第七回 帝国崩壊編(第十七章~第十八章)
※本ページには、『異世界艦隊日誌』第十七章から第十八章までの内容および結末に関するネタバレが含まれています。
●生まれる国と、滅びゆく国●
四月一日。
アルンカス王国は、フソウ連合、ウェセックス王国、フラレシア共和国との条約締結を経て、正式に独立を果たした。
チャッマニー姫は、共和国の支配下で味わった苦しみを忘れず、それでも憎しみに囚われることなく、未来へ進もうと国民へ呼びかける。
長く他国に支配されていたアルンカス王国が、新しい国家として歩み始めたその頃、海の向こうでは、一つの大国が崩壊へ向かっていた。
聖シルーア・フセヴォロドヴィチ帝国である。
フソウ連合との戦争によって東方艦隊を失い、ヒュドラ作戦ではティルピッツをはじめとする多くの艦艇を喪失。
さらに帝国海軍の重要拠点アレサンドラ軍港も攻撃され、帝国海軍は組織として分裂し始めていた。
ノンナとビルスキーア少将は、北部地区と残存艦隊の統制を維持していたものの、それ以外の基地や部隊の中には、中央政府の命令を無視し、独自に行動する者も増えていた。
民衆は重税と圧政に苦しみ、親衛隊は反乱を武力で押さえつけ、帝国東部では中央政府から離反する動きが拡大していく。
帝国は外国軍によって滅ぼされようとしていたのではない。
政治、軍事、経済、そして国民との信頼関係が内側から崩れ、自ら国家としての形を失おうとしていたのである。
●帝国東部の反乱●
帝国東部は、かつて帝国有数の穀倉地帯だった。
しかし、帝国東方艦隊の敗北とジュンリョー港の破壊によって、中央政府から見捨てられた地域となっていた。
さらに、親衛隊による「城塞都市クリチコの大虐殺」から逃れた難民が大量に流れ込み、中央政府への怒りは限界へ達する。
その東部で人々をまとめていたのが、アレクセイ・ユーリエヴィチ・ハントルンだった。
彼は帝室の血を引きながら、皇位継承権を放棄し、一人の市民として東部の都市を治めてきた人物である。
帝国を支配したいのではなく、中央政府と親衛隊の暴政から、東部に暮らす人々を守りたい。
その思いから、アレクセイは帝国政府への抵抗を始める。
だが、東部の軍事力だけでは、親衛隊や帝国海軍に対抗することはできない。
そこへ接近してきたのがドクトルト教国だった。
教国は物資、艦隊、兵士の提供を申し出る。
表向きは、宗教を弾圧する帝国から人々を救うための支援だった。
しかし教国にも、東部地区へ影響力を広げ、自国の宗教的・政治的立場を強化する狙いがある。
東部の民衆を救いたいアレクセイと、帝国内へ勢力を伸ばしたい教国。
帝国の崩壊を前に、それぞれ異なる目的を持つ者たちが動き始めていた。
●変わり始めた災厄の魔女●
イタオウ地区で川見悟に撃たれたアンネローゼは、転移魔術によって海上へ逃れ、密輸船「雑草号」に救助されていた。
かつての彼女は、強力な魔術によって人間を操り、欲望や嫉妬を利用して、国や組織を内側から破壊してきた。
しかし重傷を負い、魔力の大半を失い、他人の助けがなければ生きられない立場となったことで、その考えは少しずつ変化していく。
雑草号の船員たちは、アンネローゼの過去を知らない。
彼女を特別な魔女としてではなく、一人の女性として扱った。
船の仕事を手伝い、食事をともにし、時には冗談を交わす。
アンネローゼは、自分を利用しようとせず、見返りも求めずに接してくれる人々の中で、初めて普通の暮らしを知る。
帝国へ戻ったアンネローゼを待っていたのは、祖国への温かな歓迎ではなかった。
親衛隊長官エリクは、帝国宰相グリゴリーの孫であり、強大な魔術師でもある彼女を危険視していた。
アンネローゼを帝国外へ追い出し、共和国側の人間に始末させる計画まで進めていたのである。
帝国海軍は、アンネローゼを乗せた雑草号を海上で捕捉する。
しかしノンナは、以前のアンネローゼと、目の前にいる女性がすでに別人に近いことを見抜く。
