第17話
ヒュー ヒュー
風が、肌寒さを連れてきた。
制服は半袖から長袖のブレザーに変わり、学校の色合いも落ち着いたものになった。
落ち葉がそこかしこで、クルクルと校舎前で踊る。
下校時間になると、夏と比べて、だいぶ日が落ちるのが早くなってきた。
もう夕暮れの紫とオレンジが遠くの山に見える。
「また、明日ね。」
「じゃ〜ね〜!!」
「バイバイ!」
友人達と別れの挨拶を告げたあと、一人、明里は自転車を漕ぐ。
足元が寒くなってきた。
(明日からは、ハイソックスにしようかな……。)
日が完全に落ち、辺りに暗闇が訪れる。自転車のライトをつける。
周りが見えにくいので、気持ち速度を落として自転車を漕ぐ。
ようやく自分の町にまで入って来た。
駅前を抜け、休みの日によく行く本屋さんを通り過ぎ、公園前の交差点についた頃、黄色い蛍光のジャンパーが目に入った。
人がいる。
最初はそう思った。
しかし、信号を渡って、明里は気付いた。
(あの人だっ……!)
パッと目に飛び込んで来たのは黄色いジャンパーにかかれている黒い文字。
一瞬で通り過ぎてしまったから、何が書いてあったかまでは読めなかった。
だけど、あれは普通のジャンパーではなかった。
暗くなっても安全な様に、グレーの反射材を、そのジャンパーは左右に背負っていた。
真ん中には、味気ない、四角いカクカクした太い文字の羅列。
明里は確信した。
(何か、何か、公的な機関の様な文字だった……!!)
(ボランティアとは違う。それだったら、もっと周りに似たような仲間がいるはず。)
(だけど、あの人はいつも一人。)
(おそらく、ルートはあの人の中で決まっている。)
(だけど、だけど、ジャンパーを着ていたっ……!!)
(繋がったんだ……!!誰かと!!『何か』が、あの人にあったんだ。)
(それは、おそらくあの人にとって良いこと。きっと、あの人にとっての大きな人生の変化……!!!)
(あの人の行動が、『何か』を動かしたんだ!!すごい!!!)
興奮が冷めることなく、明里は自宅に着いた。
いてもたってもいられなくて、これまでのあの人の事を両親に話した。
あの人について、誰かに話すのは初めてだった。
誰かとこの気持ちを共有したかった。
だが、その話を聞いた両親の反応は、明里の期待とは違って、アッサリしたものだった。
「なるほどねぇ。でも、良かったじゃない、その人に居場所が見つかって。」
「あぁ。生きづらい人は、世の中に沢山いるからな。その人は立派だよ。」
違う、違う、と、明里は思った。
そんなんじゃない。
そんな程度の話じゃない。
あの人は、必死に毎日毎日、一人で……ずっと!!!
きっと、こんな自分で、何が出来るだろうかって、一生懸命考えた上の行動で……。
だって、「あの時」のあの人の「目」。
あの人の「口」。
固まっていた表情。
おそらく、私達のように器用に動かせない……。
そんな簡単に、世の中に繋がれる様子じゃなかった!!
生きづらい?
そんな言葉で片付けられる様なものではなかった!!
私は、毎日見てたんだ。
その人を。
ずっと。
この町で居場所を見つけようと、必死に、模索しているその人の「熱」を!!
私は、ずっと感じてたんだ。
なんで上手く伝わらないんだろう。。。
涙が一粒こぼれた。
「明里は、昔から感受性が強いからなぁ。」
「あらあら、泣かなくてもいいじゃない。良かったじゃない、その人が生きやすくなって。ね?」
違う、違うの、お父さん、お母さん。
あの人は、すごいんだよ。
自分で人生を変えたんだ。
いつも空気に流されて生きてる自分とは、とても違うんだよ。
私にはないものを持っているんだよ。
どうしても言葉に出来ない。
言葉にしても、今の私では、口からポロポロとこの大切な想いを床にこぼれ落とすだけで、誰かに上手く差し出す事が出来ない。
だから、
一旦、……胸に仕舞った。
例え親でも、この感動を、陳腐な言葉で片付けられたくなかった。
それならば、私が、大切に大切に、この「想い」を持っていようと思った。




