第二回 帝国東方戦役編(第四章~第六章・外伝1)
※本ページには、『異世界艦隊日誌』第四章から第六章、および外伝1「ドライブに行こう」の内容と結末に関するネタバレが含まれています。
● 帝国から下された勅命●
シマト諸島に送り込んだ部隊との連絡が途絶えたことを受け、シルーア帝国東方方面海軍司令長官アレクセイ・イワン・ロドルリス大将は、帝国首都クラーンロへ向かった。
帝国海軍に三十年以上身を置くアレクセイは、自国の海軍に強い愛着を持っていた。しかし、皇帝直属の親衛隊が優遇される一方、海軍の上申は握り潰され、士気も低下している。
それでもアレクセイは軍人として、フソウ連合で何が起こったのかを皇帝へ報告した。
だが、皇帝カルル・レオニード・フセヴォロドヴィチは、事情を詳しく調べようともせず、帝国に逆らったフソウ連合を滅ぼすよう命じる。
さらに、帝国の実権を握る宰相グリゴリー・エフィモヴィチ・ラチスールプ公爵も、異常なほど強くフソウ連合の滅亡を求めた。
その理由を知らないまま、アレクセイは皇帝の勅命に従い、フソウ連合への侵攻準備を始める。
●王国へ帰還したアッシュ●
一方、ガサ沖海戦で捕虜となっていたアッシュ――アーリッシュ・サウス・ゴバーク王子は、ウェセックス王国へ帰還した。
アッシュがフソウ連合に滞在している間、王国では大きな政変が起きていた。
アンネ・ルククファンと名乗る一人の女が王国海軍上層部へ入り込み、王族や貴族、提督たちを次々と惑わせた。その結果、王位継承をめぐる派閥争いが激化し、王国海軍の主力艦隊までが帝国との無謀な戦いへ投入される。
帝国側には、魔術によって異世界から召喚された戦艦ビスマルクとテルピッツが存在していた。
王国の主力三個艦隊は、この二隻を中心とする帝国艦隊によって壊滅的な損害を受け、戦いに関わった王族や有力貴族も多数死亡する。
結果として、遠征に出されていたため政争から外れていたアッシュの王位継承順位は大きく上昇した。
だが、アッシュ自身は王位を得ることより、フソウ連合と王国との間に対等な関係を築くことを望んでいた。
親友ミッキー・ハイハーンたちと再会したアッシュは、フソウ連合の軍事力だけでなく、鍋島貞道という人物と、彼が目指す国の在り方について語る。
王国が生き残るためには、フソウ連合を敵ではなく、友として迎えるべきだと考えていたのである。
●帝国に潜む魔術師たち●
王国を混乱させた女の正体は、帝国宰相グリゴリーの孫であり、魔術の弟子でもあるアンネローゼだった。
アンネローゼは王国の人間たちを操り、王族同士を争わせ、王国海軍の主力を帝国艦隊との戦いへ誘導していた。
そして、その祖父であるグリゴリーも、単なる政治家ではなかった。
彼は魔術師として、異世界からビスマルクとテルピッツを召喚した張本人だったのである。
この世界の技術では再現できない二隻の戦艦は、帝国に圧倒的な軍事的優位をもたらした。
しかし、召喚には多大な犠牲と特殊な触媒が必要であり、同じ方法を何度も使えるわけではない。それでもグリゴリーは、フソウ連合の存在を知ったことで、再び異世界から何かを召喚する可能性を探り始める。
フソウ連合と帝国の戦いの背後では、艦隊と艦隊の戦争だけでなく、異世界同士を結ぶ魔術をめぐる戦いも、静かに始まろうとしていた。
●第一次シマト諸島攻防戦●
帝国東方艦隊は、フソウ連合を滅ぼすという勅命を受け、シマト諸島へ進軍する。
敵艦隊の接近を察知した鍋島は、現地の状況を最もよく理解している的場良治少佐に迎撃作戦の立案と指揮を任せた。
的場は、帝国艦隊が一つの大艦隊として行動する前に、先行部隊と後続部隊を分断し、それぞれを各個撃破する作戦を立てる。
しかし、急速に出世した的場を快く思わない指揮官もいた。
特に野辺大佐は、年下で軍人らしく見えない的場の命令に強く反発する。それでも、ひとたび戦闘が始まれば、一人のフソウ海軍軍人として自らの役割を果たした。
夜の海で、フソウ艦隊は複数の部隊に分かれ、帝国艦隊を包囲する。