魔力を失い、雑草号の人々を守ろうとし、自分の過去と向き合おうとしている。
ノンナは、彼女を捕らえず、そのまま共和国へ向かわせることを決めた。
アンネローゼは、雑草号の船長へ自分の過去をすべて告白する。
多くの人間を操り、死や破滅へ追い込んだこと。
かつては、それを楽しんでいたこと。
それでも船長は、過去の彼女ではなく、今を生きようとしている彼女を受け入れる。
アンネローゼは共和国で船長と結婚し、かつての名前を捨てた。
国々から恐れられた「災厄の魔女」は姿を消し、一人の女性として新しい人生を歩き始めることとなった。
●生き残る道を探す帝国海軍●
帝国海軍を率いるノンナとビルスキーア少将は、帝国中央政府と親衛隊を、もはや信頼できないと判断していた。
親衛隊が政権を掌握すれば、帝国海軍はいずれ解体されるか、親衛隊の戦力として吸収される。
一方で帝国海軍単独では、親衛隊、新たな反乱勢力、そして国外の敵をすべて相手にすることはできない。
そこで二人は、これまで敵対してきたウェセックス王国とフソウ連合へ、秘密交渉を申し入れる。
王国との交渉には商人レナート・スヴャトスラーフ・ミッセルン。
フソウ連合との交渉には法律家ダーリア・ユーリエヴィチ・ドロウが派遣された。
帝国政府の正式な外交ではない。
帝国海軍という一組織が、生き残るために独自に行う交渉だった。
アッシュ王子をはじめとする王国側は、帝国海軍の申し出を受け入れる方向で動く。
フソウ連合もまた、親衛隊や東部の新勢力が帝国全土を支配するより、比較的規律を維持している帝国海軍が北部を押さえていた方が、国際情勢を安定させられると判断する。
ただし、フソウ連合も王国も、帝国の内戦へ直接参戦することは避けた。
提供するのは物資、修理、情報といった間接的な支援であり、帝国海軍自身が自分たちの未来を切り開かなければならない。
ノンナたちは、敵国へ屈服したのではない。
守るべき人々と艦隊を生き残らせるため、過去の敵と手を結ぶことを選んだのである。
●親衛隊が手にした新戦力●
帝国中央では、親衛隊長官エリクが、皇帝と宰相の権威を利用して実権を握ろうとしていた。
彼は帝国魔術師ギルドと協力し、異世界由来の艦艇を新たに出現させる計画を進める。
その結果、親衛隊はドイッチュラント級装甲艦、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦、Z型駆逐艦などを基にした新戦力を手に入れた。
ただし、それは新しい艦艇だけを出現させたものであり、フソウ海軍のように複数国の技術や知識を組み合わせ、改良し続ける仕組みを持つものではなかった。
鍋島は、完成した艦艇を突然出現させるその方法に、自分の模型実体化能力と似たものを感じる。
帝国には、自分と同じように異世界の兵器を現実化させられる何者かがいるのではないか。
帝国の内乱は、政治と軍事だけでなく、異世界の力をめぐる新たな謎も生み出していた。
●皇帝暗殺●
五月一日。
帝国皇帝カルル・レオニード・フセヴォロドヴィチが、視察先のホテルで暗殺された。
犯人は帝国東部出身の男であり、皇帝に恨みを持っていた。
犯行後、男はドクトルト教の聖印を掲げ、自ら命を絶つ。
事件は多くの一般人が利用するホテルで起きたため、帝国政府も隠蔽できず、皇帝暗殺の情報は瞬く間に世界中へ広まった。
帝国の最高権力者が突然失われたことで、辛うじて保たれていた中央政府の秩序は決定的に崩れ始める。
皇帝暗殺の報告を受けても、ダーリアはフソウ連合との交渉を中断しなかった。
本国から新たな命令が届く保証も、帝国政府そのものが存続する保証もない。
今ここで合意を結ばなければ、帝国海軍と北部住民を救う機会を失う。
そう判断した彼女は交渉を続け、五月三日、帝国海軍とフソウ連合の間に秘密休戦協定を成立させる。
帝国海軍が実権を握った場合、フソウ連合へキナリア列島を譲渡し、ジュンリョー港周辺を期限付きで貸与する。
