ルー様可愛い
ヒナを俺のところに連れて来てくれたのはありがたいが面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁してほしい。
「王候補っていったいどういうことなんだ?」
「私はずっとダンが来るのを待っていたんだ。ヒナはポルックルであってポルックルじゃない、特別な運命を背負った子なんだ。言葉の通りこの森の王になる可能性がある子の一人なんだ。もちろんその可能性はまだ無数にある。その運命を決めるのはダンあなたなんだ」
ルーが何をいいたいのかまったくわからない。
情報が多すぎる。俺を待っていた?
俺がヒナの運命の決める?
「悪いが……どういうことだ? 俺はただの冒険者だ。そんな俺がヒナの運命を決めるってどういうことだ? ルーは俺にいったい何をして欲しいんだ?」
「単刀直入に言おう。ヒナを私のかわりに育てて欲しい」
「育てる……? 普通に育てるだけでいいのか?」
王候補だとか俺が運命を決めるとかのわりに普通に育てるだけでいいっていうのは?
もしかしてからかわれているんだろうか。
「それでいい。あとできれば身の危険があればできる範囲で守ってやって欲しい」
「育てるのはかまわないけど、この子は王候補なんだろ? ルーが育てた方がいいんじゃないのか?」
「私だって育てられるなら育てたい! だけど……無理なんだ。私には育てられないんだ」
ルーはいきなり声を荒らげ目にはいっぱいの涙をためていた。
「何か理由があるのか? 俺で良ければ力になれるかわからないが話くらいは聞くぞ」
「ありがとう。本当なら私だってヒナを手放したくない。でもな……私だと可愛すぎて甘やかしてしまうんだ!」
「そんな理由かよ!」
俺の真剣な対応を……ルーふざけすぎだろ。
ヒナはとても可愛いのでわからなくもないが、それなら俺だって甘やかす自信はある。
ただ、もうどこまでが冗談なのかわからない。王候補という話もどこまで信用していいのか……。
「もちろん冗談だ。もうここではこの子は育てられないんだ。私もできることならその子を自分の手で育ててあげたかった」
「それで本当の理由は? 次ふざけたら帰るからな」
「ここは冥界と現実の狭間の世界なんだ。私はヒナを助けるために同じ時間軸で生きていくことを諦めた」
「ちょっと待て。いったいどういうことだ? それもふざけているのか? 俺たちは……さっき食べられて死んだってことか?」
自分の身体を触ってみるがどこも異常はない。自分で自分の体温も呼吸も感じる。
ルーはどこか悲しそうな顔でゆっくりと首を振る。
「お前たちは大丈夫だ。私はまたしばらく魔力を貯めないといけない。だからその前にダンに会って直接お願いしたかったんだ。この子を頼む」
「それも冗談なのか?」
「これは冗談じゃない。ヒナが死ぬ前に転移させたんだ。運が良かったよ。途中で魔力が足りなかったがあのエルフから魔力をもらえた」
「なんでこんなめんどくさいことをしたんだ? 最初から俺だけを呼び出してヒナを任せれば良かったんじゃないのか?」
「それじゃあダメだったんだ。そちらからここに送るのは時間座標の特定が難しいんだ。まったく難儀なものだよ。一見めんどくさいと思うような流れでも、その手順が必要だからやっているんだ。特に今の私には制約が多くてな。あぁ……ダンが早くルー様可愛いって言わないからもう魔力がなくなってしまったじゃないか。でも、話せて良かったよ。ダン、ヒナを頼むよ。その子はとってもいい子なんだ。ここは終焉の森に栄えた森の王の夢の跡地だ。もしよければダンの領地として使ってくれ。ここを出たら南下していけば元居た場所へ戻れる。どうかヒナを……たの……む。ヒナずっと愛して……る」
「おいっ! どういうことだよ! 今度も冗談なんだろ?」
目の前にいたルーが俺に悲しそうな微笑みを浮かべ、そしてヒナにむけて優しく手を振る。その顔は母親が子供を見る穏やかな顔だった。
そして、ルーの姿が一瞬ぼやけるとそのまま消えていった。
魔力がなくなったって、ルー様可愛いとか無理に言わせようとしていたルーに原因があるだろう。他にもっと言うことあったはずだと思わずツッコミを入れたくなるが、彼女自身短い時間でなんとかコミュニケーションをとろうとした結果だったのだろう。
ルーが消えると、今まで花畑だった場所がただの荒れ地へと姿を変えた。
どこかの城の中庭のようだ。
窓などは割られ、石畳には苔が生えており、壁にはつるが巻きついている。
少なくとも今日、昨日滅んだ場所ではないようだ。
ルーは俺に同じ時間軸では生きていけないと言っていた。
つまり彼女は別の時間の流れにいるってことだろうか?
余計なことを話さないでもっとちゃんと説明して欲しかった。
いつの間に来たのかヒナが俺の側にきてズボンを握る。
「パパーまた王様いなくなっちゃた。パパも王様みたいにいなくなる?」
「大丈夫だよ。俺はいなくなったりしないよ。それに、さっきの話だと魔力切れみたいだからルーはまた会いに来てくれると思うよ」
「本当?」
「あぁ本当だよ。だからそれまでヒナは面白くて楽しい生活を送ろうね」
「うん。ありがとう。パパを絶対に幸せにするね」
ヒナから突然幸せにすると言われるとなんともこっぱずかしいような、何とも言い難い気持ちになってくる。まるで告白でも受けたみたいだ。さすがにドキッとはしないが。
「俺もヒナを幸せにするよ」
ヒナはどういうつもりで言ってくれたかわからないが、俺からすると子供を持つ親のような気分になってくる。俺は優しくヒナの頭をなでてやった。
「パパ帰ろう」
「そうだね」
俺たちが来た扉を開けると……そこにはシルバーラビットの群れがいた。
その数は……数えきれない。
これはやばすぎるだろ。かなりのピンチだ。