照明弾によって敵を照らし出し、射程、速力、射撃精度、通信能力を生かして一方的な砲撃を加える。
帝国艦隊は数で勝っていたが、部隊間の連携や情報伝達ではフソウ艦隊に及ばなかった。
的場は味方の各部隊に明確な役割を与え、敵の動きを読みながら戦場全体を動かす。
その結果、帝国の派遣艦隊は壊滅。フソウ連合側は軽微な損害で勝利を収め、第一次シマト諸島攻防戦は終結した。
この勝利によって、的場は単なる勘の鋭い指揮官ではなく、複数の部隊を動かして戦場を支配できる作戦指揮官であることを証明する。
彼に反発していた者たちも、その能力を認めざるを得なかった。
● 勝利の後に送られたもの●
シマト諸島での勝利を知った鍋島は、増援の戦闘艦だけを送ったのではなかった。
負傷者を治療するための病院船氷川丸。
将兵へ温かい食事を提供するための給糧艦間宮。
そして、損傷した艦を修理し、部隊を支えるための各種支援艦艇。
戦いに勝った者たちを休ませ、傷ついた者を治療し、生きて帰ってきた将兵を労うことも、長官の仕事だと鍋島は考えていた。
的場は、その措置に鍋島の考え方を見る。
鍋島は自分を軍人ではないと思っていたが、だからこそ、軍人が戦争の中で忘れがちなものを大切にしていた。
その姿勢は、的場だけでなく、山本平八中将をはじめとする海軍の指揮官たちにも少しずつ影響を与えていく。
● 王国の決断●
帝国東方艦隊がフソウ連合に敗れたという情報は、ウェセックス王国にも届いた。
これによって、アッシュが主張していたフソウ連合の軍事力と、その重要性が証明される。
王国国王ディラン、宰相エドワード・ルンデル・オスカー公爵、海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿は、帝国との戦争を続けながら王国を立て直すためには、フソウ連合との関係改善が必要だと判断する。
アッシュには、フソウ連合との講和と同盟を進めるよう正式な命令が下された。
しかし、王位継承順位が上昇したアッシュ自身が国外へ出れば、王国内の政争を刺激しかねない。
そこで使節団の代表として選ばれたのが、アッシュの親友ミッキー・ハイハーン少佐だった。
ミッキーを中心とする王国使節団は、高速巡洋艦アクシュールツに乗り、フソウ連合へ向かうことになる。
●世界を知るための航海●
フソウ連合でも、外の世界を知るための活動が始まっていた。
伊号第四百潜水艦と伊号第四百一潜水艦は、偵察機を活用しながら周辺海域を調査する。
その成果によって、フソウ連合の周囲に存在する国家、植民地、島々、海上交通路などが、少しずつ明らかになっていく。
鍋島たちは、自分たちが世界のどこにいて、どの国がどの地域へ勢力を伸ばしているのかを初めて具体的に把握し始めた。
それは、フソウ連合が嵐の結界の中だけを見ていた時代から、世界全体を見渡す国家へ変わるための第一歩だった。
●帝国内部で動き始める者たち●
帝国では、フソウ連合との戦いとは別に、複数の動きが始まっていた。
帝国海軍中央艦隊司令長官であり、「黄金の姫騎士」と呼ばれるアデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチは、王国海軍が弱体化している間に決着をつけるべきだと考えていた。
彼女はビスマルクとテルピッツの修理を急がせ、再び王国へ攻勢をかけようとする。
短気で感情的な面を持つ一方、理由を説明されれば自分の非を認め、部下や技術者へ頭を下げることもできる指揮官だった。
その傍らには、冷静な副官ノンナが付き従い、暴走しがちなアデリナを支えていた。
また、帝国の魔術師たちは、ビスマルクとテルピッツに続く新たな召喚艦の可能性を探り始める。
一方、重税と圧政に苦しむ帝国の民衆の間でも、国を変えようとする者たちが動き始めていた。
表では皇帝と宰相、軍部が戦争を進め、裏では魔術師と反体制勢力がそれぞれの思惑によって動く。
帝国は強大な軍事力を持ちながら、その内部にはいくつもの亀裂を抱えていた。
●王国使節団の到着●
