をしてしまったんですもの。おばあちゃん特製の安眠ハーブティーの効き目は、伊達じゃありませんこと。
「あらあら、皆さんお目覚めね」
私が南向きの縁側に腰掛けて、鉄瓶から急須へお湯をトトトッと注いでいると、男の子たちが一斉にバタバタと土間から顔を覗かせたわ。
「しゃ、シャルロット様! すみません、俺たち警備を任されていたのに、不覚にも全員で朝まで爆睡してしまいました……!」
リーダーのロイくんが、寝癖のついた頭を抱えて真っ赤になって恐縮しているわ。
「……悔しい」
無口なガイルくんも、自分の不甲斐なさにちょっぴり眉をひそめているし、カインくんも「おかしいなー、僕ちゃんの頼れる夜警姿をお見せするはずだったのに!」と悔しがっているわ。ハンスくんに至っては、「……昨日の夜飲んだハーブ茶、あまりにも美味しすぎて、飲んだ瞬間に記憶が途切れてるかな」なんて、不思議そうに首を傾げているじゃない。
「ふふ、いいのよ。夜風は冷えますから、お部屋の中でこうして温かくして眠るのが一番ですもの。さあ、温かいお茶を飲んで、シャキッと目を覚ましてくださいね」
私が差し出した湯呑みを、男の子たちは「ありがてえ……」と恐縮しながら受け取って、ズズッと啜ったわ。
夕べ、村のすぐそばまで本物の魔物の軍勢が迫っていたことも、その軍勢が夜の森の中で音もなく一瞬で全滅されたことも、この子たちは誰も知らない。ハンスくんの仕掛けた罠にかかった魔物もおらず、村の周囲は何の被害もない、どこまでも平和で喉かな朝よ。
(みんな、怪我一つなく健やかに目覚めてくれて、本当におばあちゃん安心しましたわぁ)
わんぱくな孫たちを見守るような気持ちで、私が目を細めてお茶を啜っていた、まさにその時よ。
交易所のほうから、マルクさんの部下の商人さんが、私のいる縁側へと足音を殺してそっと近づいてきたの。
「シャルロット様、失礼いたします。今、村の入り口に見慣れぬ五騎の馬がやってまいりました。お兄様からのご連絡を受け、お隣の国を治めるエドワード辺境伯様が遣わした騎士様のようでございます。マルク会長が今、交易所でお出迎えをしておりますが、シャルロット様へ最初にご報告を、と……」
「ご苦労様。辺境伯様のお使いの騎士様ですのね。お連れしてください」
私が穏やかに微笑んで頷くと、それを小耳に挟んだカインくんたちは「へえ、お隣の国の騎士様かぁ」「マルクさん、大忙しだな」なんて、湯呑みを片手にのんびり噂話をしているわ。一介の冒険者である彼らにとっては、他国の高貴な騎士様なんて遠い存在ですものね。
私は縁側に腰掛けたまま、遠くの森の入り口のほうへと、穏やかな視線を向けたわ。




