↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌 航跡録―これまでのあらすじ―  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第八回 空母対空母編(第十九章~第二十章)

※本ページには、『異世界艦隊日誌』第十九章から第二十章までの内容および結末に関するネタバレが含まれています。


●帝国崩壊後の世界●

かつて世界最強と恐れられた聖シルーア・フセヴォロドヴィチ帝国は、三つの後継国家へ分裂した。

しかし、帝国の崩壊によって世界が安定したわけではない。

各地では旧帝国艦艇を利用した海賊が活動し、列強は新たに生まれた国家へ接触しながら、次の勢力図を作ろうとしていた。

フソウ連合もまた、外洋艦隊、国際海路警備機構、友好国との交易網を通じ、世界の海へ活動範囲を広げていた。

その一方、フソウ連合の急速な成長を、友好国であるアカンスト合衆国さえ警戒し始める。

帝国という共通の脅威が失われたことで、各国は改めて、フソウ連合が将来どのような国家になるのかを考え始めていたのである。


●新婚生活と空母時代●

帝国崩壊後の国際情勢が動く中、フソウ連合では的場良治大佐と杵島マリ中佐の結婚準備が進められていた。

鍋島貞道は頼まれ仲人を引き受け、東郷夏美も新婦側の友人として式へ関わる。

四人は居酒屋「お福」で打ち合わせを行っていた。

その席で的場は、空母を中心とする航空作戦を本格的に学びたいと鍋島へ申し出る。

フソウ海軍では、翔鶴、瑞鶴に加え、蒼龍、飛龍、大鳳、飛鷹などの空母が相次いで就役していた。

赤城、加賀、信濃の模型製作も進められ、搭載する航空機と搭乗員についても、空母完成前から育成が始められている。

鍋島は、将来の海戦では戦艦の巨砲だけでなく、航空機と空母が主役になると考えていた。

一方、海軍上層部には、依然として戦艦中心の考え方も根強く残っている。

そのため、実戦経験と柔軟な発想を持つ的場へ空母部隊を預け、新しい戦い方を研究させようとしていた。


●実戦を想定した航空訓練●

フソウ海軍航空隊では、移動する標的艦を用いた実弾訓練が行われていた。

翔鶴所属の攻撃隊を率いる森川少尉たちは、九九式艦上爆撃機などを使用し、実際に航行する標的へ急降下爆撃を加える。

固定された標的と異なり、移動する艦艇は進路や速度を予測しなければ攻撃できない。

訓練によって得られた命中率、投弾位置、回避運動、機体損傷などの情報は、今後の空母作戦へ利用される。

フソウ海軍は空母を建造するだけでなく、搭乗員、索敵、攻撃方法、艦隊防空まで含めた航空戦力を作ろうとしていた。


●的場とマリの結婚●

六月二十八日。

的場良治と杵島マリの結婚式が行われる。

鍋島は仲人として挨拶を任されていたが、用意していた形式的な文章を途中でやめ、二人との思い出と、素直な祝福の言葉を語る。

その二日前、鍋島自身も東郷へ思いを告げ、二人は正式に交際を始めていた。

これまで互いを大切に思いながら、長官と秘書官という立場によって踏み込めずにいた二人も、ようやく一歩を進めたのである。

的場とマリの結婚は、戦争の中で出会い、支え合ってきた二人の新しい出発であると同時に、鍋島と東郷の関係が変わるきっかけにもなった。


●ポルメシアン商業連盟の危機●

海上交易を基盤とするポルメシアン商業連盟では、これまでの経済政策が行き詰まり始めていた。

旧帝国と新シルーア帝国へ投資していた商人たちは、帝国崩壊によって大きな損失を被る。

海賊国家サネホーンの活動も激しくなり、従来の交易路は安全を失いつつあった。

国際海路警備機構へ参加すれば、一定の保護を受けることができる。

しかし連盟の有力商人たちは、他国が主導する組織へ加わることを嫌い、さらに奴隷や薬物など表へ出せない商品を扱っている者も多かった。

そのため、海上交易の危険が増しても、連盟は国際協力へ踏み出せずにいた。