王国使節団を乗せたアクシュールツは、嵐の結界を越え、フソウ連合へ到着する。
使節団が最初に目にしたのは、南方方面艦隊の整然とした警戒体制と、建設途中の南部基地だった。
完成していない基地でありながら、施設は計画的に配置され、将兵は高い規律を保っている。
さらに、長い航海を終えた使節団へ弁当や酒が提供され、彼らはフソウ連合の軍事力だけでなく、相手をもてなす文化にも触れることになる。
アクシュールツは、正式な外交使節を乗せてフソウ連合を訪れた最初の外国軍艦となった。
● 偽りの代表者●
使節団の中には、ノルデン・ジョージ・スルクリン男爵という貴族も加わっていた。
スルクリン男爵は、若く穏やかに見える鍋島を侮り、自分こそが交渉の全権代表であると偽る。
彼が用意した書簡には、フソウ連合を王国の支配下に置くような、到底受け入れられない条件が並べられていた。
だが、鍋島は男爵の態度に動揺することなく、その言葉と書類の不自然さを見抜く。
やがてミッキーとクルッシュ・イターソン大尉が現れ、スルクリン男爵の偽装は暴かれた。
男爵はミッキーたちへ薬を盛って交渉から排除しようとしていたうえ、王国に敵対する勢力とも通じていたのである。
男爵とその一派は拘束され、王国側の内部問題として処理される。
鍋島は、男爵の行動を理由に王国使節団全体を非難しなかった。
むしろ、王国内部の不正を明らかにする機会になったとして、本来の交渉を続ける。
この対応によって、ミッキーたちは鍋島が単に温厚なだけではなく、相手の意図を読みながらも、必要以上に追い詰めない人物であることを知る。
●講和と同盟交渉●
王国側が求めたのは、三つだった。
フソウ連合との休戦、または講和。
両国間の軍事同盟。
そして、文化と貿易による交流の活性化である。
帝国との戦いで主力艦隊を失った王国には、フソウ連合の助力が必要だった。
そのため王国側は、植民地の譲渡を含む非常に大きな条件を用意していた。
しかし、鍋島は王国の植民地を求めなかった。
フソウ連合には、遠く離れた植民地を統治する余裕がない。それ以上に鍋島自身が、強国が弱い国や地域を支配する植民地制度を好ましく思っていなかったためである。
鍋島は、王国が過大な代償を支払わなくても、帝国に対抗するための協力を行う意思を示す。
ただし、フソウ連合自身も帝国と戦争状態にあり、保有する主力艦を簡単に手放すことはできなかった。
そこで鍋島が提示したのが、新たに実体化させた二隻の戦艦を王国へ譲渡する案だった。
こうして、ウェセックス王国とフソウ連合との間に、講和と軍事同盟を含む包括的な条約が結ばれることになる。
●ネルソンとロドニー●
フソウ連合が王国へ譲渡することを決めた艦は、ネルソン級戦艦ネルソンとロドニーだった。
前方に三基の主砲塔を集中配置した独特の艦影と、四十センチ級の主砲を持つ二隻は、王国の既存艦を大きく上回る戦力だった。
王国側から派遣された乗組員候補は、フソウ連合で徹底した訓練を受けることになる。
同時に、学生街、貿易拠点、外交窓口として開発される島々の整備も急速に進められた。
同盟は、条約書へ署名するだけのものではなかった。
軍人の交流、技術の習得、貿易、文化交流、外交施設の整備など、両国を実際に結びつける仕組みが作られ始めていたのである。
ネルソンとロドニーの譲渡は、帝国に対抗する王国海軍の戦力を補うだけでなく、失意の中にあった王国国民へ新たな希望を与えた。
また、同盟を実現させたアッシュとミッキーの政治的立場も大きく向上する。
●外伝1――束の間の休日●
王国との同盟交渉を終えた後、鍋島と東郷夏美は、久しぶりに現実世界で休日を過ごすことになる。
二人は車で海へ向かい、仕事や戦争から離れた時間を過ごす。
鍋島は、自分が長官としてやっていけるのは、東郷をはじめ、三島晴海、見方敦、山本、新見、南雲、的場、そして多くの将兵や住民たちが支えてくれているからだと改めて実感する。
中でも東郷は、秘書官として仕事を支えるだけでなく、現実世界での生活も支えている。
