第十二話 涙とよだれの、特製ハンバーグ!
ジュージュー、パチパチ。
台所いっぱいに、すっごく香ばしくて美味しそうな匂いが広がって、私たちは焼き上がったばかりのアツアツの手作りハンバーグを、お皿の上にいくつもてんこ盛りにのせたの。
「フェルくん、がんばって作ったよ! これ、食べて……!」
お庭に戻ったとき、フェルくんはもう完全におめめを閉じて、息をするのもやっとだったんだよ。私が泣きそうな声で、フェルくんのお顔のすぐ前にハンバーグを置くと、フェルくんのお鼻がクンクンって動いたの。
外側はカリッと、中はジュワッと焼き上がったお肉の香りが、フェルくんのお鼻をくすぐる。そして、力なくお口を開けて……一口だけ、「ぱくり」ってかじりついたんだ。
モグモグ、ってフェルくんのお口が動いた、その次の瞬間だったよ。
フェルくんのおめめがパチッッ!! っておっきく開いたの! そして、金色のおめめがピカァァァーーーッッッ!!! ってもの凄く眩しく光り輝いたんだよ!
「――ウ、ウオオオオオオンッッッ!!!!」
おっきな声で吠えたかと思ったら、フェルくんがガバッッ!! って凄まじい勢いで立ち上がったの。そして、もの凄いスピードでお皿のハンバーグを平らげ始めたんだ!
「旨ーーーい!!!!」
「旨い! 旨いぞ、これはっ!! 身体の奥から力がみなぎってくる! 旨すぎる、旨すぎるぞモカぁぁぁーーーっっ!!」
フェルくんはおっきな金色のおめめから大粒の涙をドバドバと溢れさせて、お鼻からも鼻水がダラダラ、お口からはよだれが滝みたいに激しく流れて……もうお顔をぐっちゃぐちゃにしながら夢中で食べているの。
私の手作りハンバーグから、もの凄いエネルギーがフェルくんの体の中に流れ込んで、目からも鼻からも口からも、エネルギーが体液になって物凄いパワーで溢れ出しちゃっているみたい! フェルくんの全身の毛並みが、そのエネルギーでビリビリと震えていて、熱気がお庭いっぱいに広がっていくの!
「わわわっ! フェルくん、よだれだけじゃなくて涙も鼻水もすっごい出てるよー!? お顔から体液がドバドバ出て、まじで大洪水だよぅ!」
私がハンカチを持ってあわあわしながらツッコミを入れると、フェルくんは最後のお皿までピカピカになめまわして、お体の中にすべてのパワーをギュギュッと閉じ込めるように、プハーッ! っておっきく息を吐いたの。
その瞬間、フェルくんのお体が、突然、ピカァァァッ! ってまぶしい光を放ち始めたの。光がすーーっと消え去ったとき――お庭にいた大きな白いオオカミの姿は、どこにもなくなっちゃっていたんだよ。
代わりにそこに立っていたのは、なんと、私やアイちゃんやシャルロット様と同じくらいの年齢に見える、白いお耳と大きなしっぽがついた、すっごく綺麗な男の子の姿だったの!
その子は自分の前に両手を突き出すと、おっきな金色のおめめを輝かせながら、その手をグッ、パッ、グッ、パッって、何度も力強く握ったり開いたりして確かめ始めたんだ。
それから、その場でピョーーーンッッ!! ってお空に向かって思いっきり跳びはねて、おうちの屋根の高さまで一気に跳んじゃったの! 草の上にトサッと静かに着地したフェルくんは、お尻の大きな白いしっぽをブンブン激しく振って、その場でダダダッて足踏みをして身体の調子を確かめていたんだ。
「うむ! どこにも痛むところはない! やっと元の姿に戻ることができたぞ!」
「ええええええええええーーーっっっ!!!??? フェ、フェルくん、人間になっちゃったのーーーっっっ!!!???」
「人間ではない。耳としっぽはあるであろう。これが我の元の姿だ」
大パニックになる私を横目に、フェルくんはフンスとお鼻を鳴らして、サラサラの白い髪をかきあげながら、私をまっすぐ見つめたの。
「モカ、お前は我のことをフェンリルとかいう聖獣だと思っていたのだろう。だが実はな、我は元々、この世界にいる山の神の一人なのだ」
「えっ……? この世界の、神様……?」
「うむ。だがこの世界では人々から信仰が失われ、我を拝む者もいなくなってしまった。だから力を失い、消えかける寸前で獣の姿に身をやつしていたのだ。それを救って姿を維持させてくれたのが、お前がジャングル市場で出してくれたあのハンバーグだったのだ。」
フェルくんは、キリッとした格好いいお顔のまま、誇らしげに胸を張ったの。
「だが、あやつは味は良いが既製品ゆえ限界があった。神への信仰とは、なによりも『真心を込めること』にある。モカ、お前が我のために、真心を込めて料理をしてくれた……。お前たちのその真心が、我の消えそうになっていた神の力を、満タンに呼び覚ましたのだ。だからこそ、お前が作った料理は、ただ『美味さ』だけではなく、魂に染み渡る至高の『旨さ』だったのだ」
「そ、そっかぁ……!」
だから、今までのレトルトではよだれしか出なかったのに、私が真心を込めて作ったハンバーグだと、体中から液やら汁やらが全部出ちゃうくらい大興奮してくれたんだね……!
「そうだ」
フェルくんは、おっきな金色のおめめで私のことを真っ直ぐに見つめ直したの。
「――だが、一つだけ言っておくことがある。手作りハンバーグは、モカでなくてはならぬ。なぜなら、我とモカは……」
フェルくんはそこで言葉を区切って、すーっと優しく目を細めたの。
「――家族だからだ」
「ふぇっ……! か、かぞく……!?」
フェルくんの口から出た予想外の言葉に、私の頭は今日一番の大爆発をしちゃったよ!
いつも偉そうで、ご飯のことばっかりで、私のことなんて「都合のいい人間」くらいにしか思ってないって思ってたのに……。フェルくんにとって私は、もうずっと前から、かけがえのない『家族』だったんだ……!
「ふん。まあ、これからも我の力でお前を護衛してやるから、毎日この手作りご飯を我に差し出すが良い!」
感動を隠すみたいに、フェルくんはまたいつもの偉そうなポーズで胸を張ったの。白いお耳がピコピコと、きまずそうにせわしなく動いているのを、私は見逃さなかったけどね!
「ふふっ、フェルくんってば、姿が変わっても本当に相変わらずなんだからぁ!」
横でアイちゃんもシャルロット様も、それを見て「よかったぁぁ!」ってお腹を抱えて大笑い。
美味しい手作りご飯と、私の大切な、世界一の家族。これからもっともっと、最高にハッピーな毎日にしていこうね!