老商人アントハトナ・ランセルバーグは、古い成功体験にしがみつく商人たちの中で、若いポランド・リットーミンへ目を留める。

ポランドは、過去の富と肩書だけを誇る商人たちへ、現在の連盟には新しい交易先と考え方が必要だと訴えた。

アントハトナは彼を試すため、フソウ連合とアルンカス王国への交易路を開拓するよう命じる。

両国との取引額を、商業連盟全体の三割以上へ成長させること。

それが成功の条件だった。

ポランドは無謀とも思える要求を、父の夢を継ぎ、世界一の商人になるための機会として受け入れる。

軍事だけでなく経済の面でも、フソウ連合とアルンカス王国は世界の注目を集め始めていた。


●魔女の変化と共和国の政治家●

フラレシア共和国では、アリシア・エマーソンがドクトルト教国とソルシャーム社会主義共和国連邦の関係を調査していた。

国際海路警備機構を通じた外交工作の結果、教国は連邦への支援を打ち切る。

そのアリシアのもとへ、かつて「災厄の魔女」と恐れられたアンネローゼが訪れる。

アリシアが想像していたのは、国や人間を弄ぶ恐ろしい魔術師だった。

しかし現れたのは、丁寧な言葉遣いをする、穏やかな一人の女性だった。

膨大な魔力を失い、雑草号の船長と結婚して普通の生活を知ったアンネローゼは、かつてとは大きく変わっていた。

それでも彼女が持つ過去の知識と経験は、帝国の魔術師や裏組織の動きを知るうえで、重要な意味を持っていた。


●合衆国が抱き始めた警戒●

アカンスト合衆国では、フソウ連合を将来の脅威と見る報告書が政府内で検討されていた。

補佐官ギルバート・リラッドクは、フソウ連合がさらに成長する前に、何らかの対抗策を取るべきだと主張する。

一方、副大統領デービット・ハートマンと国務長官マルキッド・エルドンフォントは、現在のフソウ連合が合衆国との条約を守っている以上、一方的な敵視は危険だと反論する。

大統領アルフォード・フォックスも、友好国を即座に敵と決めることは避けた。

しかし合衆国にとって、軍事、経済、外交のすべてで急速に成長するフソウ連合が、無視できない存在になったことは確かだった。

さらに合衆国政府は、社会主義共和国連邦への対抗勢力として、弱体化した新シルーア帝国を支援する可能性も検討する。

友好や正義だけではなく、複数の勢力を競わせて均衡を作るという大国の論理が動き始めていた。


●ミルネシア諸島

アルンカス王国の遥か南には、ドクトルト教国の支配下にあるミルネシア諸島が存在していた。

島々の住民は約三十年前に強制的な改宗を受け、その後は教国本土からほとんど顧みられずに暮らしていた。

そこへ、正体不明の組織を率いる「老師」が現れる。

老師が島々へ持ち込んだのは、異世界から物体や人間を呼び出すための大規模な魔術実験だった。

旧帝国魔術師ギルドの生き残りは、魔術書をもとに物体再構築の実験を行ったものの、魔力だけを奪われ、何も作り出すことができなかった。

召喚や再構築には、魔術書へ記されていない、何らかの重要な法則や技術が必要だったのである。

そこで老師たちは、別の世界から存在そのものを呼び寄せる方法を行う。

実験の場所として選ばれたのは、外部から隔離された八つの島だった。

そして魔力を生み出す材料として用意されたのは、約千人もの教国信徒を詰め込んだ輸送船だった。

彼らは実験の目的を知らされず、信仰のために選ばれた者だと信じていた。

老師にとって島の住民も信徒も、目的を達成するための消耗品にすぎなかった。


●世界を揺らす「門」●

アリシアのもとには、各国へ潜入した不審人物に関する情報も集まり始めていた。

捕らえられた工作員の死亡率は異常に高く、その多くが尋問前に自ら命を絶っている。

ウェセックス王国でも、事件への関与が疑われていたアルテミシア商会の関係者と家族が、各地で同時に命を絶つという異常事態が発生する。

それは、個人や一企業の規模では実行できない、強力な組織と精神操作の存在を示していた。

同じ頃、ミルネシア諸島では召喚実験が開始される。

八つの島に設置された装置が作動し、千人近い人々から集めた魔力が一点へ集中する。

