第十一話 シャルロット様はなんだか凄い
「ふぅ……。ひとまず、大きな梁も無事に収まって良かったですわねぇ。皆さん、ここらでちょっとお茶にしましょうか」
私はそう声をかけると、鉄瓶で絶妙な温度に冷ましたあの美味しい緑茶を、みんなの湯呑みに注ぎ分けて回ったの。
「うお、ありがてえ! ちょうど喉がカラカラだったんだ!」
「……ん。お茶、染みる」
ロイくんやガイルくん、カインくんの3人は、木陰にドカッと腰を下ろして、美味そうにお茶を啜っているわ。
(あらあら、泥だらけの顔をして冷えたお茶を飲むわんぱくな男の子、おばあちゃん大好きですよ)
そんな中、少し離れた丸太の上で、リリィちゃんとハンスくんの2人が、何やら湯呑みを片手にヒソヒソと真剣な顔で話し合っているのが見えたの。
「ねえ、ハンス。さっきの梁の件だけど……あなた、何か見た?」
リリィちゃんが、周囲に聞こえないような小声でハンスくんに詰め寄っていたわ。
「……うん。僕の斥候としての動体視力でも、一瞬、神速の残像が通り過ぎたようにしか見えなかったけど」
「やっぱり」
「……でもね、リリィ。もし僕たちが思っているように、シャルロット様があの梁が落ちる軌道を一瞬で見切って、寸分の狂いもなく完璧なホゾ穴に一発でカチッと収めるなんて、普通じゃありえないよ。そんなのは伝説の棟梁の『神業』だよ」
ハンスくんは一歩引いた冷静な目で、大真面目にそう分析したわ。
だけど、それを聞いたリリィちゃんは、ええーっ!? と目を丸くして思いっきり首を横に振ったの。
「ちょっと待ってハンス、何言ってるのよ! 超一流の近接格闘技術に決まっているじゃない! シャルロット様、道中の魔物も全部そうやって裏で一瞬で片付けていたのよ!」
「いや、大工の棟梁としての技術だよ」
「武術の達人の技よ!」
2人はしばらく言い合っていたけれど、どうやら「方向性は天と地ほど違えど、とにかくシャルロット様は常識外れに凄い」という点で、がっちりと意見が一致したみたい。決定的に話が噛み合っていないけれど、2人はなぜか「シャルロット様、やっぱりただ者じゃないわね……」「うん……」と満足げに深く頷き合っているわ。
そんな2人の背後から――。
「あらあら、うふふ、2人で仲良くお顔を突き合わせて、恋バナかしら?」
私は2人の湯呑みにお茶をトトトッと注ぎ足しながら、話に混ざっていったわ。
「ひゃいっっ!?」
「うわっ……!?」
リリィちゃんは派手に飛び上がって湯呑みを落としそうになり、冷静なはずのハンスくんも、幽霊に背後を取られたかのように思いっきり顔を引きつらせて固まったわ。
「あ、あらあら、危ういところね。お茶は逃げませんから、落ち着きなさいな。若いお二人で、一体どんな素敵なお話をしていらしたの?私で良ければ、いつでも恋愛相談に乗りますわ?」
にっこりと必殺のおばあちゃんスマイルを向けると、2人はガタガタと震えながら、必死に手を振って首を横に振ったわ。
「い、いえっ! 何でもないです、シャルロット様! ちょっとお天気がいいなーって話していただけで、恋バナなんてそんな滅相もないですっ!」
「……うん。このお茶が、とっても美味しいねって話していたかな」
「ふふ、お茶をお気に召してくれて嬉しいですわ。さあ、カインくんたちがお芋のふかしたのを催促しているから、次のお茶の準備をしてきますねぇ」
私はうふふと上品に笑いながら、2人にひらひらと手を振って、再び調理場のほうへと戻っていったの。
後ろでリリィちゃんとハンスくんが、「……今の足音の消し方、完全に達人の隠密術よ」「……いや、お茶を注ぎ足す手際の良さは確実に伝説の棟梁の器用さかな」と、お互い全く違う方向を見つめたまま頭を抱えて震え合っていたけれど、私は聞こえないフリをして知らんぷりをしておいたわ。
さあ、私の可愛い孫たち……じゃなくて、男の子たちの胃袋をさらに掴むために、次はあのお芋を使った美味しいおやつでも作って差し上げましょうかねぇ!