鍋島にとって、彼女はいつの間にか、単なる部下では片づけられない存在になり始めていた。
しかし、二人の距離が大きく縮まりそうになったところで、東郷の空腹を告げる音が雰囲気を壊してしまう。
結局二人は、港でイカ焼きを食べることになる。
戦争や外交が続く物語の中で、二人が普通の男女として過ごした、短く穏やかな一日だった。
●王国に届いた新たな力●
条約締結から約一か月後、ネルソンとロドニーはウェセックス王国へ到着する。
二隻を一目見ようと、多くの王国国民が軍港へ押し寄せた。
主力艦隊の敗北によって落ち込んでいた王国にとって、巨大な二隻の戦艦は、帝国に対抗できるという希望の象徴となった。
ミッキーは功績を認められ、昇進と新たな部隊の指揮を任される。
アッシュを支持する海軍関係者も増え、王国内では小さいながらも、新しい政治勢力が形作られ始めていた。
ただし、急速にアッシュへ近づいてくる者たちが、すべて純粋な味方とは限らない。
王国の内部には、依然として各国の思惑やスパイが入り込んでいた。
ネルソンとロドニーを観察する者たちの中にも、別の目的を持つ者が潜んでいたのである。
●『夜霧の渡り鳥』作戦●
王国との同盟を成立させたフソウ連合は、次に帝国東方艦隊への対処に着手する。
これまでの戦いは、侵入してきた帝国艦隊を迎え撃つ防衛戦だった。
しかし、帝国東方艦隊とその根拠地が残る限り、フソウ連合への侵攻は繰り返される可能性がある。
そこで鍋島たちは、帝国東方艦隊の母港ジュンリョー港を封鎖し、艦隊機能を破壊する『夜霧の渡り鳥』作戦を計画する。
作戦では、爆撃機、敷設艦、潜水艦、水上艦隊が連携する。
濃霧と夜闇を利用し、爆撃機と敷設部隊が港周辺の航路へ大量の機雷を敷設。その後、水上艦隊が港を攻撃し、帝国艦隊を機雷原の中へ誘い出す計画だった。
航空機による機雷投下は、フソウ海軍にとっても初めての大規模な試みである。
鍋島は、敵の目の届く海域で実戦に近い予行演習を行うことを提案する。
大胆な発想だったが、濃霧を利用することで敵に作戦の全体像を悟られず、部隊の練度と手順を確認することができた。
● 斎賀露伴の選択●
作戦準備が進む中、鍋島の前にトモマク地区責任者の斎賀露伴が現れる。
斎賀家は、かつて嵐の結界を越えて漂着したウェセックス王国の王族を救ったことから、王国と密かな交流を続けていた。
若い頃に外の世界を旅した斎賀露伴は、力のない国家が強国に支配されていく現実を知っていた。
このままではフソウ連合も、いずれどこかの植民地になる。
そう考えた彼は、他国に征服されるくらいなら、わずかでも縁のあるウェセックス王国の支配を受け入れた方が民を救えると判断した。
それは、鍋島とフソウ海軍が現れる以前には、現実的な選択だった。
しかし、フソウ連合が自ら国を守る力を持ち、王国とも対等な同盟を結んだことで、斎賀の計画は意味を失う。
さらに、王国との秘密連絡に使っていた船も、南方方面艦隊に拿捕される。
追い詰められた斎賀は、自分の計画をすべて妨げた鍋島へ怒りをぶつける。
だが、彼の目的が私利私欲ではなく、祖国と民を救うことだったと知った鍋島は、斎賀を処刑も追放もしなかった。
地区責任者の地位を後継者へ譲らせたうえで、ウェセックス王国駐在大使に任命することを提案する。
王国を知り、外交経験を持ち、何よりフソウ連合を守りたいと願う斎賀の能力を、今度は正しい形で使わせようと考えたのである。
敵対者を排除するのではなく、その人物の動機と能力を見極め、新たな役割を与える。
この決断は、鍋島が軍事だけでなく、政治においても指導者として成長していることを示すものだった。
●ジュンリョー港への奇襲●
『夜霧の渡り鳥』作戦が開始される。
可部中尉率いる爆撃機隊は、連山と一式陸上攻撃機を用い、夜間の濃霧の中で機雷を投下する。
敷設艦と潜水艦も作業を進め、ジュンリョー港周辺には千個を超える機雷が配置された。
可部中尉が部下たちへ送った言葉は、長い訓示ではなかった。
ただ一言、「誰も死ぬなよ」。
