森の王様からの無茶ぶり
感触としては……ぬめっとした感じだった。
体中に何かがまとわりつくような。
だけど、不思議とそれほど嫌な感じはなかった。
とはいえ、こんなところに長居はしていられない。
表層が硬い魔物というのは、決まって内側が弱いものだ。
それにヒナをはやくここから出してやらなければ。
俺が剣を抜こうと剣に手をかけたところで、急にまわりが明るくなる。
なんだ?
いきなり身体が浮くような感覚に陥ると、俺たちは石の地面の上に投げ出された。
どうやら消化されたわけではないらしい。
体感にしてほんの数秒と言ったところだろうか。
体中についていた粘液はさらさらと砂に変わり、やがて空中にでも溶けていったかのように消えていった。不思議な魔法だ。
それなりに魔法には詳しいがこんな魔法見たことがない。
服の汚れも臭いもすべてなくなってしまった。
「パパー! こっちだよー」
「ヒナここがどこかわからないんだからむやみに歩いたら危ないよ」
「ここね、ヒナ来たことあるよー」
「本当? ここはいったいどこだい?」
「うーん。行けばいけばわかるよー」
ヒナは俺の手を握って歩きだす。
ヒナが来たことがあるとは言っても、まわりに魔物がいるのではないかとビクビクしてしまう俺がいる。
ヒナに先導されながら歩いていくと、どうやらここはどこかのお城のようだった。
床や壁、屋根まで全部が石造りでできている。
ただ、足元には埃がたまり歩いた形跡もすくないことからしばらく人の出入りはなさそうだ。
どこへ行くのが正解かわからないが今はヒナについていくしかないだろう。
少し歩いていくと左右にゴーレムの並んだ通路にでた。
ゴーレムたちはもう何年も手入れがされていないようだが、今にも動きだしそうな迫力がある。いきなり動きだしたりはしないだろうけど……ドキドキしてしまう。
俺はヒナを抱き上げ警戒しながら進む。
「ヒナこっちで道はあってるんだよね?」
「うん。こっちからね森の王様の魔力を感じるんだー」
「森の王様?」
「森の王様はヒナをパパのところへ連れて行ってくれた人!」
「危険はない?」
「うーん。よくわかんないけど何かお願いごとがあるみたい」
なんとなく状況が読めてきた。
どうやらヒナを俺たちのところへ連れてきたのには何か理由があるみたいだ。
いきなりこんなところへ連れて来られたけど、ヒナを俺たちのところへ送ってくれたのには感謝しかない。きちんと挨拶しなければ。
それからしばらく歩いていくと今までの広さとは対照的な小さな部屋にたどり着いた。
「パパーここだよ」
今までの大きさには似つかない小さな扉がついている。
とりあえずノックをしてみるか。
俺が木製のドアを二回コンコンとノックするとドアが自動で開く。
中から声が聞こえてくる。
「開いてるよ」
「失礼します」
扉をあけるとそこには一面カラフルな花が地面一面に咲き誇っていた。
「パパ行こっ」
花畑の真ん中に白いソファーがひとつ置いてあり、そこの上には派手な赤いフワフワのマントをつけたウサギ耳の女の子が本を読みながら寝そべっていた。
女の子が本を閉じ、空中に投げると本はそのままポンッと音とともに消えてしまった。
「ダンよく来たな」
「どこかで会いましたっけ?」
名前を呼ばれたが、会った覚えはない。
「直接会ったことはないが、この森に来てからずっと見ていたぞ」
「見ていた……なんで俺たちのことを?」
「フフフッせっかちな男は嫌われるぞ。どうせならお茶でも飲んでゆっくり話そうじゃないか。久しぶりの客人なんだ」
「客として呼ぶにしてはだいぶ雑な呼び方だったけどな。それにどうせ呼ぶなら俺たちの仲間全員を呼んで欲しかったな」
「まぁそれはすまない。私の方にも色々問題があってな。ここに来るまで城の中を歩いてみてどう思った?」
「えっ……広いわりに何もないな……と」
「私のことを森の王なんてヒナは言ってくれるが、ここにはもはや何も残ってないんだ。あるのは廃墟とこの一部屋と私の蔵書のコレクションだけ」
「まったくもって流れが見えないんだけど。結局何がしたいの?」
「あぁ悪い。改めて自己紹介しよう。お前たちが終焉の森と呼んでいるあの場所の管理をしているルーだ。それ以上でもそれ以下でもない。気軽にルー様と呼んでいいぞ」
「わかった。それでルーはヒナを俺たちの元へ導いてくれたってことでいいのか?」
「気軽にルー様と呼んでいいぞ」
「わかった。わかった。それで?」
「グヌヌヌ……そうだ私がお前の元にヒナを導いた。どうだ偉いだろ? 尊敬の念を込めてルー様可愛いって言っていいぞ。だんだん言いたくなってきただろ? ほら、ほら我慢は身体に毒だからな」
なんか思っていたのと違う。
とにかくめんどくさい奴だった。
ヒナの方を見るとヒナは花を見たり蝶々を追いかけている。
ヒナの役目はこの部屋まで俺を連れてくるのが仕事だったらしい。
「それで俺にいったいどんな用なんだ?」
「サンハイッ」
ルーは俺の方に耳を向け、片手を耳の横に置きアピールをしてくる。
「人の話を聞いてないってことだな」
「ルー様可愛いって言ってくれないと話が進まない仕様になっています」
言わなければいけないやつ……なのか?
いや……。
「ヒナ帰るぞ」
「うん」
「いや、待てちょっとふざけただけだろうが」
「次ふざけたら本当に帰るからな」
「大丈夫だ。気軽にルー様って呼んでくれていいからな」
「早くしろ」
「はいっヒナを守るために私に力を貸してほしいと思ってな。ヒナを次の王候補の一人なんだ」
生まれてまもなくのヒナにとんでもない宿命を運命づけたいらしい。
危なそうならヒナを連れて速攻逃げよう。