その代わりフソウ連合は、物資、艦艇修理、支援部隊の派遣を行う。
ビスマルクとグナイゼナウの修理も、フソウ連合の協力によって進められることになった。
●親衛隊と教国の衝突●
皇帝暗殺後、長年帝国を支えてきた宰相グリゴリーも倒れる。
皇帝の死、魔術師ギルドの崩壊、自らの野望が失敗したという現実によって、心身ともに限界へ達したためだった。
グリゴリーが宰相を辞任したことで、中央政府の権力は親衛隊長官エリクへ集中する。
エリクは皇帝暗殺の責任を、東部の指導者アレクセイ・ハントルンとドクトルト教国へ押しつける。
これに対し、教国のイオーアンネース総主教は、東部の人々を救うという名目で艦隊と三万の兵士を帝国へ派遣する。
帝国の内乱は、ついに国外勢力を巻き込む戦争へ拡大した。
エリクが教国艦隊への対処を任せたのは、失脚していたアデリナだった。
ティルピッツを失い、ノンナにも去られた彼女は、以前の地位も艦隊も持っていなかった。
しかし親衛隊の新造艦艇を与えられたことで、再び海軍指揮官として戦場へ戻る。
アデリナは、重巡洋艦プリンツ・オイゲンと駆逐艦部隊を巧みに動かし、教国艦隊を翻弄する。
親衛隊の装甲艦部隊も加わり、教国の戦闘艦隊と輸送船団は壊滅。
教国が送り込んだ精鋭部隊の大半も、帝国へ上陸する前に失われた。
帝国への影響力を広げようとした教国の介入は、逆に国家的な大損害を生む結果となった。
●社会主義共和国連邦の誕生●
東部地区では、アレクセイ・ハントルンの部下であるイヴァン・ラッドント・クラーキンが、民衆へ向けた大規模な宣言を提案する。
皇帝や貴族、親衛隊の特権を否定し、すべての人間が平等に富を分かち合う国家を作る。
その理想は、貧困と圧政に苦しむ帝国国民にとって、非常に魅力的なものだった。
五月三十日。
帝国東部は、帝国からの離脱と、
「ソルシャーム社会主義共和国連邦」
の建国を宣言する。
宣言は帝国全土へ広がり、労働者のストライキ、農民の反乱、親衛隊部隊の離反を引き起こした。
民衆は、古い帝国を倒せば、誰もが平等で豊かに暮らせると信じたのである。
だが、鍋島は、その理想が簡単には実現しないことを知っていた。
すべての人間を完全に平等にし、同じように富を分配する仕組みは、やがて強力な統制と独裁を必要とする。
国民に希望を与える美しい言葉が、別の形の抑圧へ変わる危険もある。
フソウ連合は新国家をただちに支持せず、王国、共和国、合衆国と情報を共有しながら、情勢を見守ることを決める。
同時に、帝国海軍への秘密支援は継続された。
●帝国全土を覆う反乱●
社会主義共和国連邦の宣言は、親衛隊が予想していた以上の速度で帝国全土へ広がった。
各地で国民義勇軍が結成され、親衛隊部隊を攻撃する。
親衛隊の中からも離反者が相次ぎ、首都防衛部隊すら、まともに戦うことなく崩壊していった。
ただし、国民義勇軍がすべて国民を守る解放軍だったわけではない。
急激に集められた兵士たちは十分な統制を受けておらず、一部の指揮官は民兵を使い捨てにし、占領地では報復や虐殺も発生する。
旧帝国の圧政を倒すために立ち上がったはずの軍隊が、別の暴力を生み始めていた。
帝国は、正義の反乱によって整然と生まれ変わったのではない。
親衛隊、国民義勇軍、地方軍閥、帝国海軍が争い、国家全体が無秩序へ沈んでいったのである。
●エスケープ・プラン●
親衛隊海軍部隊を率いるアデリナは、モッドーラ軍港で国民義勇軍の攻撃を受けていた。
親衛隊の中央組織は崩壊し、補給も途絶え、周囲の地域は次々と反乱軍の手へ落ちている。
モッドーラを守り続けても、いずれ艦隊と将兵をすべて失う。
アデリナは西部最大の軍港ラッサーラへ撤退し、残存戦力と物資を保存することを決める。
それが「エスケープ・プラン」だった。
軍港に残された艦艇、燃料、弾薬、設備を可能な限り運び出し、持ち出せない施設は破壊する。
国民義勇軍へ利用できるものを残さず、将兵と艦隊を生き延びさせる。