それは、勝利だけでなく、生きて帰ることを求めるフソウ海軍の考え方を表す言葉でもあった。
続いて、山本平八中将率いる水上艦隊がジュンリョー港へ接近する。
戦艦榛名と霧島、重巡洋艦妙高と羽黒、六隻の駆逐艦からなる十隻の艦隊は、港湾施設と停泊中の帝国艦艇へ砲撃を加えた。
奇襲を受けた帝国側は、港内で多数の艦艇を失う。
それでもアレクセイ大将は、残存艦艇を集めて反撃に出る。
フソウ艦隊がゆっくり後退するのを見たアレクセイは、数の優位を生かせば撃破できると判断し、東方艦隊の残存戦力を率いて追撃を開始する。
だが、それこそが鍋島と山本の狙いだった。
フソウ艦隊は帝国艦隊を予定海域へ引き込み、二列の陣形へ組み直すと、一斉に反撃する。
帝国艦隊は前方からフソウ艦隊の砲撃を受け、後方には潮流によって移動してきた機雷原が迫る。
退却しようとしても港への航路は機雷で閉ざされ、別の支援港へ向かうには、再びフソウ艦隊の前を通過しなければならない。
帝国艦隊は、完全に逃げ道を失っていた。
●帝国東方艦隊の壊滅●
戦闘の結果、帝国東方艦隊は事実上壊滅した。
港内では重戦艦二隻をはじめ、多数の艦艇と支援艦が撃沈・大破。
港外へ出撃した艦隊も、重戦艦、戦艦、装甲巡洋艦、特務砲艦の大半を失った。
帝国側の死者は八万人を超え、東方の重要拠点だったジュンリョー港も、軍港としての機能をほぼ失う。
対するフソウ艦隊の損害は、榛名など数隻の損傷と、五十八名の戦死者に抑えられた。
戦力差だけによる勝利ではない。
航空機による機雷敷設、潜水艦と敷設艦の連携、水上艦隊による砲撃と誘導、潮流と地形の利用。
複数の兵種と部隊を組み合わせ、敵の反応を予測した作戦によって得られた勝利だった。
それは、フソウ海軍が高性能な艦を持つだけの軍隊ではなく、大規模な統合作戦を実行できる組織となったことを示す戦いでもあった。
●戦争が変えた世界●
『夜霧の渡り鳥』作戦による帝国東方艦隊の壊滅は、世界各国へ衝撃を与えた。
それまで名も知られていなかった小国が、世界最強とも噂され始めていたシルーア帝国の大艦隊を、圧倒的な作戦によって打ち破ったのである。
帝国は敗北を隠そうとしたが、東方地域へ集まっていた商人たちを通じ、情報は世界中へ広まっていく。
敗戦の責任を問われたアレクセイ大将は本国へ召還され、軍事裁判を待つ身となる。
東方艦隊の再建は後回しにされ、帝国東部は事実上、軍事的な空白地帯となった。
王国では、帝国の弱体化を好機として、海軍の再建とフソウ連合との交流が加速する。
ネルソン級に加え、ドレッドノート級戦艦や補修艦、専用輸送艦の発注も決まり、両国の関係は軍事同盟から、経済・文化を含む広範な協力関係へ発展していった。
ほかの列強も、それぞれの立場から動き始める。
フソウ連合を危険視し、帝国を支援しようとする国。
中立を保ちながら、情報収集を進める国。
新たな強国となったフソウ連合と、友好関係を築こうとする国。
アカンスト合衆国は、フソウ連合との条約締結を視野に入れ、早くも使節団を送り出す。
一つの海戦によって、世界の勢力図は大きく動き始めていた。
●帝国東方戦役編●
第四章から第六章にかけて、フソウ連合は大きく立場を変えた。
始動編のフソウ連合は、嵐の結界を越えて侵入してくる敵を迎え撃つ国だった。
しかし、この戦役では帝国の侵攻艦隊を撃破し、王国と対等な同盟を結び、最後には自ら帝国東方艦隊の根拠地へ攻撃を仕掛けている。
防衛するだけの国から、自国を守るために外交と軍事力を使い、国際情勢を動かす国へ。
鍋島もまた、艦隊へ命令を下すだけの長官から、外交交渉を行い、国内の対立を収め、人材を適切な場所へ配置する指導者へ成長していく。
帝国東方艦隊との戦いには勝利した。
しかし、その勝利によってフソウ連合の存在は世界中に知られ、多くの国家が新たな思惑を持って動き始める。
フソウ連合は、もはや嵐の向こうに隠れていることはできない。
世界の歴史を動かす国の一つとして、本格的に歩み始めたのである。




