第十三話 私の居場所!(第四部 完)
何日かすぎて、シャルロット様とアイちゃんに笑顔で見送られて、私とフェルくんは新しく暮らすことになった「我が家」へと向かったんだ。
これから私たちが住むのは、エデン村の中にもともとあった古い空き家なの。
ずっと誰も住んでいなくてボロボロだったみたいなんだけど、それを知ったシャルロット様が村のみんなにお願いしてくれたの。そしたら、みんな「シャルロット様の頼みなら、喜んで!」って言ってくれて、村総出でその空き家の汚れをゴシゴシ磨いて、壊れているところもピカピカに直して、すぐに使えるようにしてくれたんだって!
「わあぁ……! ここが、私たちの新しいおうち……!」
たどり着いたおうちは、ちっちゃいけれどすっごく綺麗になっていて、可愛らしい木造のおうちだったの。おうちの扉を開けて、中に入った瞬間、ツヤツヤの白髪をなびかせたフェルくんが、白いお耳をピコッと動かして、私の顔をじーーっと覗き込んできたの。
「ふむ、なかなか悪くない住処だな。よしモカ、さっそく我にあの手作りの『はんばーぐ』とやらを差し出すが良い! 我はお前の手作りのご飯しか、もう口に入れぬからな!」
「もーー! フェルくんったら、おうちに着いたばっかりなのに相変わらず食いしん坊さんなんだから!」
姿が綺麗な男の子になっても、お口を開けばいつもの偉そうなフェルくんで、私は思わずクスッて笑顔になっちゃった。そう言いながら、私がふと空中の画面で時間を確認した、その時だったの。
「あ、あーーーっ!! もうこんな時間じゃん! バイトに遅れちゃうよーーーっ!!」
引っ越しが嬉しくてのんびりしすぎちゃった! 私は大あわてで出かける用意を始めたの。
「何、また『ばいと』やらに行くのか? 我の飯より大事なことなど、なかろうに」
人間の姿になっても、人間社会のルールなんてちっとも知らないフェルくんは、床の上でのっそり寝そべりながら、すっごく呑気な声を出すんだよね。
「もう! 私がこれから働くのは、フェルくんのハンバーグの材料を買うためなんだから! というわけで、フェルくん、新しいおうちのお留守番よろしくね!」
「ふん、我を番犬扱いなど、いい度胸だな人間め……」
フェルくんはお口ではブツブツ文句を言っているけれど、白いおっきなしっぽが床をトントンって嬉しそうに叩いているの。口だけは悪いけど、本当はお留守番してくれることに文句はないみたい。
口を尖らせて文句を言っているフェルくんを新しいおうちに残して、私は村の道をダッシュしたの。息をハァハァ切らしながら、マルク商会の宿泊所の一階にある食事処「パステル・コテージ」に、なんとかギリギリで滑り込んだんだ。
「ふぅ……! 間に合ったぁぁ!」
お肉の焼けるいい匂いが漂う賑やかなフロアを抜けて、すぐにお着替えをしなきゃと思って、私は大急ぎで控室のドアをガラガラッと開けたの。そこにはもう、お仕事の準備をバッチリ済ませたアイちゃんが、ちょこんと椅子に座って待っていたんだよ。
「あ、モカちゃん! お疲れ様ー! 新しいおうちへの引っ越し、無事に終わったみたいだね!」
「アイちゃん、お疲れ様! ありがとう〜! でもね、もう本当に時間がギリギリで、あわてて走ってきたから死んじゃいそうだよぅ」
私がジャージの胸元をパタパタ仰ぎながら言うと、アイちゃんはいつものきらきらした陽キャの笑顔で、私のお顔を覗き込んできたの。
「アハハ、お疲れ様! ……ねぇねぇ、ところでさ、モカちゃん。あのイケメンになっちゃったフェルくん、新しいおうちで大人しくお留守番できてる?」
「あ、うん! ちゃんと大人しく待っててくれてるよ。『我を番犬扱いなど、いい度胸だな』なーんて、文句は言ってたけどね!」
「アハハ! 姿はすっごい綺麗な男の子になっちゃったのに、中身はあの偉そうなオオカミさんのまんまだもんねー!」
