第十三話 理想の我が家、完成ですわ!
「まあまあ!とーっても見事な我が家が出来上がりましたわ!」
みんなでトントンカンカンと汗を流した日々が実を結び、ついに、ついに私の理想のマイホームが完成いたしましたの!
出来上がったお家はね、日本の懐かしい知恵と、男の子たちの職人技が合わさった最高の平屋よ。
引き戸を開ければ、汚れを気にせず作業ができる広々とした土間。そこから一段上がると、お芋の調理も捗る機能的なキッチン、ゆったり休める寝室、そしてお客様をお迎えする客間。そして何より、南側にはお日様の光がぽかぽかと降り注ぐ、念願の大きな縁側が、素晴らしい佇まいで私を待っているわ。
(あぁ……ついにここまで来ましたのねぇ。これで毎日、縁側でお茶が啜れるわぁ)
と、大満足で胸を撫で下ろしたのも束の間。私はある重大な現実にぶち当たって、ピタッと動きを止めちゃった。
(……待ちなさいな。お手洗いはどうしましょう?)
そうなのよ。前世の日本の快適な衛生環境を思えば、お手洗いは絶対にお家の中に作りたいところ。だけどここは、下水道なんて完備されていない山間の開拓村。そんな場所でお家の中にお手洗いを作ったら、臭いや衛生面でとんでもないことになってしまうわ。だから今回は、泣く泣く屋外に別棟として建ててもらったんだけど……。
(お塩やハーブで誤魔化すだけじゃ、どうしても不衛生だし、何より私が絶対に嫌ですこと……! 何か、この世界の技術でもできる素晴らしい仕組みはないかしら?)
腕を組んで「うーん」と深刻な顔で悩み込んでしまった私を見て、仕上げの片付けをしていたハンスくんが不思議そうに声をかけてきたわ。
「……シャルロット様、どうしたの? せっかく家が完成したのに、そんなに難しい顔をして、お手洗いの建物をじっと見つめて……何か重大な欠陥でもありました?」
「あら、ハンスくん。欠陥ではないのよ。ただね、あのお手洗いを、どうにかして劇的に清潔で、臭いの全くしないトイレにできないかしらと思ってまして」
「……清潔で、臭わない? 魔法も使わずにそんなこと……流石のシャルロット様でも、それは無理なんじゃ……」
ハンスくんが呆れたように苦笑いしたけれど、おばあちゃんの主婦の知恵袋と、元暗殺者の知識を甘く見てもらっちゃ困るわ。
「うーん……でもね、ハンスくん。臭いが出たり不衛生になるのはね、排泄物が空気に触れて、悪い菌が繁殖してしまうからなのよねぇ……。あっ!だったら、それを逆手に取ればいいんですわ!」
私の脳裏に、前世の日本の田舎で使われていた、ある素晴らしい知恵がひらめいたの。
「ハンスくん、ガイルくんを呼んできてくれる?あのお手洗いの下にね、深くて大きな穴を掘って、そこに交易所でもらった石灰と、細かく砕いた『木炭の粉』をたっぷり敷き詰めるのよ」
「え? 石灰と、木炭……?」
「そうよ。石灰にはね、強いアルカリの力があって、悪い菌が繁殖するのを完璧に抑えてくれるの。それに、木炭の粉には目に見えない小さな穴が無数にあってね、嫌な臭いを綺麗に吸い取ってくれる天然の脱臭剤になるのよ。これらを排泄するたびに上からパラパラと振りかければ、数ヶ月もすれば臭いもなく、畑の素晴らしい肥料に生まれ変わるんだから」
そう、これぞ前世の日本でも大活躍していた、究極の有機循環式・衛生お手洗い、コンポストトイレよ!
さらに、私は大工仕事で余った端材を綺麗に丸く削り、滑らかな洋式便座を作って、腰掛けられるように設置しておいたの。
このお手洗いの建物そのものを作ってくれたのは、リリィちゃんを含めた冒険者の5人なの。私の指示通り、不思議な穴あき椅子のような形を不思議そうにトントン組み立ててはくれたんだけど……。
「なあハンス、シャルロット様に言われて床下に網を張った『通気口』を開けたり、便槽から屋根の上まで黒い『筒』を突き抜けさせたりしたけど……何だこれ? こんなの作って本当に意味があるのか?」作業中、リーダーのロイくんが不思議そうに首を傾げ、カインくんも「ただの風通しにしては大掛かりすぎない?」なんて笑っていたのよね。
この世界のお手洗いはまたがって踏ん張るキツい姿勢が当たり前で、空気を循環させて臭いを消すという発想すらなかったから、この形の本当の使用方法をまだ全く知らなかったのよね。
こうして、お家の中ではないけれど、どこよりも清潔で臭わない、おばあちゃん特製の「快適お手洗い」も無事に完成!
……したんだけど、私が孫たちに使い方を説明した途端、彼らのとんでもない大騒ぎが始まったのよ。
「な、なんだこれ!? シャルロット様、この椅子みたいな穴の開いた板、まさか……ここに座って用を足すってことですか!?」
まずリーダーのロイくんが、見たこともない洋式トイレの使用方法を初めて理解して、ひっくり返るほど驚いたわ。
「……ん。座る。……すごく、楽。踏ん張らなくて、いい」
無口なガイルくんが、お試しで服を着たまま便座にどっしり腰掛けて、とーっても優しげな顔で深く頷いているわ。自分が作った謎の椅子がこんなに快適なものだったなんて、びっくりしちゃったみたいね。
「ちょっとガイル、ずるい! 次は僕ちゃんの番!……うわああ、本当だ! 楽ちんすぎてこのまま寝られそう! ってゆーかさ、これ座っただけで育ちが良くなった気がしない!?」
「カイン、騒ぐなって。うわ、本当だ……これなら本を読みながらでも用が足せるぞ。おまけに本当にあの嫌な臭いが一切しない、魔法みたいだ……!」
男の子たちが代わる代わる中に入っては、座り心地の良さに目を丸くして大はしゃぎしているじゃないの。しまいにはリリィちゃんまで「ちょっとお兄ちゃんたち、いつまで占領してるのよ! 私にも座らせて!……きゃあ、何これ、とっても快適ですことー!」って、まるで新しいおもちゃを手に入れた子供たちみたいに、みんなで楽しそうにワイワイ騒いでいるわ。
まぁ、本当に賑やかで可愛い孫たちですこと!
このお手洗いの建物そのものを作ってくれたのは、リリィちゃんを含めた冒険者の5人だけど、この世界のお手洗いは、またがって踏ん張るキツい姿勢が当たり前。だから彼らは、この形の本当の使用方法をまだ全く知らなかったのよね。
私は完成したばかりの広々とした縁側に、ついに、ストンと腰を下ろしたわ。
目の前にはさらさらと流れる美しい小川、ぽかぽかと暖かいお日様の光。
鉄瓶から急須へお湯を注ぎ、鮮やかな緑色のお茶を、自分のためにゆっくりと淹れる。
ズズッ……。
「あぁ……美味しいですこと。これでしばらく、辺境でのんびり隠居生活を楽しめますわー!」