空間は歪み、巨大な光の門が開かれた。

老師たちは、この世界と別の世界を結ぶことに成功したのである。

しかし、門の向こうから何が来るのかを、彼ら自身も完全には理解していなかった。


●異世界から現れた米艦隊●

門によって召喚されたのは、鍋島の世界とは別の歴史を歩んでいた世界のアメリカ海軍だった。

彼らは、珊瑚海方面の作戦へ向かっていた。

第十六任務部隊を率いるレイモンド・A・スプルーアンス少将。

第十七任務部隊を率いるフランク・J・フレッチャー少将。

二つの部隊には、空母エンタープライズとホーネット、重巡洋艦タスカルーサ、複数の駆逐艦、約百五十機の航空機が所属していた。

艦隊は突然光に包まれ、見知らぬ海へ投げ出される。

星の位置も、海図も、無線通信も、本来の世界と一致しない。

スプルーアンスたちは、何らかの異常事態によって、自分たちが未知の場所へ移動したことを認めざるを得なかった。

召喚に成功した老師は、その艦隊を鳥の目を通じて観察していた。

しかし、甲板に大砲を並べていない空母を輸送船の一種だと判断し、艦隊の本当の戦闘力を理解できなかった。

老師は彼らへ事情を説明することも、味方として迎えることもしない。

未知の艦隊をフソウ連合や国際海路警備機構と衝突させ、双方を消耗させようと考えたのである。

だが、その判断によって、異なる世界の二つの空母艦隊が、互いの正体を知らないまま接近することとなった。


●日章旗を掲げた英国型駆逐艦●

国際海路警備機構に所属するフソウ海軍の駆逐艦部隊は、商船団を護衛してパガラング海を航行していた。

そこへ、米艦隊の偵察機が接近する。

アメリカ側の搭乗員が目にしたのは、英国海軍に似た形の駆逐艦に掲げられた日章旗だった。

彼らの世界では、日本とアメリカは戦争状態にある。

そのため搭乗員たちは、見慣れない艦艇を日本海軍の新型艦、あるいは鹵獲艦だと判断する。

一方のフソウ側も、国籍不明機から攻撃態勢を取られたことで、相手を敵性航空機と判断した。

異世界へ召喚されたことも、フソウ連合という国家の存在も知らない米軍。

相手が別世界から来た人間だと知らないフソウ海軍。

双方の誤認によって、最初の接触は対話ではなく、航空攻撃となった。


●ホーネットへの夜襲●

フソウ側の駆逐艦は商船団を分散させ、自分たちが囮となって米軍機を引き離す。

対空戦闘によって被害を抑えたものの、国籍不明の航空部隊から攻撃された事実は、海軍本部へ重大事件として報告された。

その後、フソウ海軍の駆逐艦二隻は夜間に米艦隊へ接近する。

暗闇と魚雷を利用した奇襲によって、空母ホーネットへ損傷を与えることに成功。

ホーネットは速力と航空機運用能力を低下させる。

米軍はようやく、自分たちが戦っている相手が、知っている日本海軍とは異なる可能性を意識し始める。

しかし、すでに双方へ被害が出た以上、戦闘を簡単に止めることはできなかった。


●未知の空母艦隊を迎え撃つ●

フソウ海軍本部では、鍋島、山本平八大将、新見正人中将、川見悟大佐、的場良治大佐らが、未知の艦隊への対応を協議する。

敵は複数の空母と百機を超える航空機を持つ可能性が高い。

国籍も目的も不明だが、すでにフソウ側の艦艇と商船団を攻撃している。

鍋島は、相手を直ちに全滅させるのではなく、可能な限り艦艇と乗組員を確保し、正体と出現理由を調査するよう求める。

ただし、味方の安全を危険にさらしてまで捕獲へ固執する必要はなく、抵抗が激しければ撃破も認めた。

国際的な混乱を避けるため、表向きには大規模な海賊討伐作戦として発表し、周辺国へ戦闘海域へ近づかないよう警告を出す。

そして、空母戦を研究していた的場が、迎撃艦隊の指揮官に選ばれた。


●的場艦隊●

的場が率いる艦隊は、三つの部隊によって構成された。

第一部隊は、空母翔鶴と瑞鶴を中心に、秋月型防空駆逐艦を加えた空母部隊。

第二部隊は、戦艦榛名、霧島、重巡洋艦摩耶、鳥海、航空巡洋艦最上などからなる水上打撃部隊。