アイちゃんは思い出し笑いをしながら、楽しそうにクスクス笑っているの。
「でもさ、フェルくんがモカちゃんに向かって『家族だからだ』って言ったとき、私キュンときちゃった! ごちそうさまって感じ!」
「ううぅ、アイちゃん、もうその話はしないでよぅ……!」
アイちゃんにからかわれて、私はメイド服を抱きしめたまま、お顔が真っ赤になっちゃった。
あっ、でも、もうのんびりおしゃべりしている時間はなかったよ! 私は大急ぎで、いつものジャージを脱ぎ捨てたの。
何度着ても、やっぱりこの肩と背中がぱっくりあいたメイド服は、露出が多くてすっごく恥ずかしい……。お部屋の端っこにいた陰キャの私にとっては、ハードルが高すぎるんだよね。
お着替えをしながらも、私の胸の奥は、また少しだけドキドキと緊張しちゃっていたの。
すると、控室のドアからトントン、と優しいノックの音が響いたの。
「アイちゃん、モカちゃん、クリスよ。もう入っても大丈夫かしら?」
上品で落ち着いた声に、私はホッと胸をなでおろしたの。
「はい! 大丈夫です、どうぞ!」
ガチャリとドアが開くと、超マッチョでおヒゲが素敵なクリス支配人が、ウフフと優しく微笑みながらお顔を出してくれたんだ。
「あらあら、モカちゃん。今日もとっても可愛いわよぅ。大丈夫、今日もがんばりなさい、ね?」
「クリスさん……! はいっ、私、がんばります!」
おっきくてあったかいクリス支配人の言葉に、私のドキドキしていた胸の奥は、不思議とすーーっと落ち着いていったの。それに、隣にはいつもきらきら太陽みたいに笑って私を引っ張ってくれるアイちゃんがいる。こんなに素敵な人たちが一緒なら、私、どんなに恥ずかしくてもがんばれるよ!
髪の毛のリボンをきゅっと結び直す。さあ、いよいよお店がオープンする時間だよ!
食事処「パステル・コテージ」のおっきな扉を開けると、そこには、開店を今か今かと待ちわびていたお客さんが、ずらーーーって並んでいたの!
いつも優しく声をかけてくれる村の人たち。大農場のたくましいプロ農民さんたち。村の平和を守ってくれている、かっこいい兵士さんたち。そして、宿泊所にお泊まり中の、ちょっとガラの悪そうだけど優しい冒険者のお兄さんたち!
みんなが私とアイちゃんを見て、ぱぁぁってお顔を明るくして、嬉しそうに手を振ってくれている。おうちに帰れば、美味しい手作りご飯を待っててくれる、世界一の家族のフェルくんがいる。そしてここには、私を笑顔で迎えてくれる、大好きなみんながいるんだ!
エデン村には、こんなにあったかくて優しい私の居場所がある。
私はアイちゃんと肩を並べて、胸いっぱいに息を吸い込んだの。そして、心からの目いっぱいの笑顔で、元気いっぱいに大きな声を張り上げたんだ!
「いらっしゃいませ! エデン村のパステル・コテージにようこそ!」
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!
本日の更新をもちまして、第二章・第四部が完結いたしました。
日本では孤独だったモカちゃんが、フェルくんという世界一の家族に出会って、本当の居場所を見つける姿を一緒に見守っていただけて、感無量です。
ちなみに、作者の脳内を流れる今回のエンディングBGMは、
『Piaキャロットへようこそ!!2』の「Go!Go!ウェイトレス」です!
もしよろしければ、このBGMをバックに思い浮かべながら、もう一度読み返してみてください。
さて、明日からは、いよいよ新章となる【第二章・第五部】へと突入します!
次なる第五部で活躍するのは、効率房の高校生・織原紬です。このエデン村で、一体どんな波乱を巻き起こすのか……!? どうぞお楽しみに!
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