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異世界艦隊日誌 航跡録―これまでのあらすじ―  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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第十二回 第一次アルンカス王国攻防戦編(第二十八章~第二十九章)

※本ページには、『異世界艦隊日誌』第二十八章から第二十九章までの内容および結末に関するネタバレが含まれています。


●失われた和平への道●

フソウ連合と海賊国家サネホーンとの交渉は、長い時間をかけながらも、制限付きの通商条約を締結できる段階まで進んでいた。

海賊行為を続けてきたサネホーンを、すぐに全面的な友好国として認めることはできない。

それでもフソウ連合は、海賊行為の停止、軍の統制、領域と国家情報の公開などを条件とし、少しずつ関係を変えていこうとしていた。

鍋島長官は、サネホーンが持つ膨大な海上戦力と情報網を、将来的には国際海路警備機構「IMSA」の一部として活用する構想まで持っていた。

サネホーン側でも、フッテンやグラーフを中心とする交渉推進派が、海賊国家のまま世界から孤立するのではなく、フソウ連合が作り始めた新たな国際秩序へ加わろうとしていた。

交渉は、あと一歩で新しい関係を生み出そうとしていた。


●ランバルハ事件●

サネホーンのランバルハ軍港では、パンピラッドム・リッキント・キュラックス少将が、失った地位と信仰への執着を利用され、破滅的な行動へ向かっていた。

キュラックスは、部下への宗教勧誘を問題視され、提督の称号を剥奪されていた。

本人はそれを軍規違反への処分ではなく、ドクトルト教への迫害と受け取る。

その認識を強めたのが、副司令でありドクトルト教司祭でもあるムルハンム・レンカーザ大佐だった。

レンカーザは、フッテンたちを信仰の敵として認識させ、キュラックスの不満と被害者意識を、神のための自己犠牲へ変えていった。

キュラックスは酒瓶を装って爆発物のある区画へ入り、戦艦フッテンの弾薬庫付近へ火を放つ。

巨大な爆発によって戦艦フッテンは真っ二つに折れて沈没し、艦に宿る付喪神フッテンも命を失った。

サネホーンは、一隻の超大型戦艦だけでなく、フソウ連合との交渉を推進し、国家の未来を考えていた中心人物を同時に失う。

後に「ランバルハ事件」と呼ばれるこの爆破事件は、事故でも、一人の狂信者だけが起こした事件でもなかった。

サネホーンを和平から戦争へ向かわせるため、信仰と個人的な挫折を利用して仕組まれた工作だった。


●フッテンを失ったサネホーン●

フッテンの死は、グラーフ、ルイジアーナ、ペーターたちに大きな衝撃を与える。

フッテンは強引で融通が利かない部分を持ちながらも、サネホーンが海賊国家のままでは生き残れないことを理解していた。

世界がフソウ連合を中心に変わり始めるなか、今のうちに国際社会へ加わらなければ、やがて世界中を敵に回す。

そう考え、反対を押し切って交渉を進めていた人物だった。

ルイジアーナとは考え方が異なり、表面上は対立することも多かった。

しかし、両者は互いの能力を認め、サネホーンに必要な存在として尊敬し合っていた。

そのフッテンが突然失われたことで、交渉推進派は政治的にも精神的にも大きな柱を失う。

代わって影響力を強めたのが、フソウ連合との関係に反対する勢力と、その背後で動くレンカーザだった。


●ムバナール群島の罠●

フソウ連合とサネホーンの最終交渉には、青島大尉とリンダ・エンターブラを中心とする双方の交渉団が参加していた。

サネホーン側の護衛艦隊は、これまで交渉団を運んでいた小規模な部隊から、モンスチーナ提督が指揮する重戦艦ムンタカ・ヘクラバを中心とした部隊へ変更される。

この配置換えは、交渉団を守るためではなかった。

リンダたち交渉推進派と、フソウ連合の交渉団を同時に排除し、和平交渉を完全に破壊するためのものだった。

会談場所となった島へ交渉団が上陸した後、モンスチーナ艦隊は島への砲撃を開始する。