かつてのアデリナであれば、名誉や勝利へ固執し、最後まで戦うことを選んだかもしれない。
しかし彼女は、部下と未来を守るため、敗北を認めて撤退する決断を下した。
国民義勇軍は圧倒的な兵力でモッドーラへ攻撃を繰り返す。
だが、アデリナたちの防衛部隊は機雷、鉄条網、塹壕、艦砲射撃を利用し、攻撃を食い止める。
その間に輸送船団は、兵士、民間人、物資を乗せて順次出港する。
最後に残った部隊も夜間に撤収し、プリンツ・オイゲンをはじめとする艦艇が港湾施設を破壊する。
国民義勇軍はモッドーラを占領したものの、手に入れたのは炎上し、軍事的価値を失った軍港だった。
アデリナは領土を失ったが、将兵と艦隊、そして西部で再起するための力を守ったのである。
●アデリナとノンナの決別●
西部へ向かうアデリナ艦隊は、帝国海軍が支配する北部海域を通過しなければならなかった。
前方に現れたのは、シャルンホルストを中心とするノンナの艦隊だった。
アデリナ艦隊は十六隻。
対する帝国海軍は約五十隻。
戦闘になれば、アデリナ側に勝ち目はほとんどない。
それでもアデリナは、砲塔を動かさず、砲身の覆いも外さず、攻撃の意思がないことを示したまま前進する。
ノンナもまた砲撃を命じなかった。
二つの艦隊は、互いに一発も撃つことなくすれ違う。
シャルンホルストから送られたのは、航海の無事を祈る信号だった。
それは、今回だけは見逃すという意思であり、次に会えば敵として戦うという警告でもあった。
アデリナは、ノンナが自分のもとへ戻ることはないと理解する。
そのうえで彼女を敵として認め、いつか自分の本当の力を見せると心に決める。
長く主従として行動してきた二人は、言葉を交わすことなく、別々の国家を率いる道へ進んだのである。
●親衛隊長官の最期●
帝都を脱出した親衛隊長官エリクは、副官とともに一般市民へ変装し、西部地区へ逃れようとする。
帝国を支配する野望を抱き、多くの民衆を犠牲にしてきた男は、最後には自らの階級も権力も捨て、難民の中へ紛れ込んでいた。
しかし逃亡途中、二人は親衛隊の一団と遭遇する。
それは、規律を失い、難民を脅し、殺すことを楽しむ集団だった。
エリクは、自分たちが育て、暴力を許し、国民を恐怖で支配するために使ってきた親衛隊によって撃たれる。
身分を証明する物を捨てていた彼の言葉を聞く者はいなかった。
帝国を支配しようとした親衛隊長官は、最後には名もない難民の一人として、自らが生み出した暴力に呑み込まれて死んだのである。
●西部へ到着した黄金の姫騎士●
アデリナ艦隊は、多くの将兵と物資を守ったまま、西部地区のラッサーラ軍港へ到着する。
彼女を待っていたのは、敗戦者への冷たい視線ではなく、軍人と住民による大歓迎だった。
西部地区を治めていた親衛隊上級大将ドミートリイ・ロマーヌイチ・プルシェンコは、権力欲のない穏健な軍人だった。
彼の統治によって、西部は帝国の他地域に比べて政治的にも経済的にも安定していた。
しかし帝国中央と親衛隊上層部が消滅したことで、西部にも人々をまとめる新たな指導者が必要となっていた。
フソウ連合に敗れる以前のアデリナは、軍艦とノンナを中心とする狭い世界だけを見ていた。
だが、敗北、失脚、再起、そしてモッドーラからの撤退を経験し、彼女は部下や民衆へ目を向け始める。
ラッサーラで自分へ声援を送る人々を見たことで、アデリナは初めて、誰かに支持され、期待される喜びを知る。
プルシェンコは、名声と人を惹きつける力を持つアデリナに、西部地区の指導者となるよう求める。
アデリナは戸惑いながらも、自分が好きな艦艇を増やし、自分と関わる人々を豊かにすることも、国家を導く理由になると考え始める。
●ショウメリア公国の誕生●
六月二十一日。
帝国海軍と北部地区は、旧帝国からの離脱を宣言する。
彼らが新たな指導者として選んだのは、
ノンナ・エザヴェータ・ショウメリア。
かつて帝国五大公爵家の一つだったショウメリア家の血を引く、唯一の継承者だった。
