第14話
ジュンの地元は、想像していたよりもずっと田舎だった。
周りは田んぼや畑だらけ。小学校も中学校も、村には1校づつしかないそうだ。
だけど、なぜだろう。全然、錆びれた印象がない。
蔓や蔦などで朽ち果てた所は見当たらず、どこもかしこも、丁寧に手入れされているといった感じだ。
道の端のガードレールさえも、息をしている気がする。
村の人達が景観を保つ事に、協力し合っている雰囲気がした。
ジュンは、塾に通っているって言ってたから、てっきり都会の方に住んでいるんだとばかり思っていたけれど……。
だから、こんな場所に住んでいるなんて、とても意外だった。
改めて村を見渡して、ジュンの普段の優しさは、この村で作られた様な気がした。
そんな地域の真ん中に、新しく建築されたと思われる、モダンな音楽堂がぽつんと建っていた。
建築記念に、有名なアーティストを呼ぼうという事になり、この企画が実現したのだそうだ。
否応にも期待が高まる。サキも同じ様子だった。
真ん中よりも少し後ろの方、やや右側の席に並んで、3人は座った。
ジュンの両親や姉妹達は、私達が気兼ねなくコンサートを楽しめる様にと、私達とは少し離れた席を取っていた。
そんな所に、とてもジュンの家族らしさを感じた。
照明が暗く落とされた。
赤いビロードのステージの幕が上がる。
真ん中に、テレビで見た事のある2人が笑顔で観客席を向いて、手を振り、そしてお辞儀をした。
割れんばかりの拍手。
本物を見たというざわめき。
どの顔も、彼女たちに注目していて、目をキラキラと輝かせていた。
最初は、みんながよく知っている歌から始まった。
知っているピアノの旋律が流れる。
そして。
「〜〜〜、〜〜〜♪」
「っ!!!」
身体中に衝撃が走った。
テレビの音とは全然違う。
目から、耳から、身体全身に彼女たちのエネルギーを浴びているようだった。
身体中の血液が、足元から一気に上に上がってきて、涙の膜ができた。
次は、観客をつかむ、明るい馴染みのある曲。照明がクルクル変わって、明里は自然に、心の底から、音楽の楽しさを身体で感じていた。
そして、コンサート中盤になると、曲調は変わり、バラードに入った。
まるで海の中にいる様な感覚。ゆったりと、音の粒が染み込んだ海を泳ぎ、その世界を堪能する。
終盤、彼女達は、観客との会話も挟み、笑いを起こし、私達を飽きさせる事なく、この田舎の村の真ん中で、精一杯の素晴らしいステージを見せてくれた。
まさに芸術だった。
そして、最後の一曲。
そこで彼女達は、自分達の声だけで、全力のアカペラを披露してくれた。
「〜〜〜 〜〜〜 〜〜〜〜〜っ!!!」
遠く遠く、どこまでも届くような伸びやかな声だった。
気がつくと、私の両目からは、涙が溢れ、頬を伝い、ポタポタと落ちていった。
隣に座っていたジュンやサキも、ハンカチや指で目頭を押さえている様だった。
心の中にキレイな水が、全身にすみずみにまで入っていく。
そんな素敵な夜だった。