さらに伊号第四百一潜水艦を含む九隻の潜水艦と、補給・救助を担当する支援艦艇が配置される。

的場は、空母だけで敵空母を倒そうとは考えていなかった。

索敵、航空攻撃、艦隊防空、潜水艦、水上艦隊による夜戦を組み合わせ、相手の行動に応じて複数の手段を使えるようにしていた。

第一航空戦隊の指揮を任されたのは、中野守康少佐だった。

中野は的場と同期でありながら、早くから航空機の将来性を信じ、艦隊勤務ではなく航空畑を選んだ人物である。

長い間、海軍内部で航空主兵論を訴えてきた彼にとって、今回の戦いは、自分が信じてきた空母航空戦の価値を証明する機会でもあった。

その一方、未知の相手を技量の低い海賊程度に考える、危うい自信も抱えていた。


●パガラング海海戦●

ついに伊号第十九潜水艦が米艦隊を発見し、空母同士の戦いが始まる。

米軍は先に偵察機を送り、フソウ艦隊の位置を探ろうとする。

しかし、フソウ側の戦闘機に発見され、十分な情報を送る前に撃墜された。

的場艦隊は、戦闘機、艦上爆撃機、艦上攻撃機からなる五十七機の攻撃隊を発進させる。

米軍もエンタープライズとホーネットから攻撃隊を送り出し、互いの空母を探して広大な海上を飛ぶ。

二つの空母部隊は、艦艇同士が直接姿を見ることなく、航空機によって攻撃を交わすことになった。

それは、この世界で初めて行われる、本格的な空母対空母の決戦だった。

フソウ航空隊の攻撃

フソウ側の攻撃隊は、米軍の直掩戦闘機を零式艦上戦闘機で抑えながら、爆撃隊と雷撃隊を空母へ接近させる。

すでに夜襲で損傷していたホーネットは、十分な速力を出すことができない。

複数方向からの爆撃と雷撃によって、ホーネットはさらに大きな損傷を受け、航空母艦としての機能をほぼ失う。

護衛艦艇にも被害が広がり、米艦隊の航空機数は急速に減少した。

一方、米軍の第一次攻撃隊は、フソウ海軍のレーダー、戦闘機、秋月型駆逐艦による防空網へ阻まれ、空母へ決定的な損害を与えることができなかった。

空母、航空機、レーダー、防空駆逐艦を一体として運用してきたフソウ海軍の訓練成果が、実戦で発揮されたのである。


●ホーネットの選択●

米軍は、損傷したホーネットを艦隊とともに行動させることは不可能だと判断する。

乗組員は近くの島へ退避し、ホーネットは残された航空機とともに敵の注意を引きつける役割を担う。

空母一隻を犠牲にして時間を稼ぎ、エンタープライズと残存艦艇を生き残らせようとしたのである。

米軍は、残された航空機による最後の反撃を計画する。

一隊を高高度から正面へ向かわせ、フソウ側の戦闘機と防空部隊を引きつける。

その間に、もう一隊が低空で後方へ回り込み、空母へ接近する。

戦力的に追い詰められた米軍だったが、実戦経験と航空戦術まで失ったわけではなかった。


●翔鶴被弾●

米軍の陽動は成功する。

フソウ側は正面から接近する高高度編隊へ注意を集中し、低空で後方から迫る攻撃隊への発見が遅れた。

翔鶴は爆撃を受け、飛行甲板の約六割と格納庫の一部を損傷。

多数の搭載航空機を失い、航空機の発着ができなくなる。

防空駆逐艦春月は魚雷を受けて航行不能となり、後に味方の手で処分された。

涼月も艦首を失う大損害を受ける。

フソウ海軍は戦いに勝ちつつあったが、米軍の最後の反撃によって、決して小さくない代償を支払うこととなった。

中野は、自分が相手を過小評価し、防空配置を前方へ偏らせたことを悔やむ。

しかし翔鶴は、敵も優れた戦術と覚悟を持っていた結果であり、指揮官だけがすべてを背負うべきではないと彼を支える。

空母航空戦は、航空機の数や艦の性能だけで決まるものではない。

索敵、判断、欺瞞、攻撃方向、搭乗員の経験。

わずかな見落としが、空母一隻の戦闘能力を奪うことを、中野たちは実戦によって知る。


●夜の水上戦●

日没後、米軍の重巡洋艦タスカルーサと駆逐艦二隻は、損傷したフソウ空母へ夜襲を仕掛ける。

空母航空戦で敗れても、水上戦闘によって敵空母を道連れにしようとしたのである。

秋月型駆逐艦は、空母を守るため敵艦隊の前へ立ちはだかる。