ショウメリア家は、かつて帝位継承争いの中でグリゴリーの謀略によって失脚し、その当主も殺されていた。
ノンナは生き残ったショウメリア家の血を継ぎ、父と一族の名誉を取り戻すため、長い年月をかけて帝国海軍内部で力を蓄えていたのである。
帝国海軍は、悪評と失敗を重ねた旧帝国の名を捨て、
「ショウメリア公国」
として独立する。
ノンナは公国の指導者となり、帝国海軍は新国家の海軍へ移行する。
フソウ連合と王国との秘密休戦協定も維持され、両国の支援を受けながら、北部地区の住民と艦隊を守っていくことになる。
ノンナが望んでいたのは、単なる復讐ではない。
両親と一族から奪われたものを取り戻し、北部の人々が安心して暮らせる国を作ることだった。
●新たなシルーア帝国●
ショウメリア公国の独立宣言を知ったアデリナは、ノンナがショウメリア公爵家の血を引く人物だったことを初めて知る。
フセヴォロドヴィチ家とショウメリア家には、帝位継承をめぐる深い因縁があった。
そしてノンナは、長年その正体と目的を隠しながら、自分の副官として行動していた。
アデリナは怒りを抱きながらも、ノンナを自分と対等な敵として認める。
北部がショウメリア公国となった翌日、西部地区はアデリナを皇帝に推戴する。
新国家の名は、
「シルーア帝国」。
旧帝国の正当な後継国であることを主張しながら、「聖」の名とフセヴォロドヴィチ家の名を国号から外し、過去とは異なる国家を目指すこととなった。
●三つに割れた帝国●
こうして、かつて世界最強と恐れられた帝国は、三つの国へ分裂した。
東部と中央・南部の一部を支配する、ソルシャーム社会主義共和国連邦。
北部の帝国海軍を母体とする、ノンナのショウメリア公国。
西部地区と親衛隊残存部隊をまとめる、アデリナのシルーア帝国。
三つの国は、同じ帝国から生まれながら、それぞれ異なる思想、政治体制、指導者を持つ。
帝国崩壊によって戦争が終わったわけではない。
むしろ、一つだった敵が三つの国家へ分かれ、新たな対立と外交関係が生まれたのである。
フソウ連合とウェセックス王国はショウメリア公国を支援する。
謎の連盟はアデリナのシルーア帝国を支援する。
一方、ソルシャーム社会主義共和国連邦は主要国から距離を置かれ、その思想を外国の植民地や貧困地域へ広め始める。
鍋島は、帝国の崩壊によって生まれた新しい勢力図を分析しながら、フソウ連合とアルンカス王国を結ぶ戦略拠点として、キナリア列島の確保を進めることを決める。
そして七月二日。
アルンカス王国の遥か南にある海域へ、この世界のどの国にも属さない艦隊が突如として出現する。
その艦隊が掲げていたのは、この世界には存在しないはずの旗――星条旗だった。
帝国崩壊によって世界の秩序が大きく変わる中、異世界から来た新たな艦隊が、次の物語を動かし始めるのである。
●帝国崩壊編●
第十七章から第十八章で描かれた帝国の崩壊は、一度の決戦によってもたらされたものではない。
無能な皇帝。
権力を独占した宰相。
国民を恐怖で支配した親衛隊。
軍同士の対立。
重税と貧困。
宗教弾圧。
そして、国家と国民の未来より、自らの権力や利益を優先した者たち。
それらが長い時間をかけて帝国の内部を腐らせ、皇帝暗殺をきっかけとして一気に崩れ落ちた。
しかし、帝国が崩れた後に生まれた三つの国も、必ずしも希望だけを象徴する存在ではない。
平等を掲げながら独裁へ向かう可能性を持つ連邦。
旧帝国の海軍と貴族制度を引き継ぐ公国。
過去の帝室の血と親衛隊残存部隊を基盤とする新帝国。
崩壊は終わりではなく、次の争いの始まりでもある。
その中で、ノンナとアデリナは、それぞれ自分の国を背負う指導者となった。
アンネローゼは過去の自分を捨て、一人の女性として新たな人生を選んだ。
帝国という巨大な枠組みが消えたことで、人々は否応なく、自分がどこに立ち、何を守り、どの未来を選ぶのかを問われることになったのである。