その間に、最上を中心とする水上部隊が接近する。

的場は、敵が空母を狙って夜間に突入する可能性も考えており、吹雪型駆逐艦を別方向へ配置していた。

タスカルーサたちは最上の部隊へ注意を向けたところを、側面からの魚雷攻撃に捕らえられる。

重巡洋艦と二隻の駆逐艦は沈没し、米軍による最後の水上攻撃も失敗した。


●エンタープライズの降伏●

米艦隊に残された中心艦は、空母エンタープライズだった。

スプルーアンスは、撃墜されて海上へ落ちた搭乗員を救助するため、夜間にもかかわらず探照灯を点灯させていた。

それは敵へ自分の位置を知らせる危険な行為だった。

しかし彼は、艦を守るために搭乗員を見捨てることを選ばなかった。

フソウ側の戦艦榛名と霧島は、エンタープライズを射程へ収める。

だが、最初の砲撃は意図的に外された。

さらに、抵抗をやめれば攻撃しないという信号が送られる。

スプルーアンスは、相手が自分たちを皆殺しにするつもりではなく、降伏する機会を与えていることを理解する。

戦いを続けても、残された乗組員を死なせるだけだった。

彼はエンタープライズの旗を降ろし、フソウ海軍への降伏を決断する。

こうして、空母エンタープライズはほぼ無傷の状態でフソウ海軍に拿捕された。


●空母決戦の終結●

パガラング海海戦は、フソウ海軍の勝利に終わった。

米軍側は、エンタープライズを拿捕され、ホーネットも大破。

重巡洋艦タスカルーサと、ヒューズ、アンダーソン、ウェインライト、ウッドワースなどの駆逐艦を失う。

フレッチャー少将を乗せた駆逐艦ファレンホルトだけは、別行動中だったため戦場に姿を見せなかった。

フソウ側では翔鶴が中破し、涼月が大破。

そして春月が失われた。

春月は、フソウ海軍が戦争で初めて失った艦艇となった。

それでも鍋島は、勝利だけを喜ばなかった。

敵の高低差を利用した二方向攻撃は成功しており、フソウ側の索敵、レーダー、艦隊防空には改善すべき点がある。

もし相手の航空機数がさらに多ければ、翔鶴だけでなく瑞鶴まで失っていた可能性もあった。

鍋島は、敵味方を問わず海上の生存者を救助し、機体や艦艇の残骸を回収するよう命じる。

そして未知の艦隊が、自分と同じ異世界から来た存在である可能性を考え始める。


●戦場へ群がる者たち●

戦いが終わると、パガラング海周辺には各国の商船や工作員が集まり始める。

目的は、海上へ落ちた航空機の残骸と、未知の航空技術を手に入れることだった。

老師も、初めて空母という兵器の正体を理解する。

彼が輸送船と思っていた艦は、遠距離から航空機を放ち、戦艦以上の攻撃力を発揮する兵器だった。

老師は配下へ、米軍の生存者と航空機の残骸を回収するよう命じる。

ただし彼らにとって、生存者は救助すべき人間ではなく、技術と情報を引き出すための材料だった。

ホーネットから島へ避難していた米兵たちも、老師の組織に発見される。

組織は利用価値の高い一部の士官だけを連れ去り、残された兵士たちを殺害する。

異世界へ突然放り出され、降伏や対話の機会すら与えられなかった者たちは、召喚を行った組織の手によって命を奪われた。

一方、ほかの国家や商人も航空機の残骸を秘密裏に回収し始める。

パガラング海海戦によって、フソウ連合だけが持っていた航空技術の知識は、世界各地へ拡散し始めた。


●元の世界に残された謎●

米艦隊が消えた元の世界では、ニミッツ提督のもとへ異常な報告が届く。

エンタープライズとホーネットを中心とする二つの任務部隊が、残骸も救難信号も残さず、海上から消失したのである。

敵の攻撃を受けた形跡もなく、大艦隊が一斉に行方不明となる理由は説明できなかった。

二隻の空母を失ったことで、元の世界の太平洋戦争にも重大な影響が生じる。

異世界で起きたパガラング海海戦は、門の向こう側の歴史まで変えていたのである。


●フレッチャーとファレンホルト●

フレッチャー少将は、駆逐艦ファレンホルトに乗り、別方向の偵察へ向かっていた。

現地の船や住民から情報を集めた彼は、日章旗を掲げる国が大日本帝国ではなく、フソウ連合という別国家であることを知る。

フソウ連合は、受けた好意には好意で、敵意には相応の力で応じる国だとも聞かされた。

フレッチャーは、本隊とフソウ連合との戦闘が、誤解によって起きた可能性を感じ始める。

二日後、ファレンホルトが集合予定の島へ戻ると、米艦隊の姿はなく、ホーネットの乗組員たちが作った野営地だけが残されていた。

物資は奪われ、多くの米兵が殺害されている。

フレッチャーたちは、仲間を殺した者の正体も、本隊がどこへ消えたのかも分からないまま、未知の世界へ取り残された。


●海賊国家サネホーン●

孤立したファレンホルトへ接触したのは、海賊国家サネホーンの交渉役リンダ・エンターブラだった。

リンダは、ファレンホルトの国籍と乗組員の出身世界を見抜いていた。

彼女はフレッチャーへ、サネホーンの保護と物資を提供する代わりに、アメリカ海軍の技術と知識を渡し、国家へ協力するよう求める。

フレッチャーは、部下の安全を保証すること。

行方不明の仲間を捜索すること。

元の世界へ帰る方法を探すこと。

そしてホーネットの乗組員を殺した犯人を調査することを条件に、申し出を受け入れる。

サネホーンは、大破したホーネットと残された航空機も回収する。

これによってサネホーンは、空母、航空機、米軍の人材と知識を一度に手に入れた。

グラーフを中心とするサネホーンの指導者たちは、異世界から来た者たちを新しい仲間として迎える一方、その技術を利用して自国の航空戦力を作ろうとする。

海賊国家は、単に商船を襲う集団ではなく、独自の産業、造船能力、巨大空母まで保有する新勢力として、世界の表舞台へ現れ始めた。


●帰ってきた春月●

戦いの後、現実世界の鍋島のジオラマへ、一隻の模型が戻ってくる。

失われた防空駆逐艦春月だった。

模型は激しく壊れ、細かな破片となっていた。

鍋島は一つひとつの破片を拾い集め、箱へ収める。

そして艦名、喪失した海域、日付を記し、これまで失った者たちのために用意していた仏壇のそばへ置いた。

フソウ海軍の艦艇は、鍋島にとって交換可能な兵器ではない。

付喪神と乗組員を含め、それぞれが自分の意思と人生を持つ仲間だった。

だからこそ、勝利しても一隻を失った事実を忘れることはできなかった。

東郷は、すべての責任と悲しみを一人で背負おうとする鍋島へ、自分にも分けてほしいと伝える。

鍋島は東郷へ仏間の鍵を渡し、彼女を恋人としてだけでなく、自分の最も私的な場所へ迎え入れる。

春月を失った悲しみが消えるわけではない。

それでも鍋島は、その悲しみを共有してくれる相手とともに、次の戦いと未来へ進むことになる。


●空母対空母編●

第十九章から第二十章で描かれたのは、単なる二つの空母艦隊による勝負ではない。

異なる世界。

異なる歴史。

異なる常識。

そして互いを知らない者同士が、誤解と第三者の思惑によって戦わされた物語である。

フソウ海軍は、空母航空隊、レーダー、防空駆逐艦、潜水艦、水上艦隊を組み合わせ、米艦隊へ勝利した。

しかし、それは一方的な勝利ではなかった。

米軍の実戦的な欺瞞攻撃は翔鶴を戦闘不能にし、春月はフソウ海軍最初の喪失艦となった。

フソウ海軍は、自分たちの装備と訓練が世界最高だと思い込む危険を知る。

一方、米軍も、日章旗を見ただけで相手を日本軍と判断し、対話より先に攻撃したことで、取り返しのつかない戦いへ入ってしまった。

そして、戦場の外ではさらに大きな変化が起きている。

老師の組織は異世界を結ぶ門を完成させた。

各国は航空機の残骸を手に入れた。

サネホーンはホーネットと米軍人を獲得した。

アカンスト合衆国はフソウ連合を警戒し、ポルメシアン商業連盟は新たな市場へ動き始めた。

パガラング海海戦は終わった。

しかし、その海戦によって航空技術と異世界召喚という二つの力が世界へ放たれ、次の時代が始まろうとしていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。