同時に、海上に残っていた駆逐艦島風も攻撃を受ける。

モンスチーナは、交渉団をフソウ連合と通じた裏切り者として抹殺し、島風も沈めることで、事件の真相を知る者を全員消そうとしたのである。


●島風の反撃とリンダの生存●

島風は突然の砲撃を受けながらも、直ちに反撃へ移る。

青島大尉は、なぜサネホーンが攻撃してきたのか理解できない状況でも、まず艦と乗組員、交渉団を守るために行動する。

モンスチーナ艦隊は、島風を装甲巡洋艦程度の艦艇と侮っていた。

しかし、島風は速力、魚雷、操艦能力を利用し、重戦艦を中心とする艦隊へ反撃する。

島への砲撃によって交渉団は全滅したと思われていたが、リンダたちは島の地形を利用して生き延びていた。

リンダの判断によって、島風側も交渉団も大きな人的損害を避けることに成功する。

島風の魚雷攻撃を受けたモンスチーナ艦隊は壊滅し、モンスチーナ自身も死亡する。

こうして、交渉団を全滅させ、フソウ連合が一方的に攻撃したという筋書きを完成させる計画は、完全には成功しなかった。


●「フソウ連合に裏切られた」という偽情報●

レンカーザとリラクベンタ提督は、ムバナール群島で起きた事件の内容を改変する。

彼らはグラーフたちへ、フソウ連合が交渉団と護衛艦隊を攻撃し、条約交渉を暴力によって破壊したと報告した。

フッテンを失った直後であり、交渉推進派の中心人物も死亡したと思われていた。

さらに、現場の証言を持つモンスチーナ提督も死亡している。

グラーフやルイジアーナは、報告に不自然な部分を感じながらも、事実を確認する手段を持っていなかった。

リラクベンタは、その状況を利用し、フソウ連合への報復と軍事行動を主張する。

レンカーザは、キュラックスとモンスチーナの死さえも計画の一部として扱い、サネホーン全体を戦争へ向かわせる。

こうして、サネホーン内部の派閥争いと宗教工作は、国家間戦争へ変わっていった。


●リンダの亡命と真相の告発●

生き延びたリンダは、もはやサネホーンへ戻ることができなかった。

帰国すれば、自分はフソウ連合と通じた裏切り者として処刑される。

それ以上に、今回の事件を起こした者たちがサネホーンの実権を握れば、自国が破滅へ向かうことを理解していた。

リンダは、青島大尉へ謝罪するとともに、フソウ連合へ協力することを決意する。

自分が知るサネホーンの艦隊規模、軍港、派閥、指揮官、軍事制度などの情報を提供し、事件の真相を伝える。

リンダの証言によって、フソウ連合は今回の攻撃がサネホーン全体の総意ではなく、内部の工作によって引き起こされた可能性を知る。

それでも、サネホーンが大規模艦隊を動かし始めた以上、現実の軍事的脅威へ対応しなければならない。

鍋島長官はリンダを責めるのではなく、まず彼女たちの安全を確保し、その情報をもとに防衛準備を進める。


●圧倒的なサネホーン海軍●

リンダから提供された情報により、フソウ連合はサネホーン海軍の規模を知る。

主力艦だけでも、超大型戦艦二隻、航空母艦三隻、重戦艦百二十六隻、戦艦三百五十二隻、装甲巡洋艦七百六十八隻。

リンダが把握している範囲だけで千百隻を超え、補助艦、輸送艦、支援艦を含めれば、二千隻以上になる可能性があった。

対するフソウ連合海軍は、主力艦をすべて合わせても二百隻に届かず、外洋艦隊や各地区の通常艦艇を加えても六百隻には達しない。

正面から消耗戦を行えば、フソウ連合が不利になる可能性は高い。

一方、サネホーンの艦艇は、設計、武装、速力、通信装置が統一されていない。

多数の海賊、亡命者、敗残兵を受け入れてきたため、指揮系統や乗組員の練度にも差がある。

フソウ連合は、数の差を認めながらも、索敵、情報共有、航空戦力、電探、統一された指揮系統によって対抗する方針を取る。


●同時に進むポルメシアン商業連盟の軍備●

サネホーンで戦争工作を進めるレンカーザは、ポルメシアン商業連盟では「ファランカシス・ランバート」と名乗っていた。

彼は、赤シャツ団を率いて連盟の実権を握ったトラッヒ・アンベンダードとも接触していた。

連盟では、商人や旧政府関係者の粛清が進み、大手商会の代表者が次々と姿を消していた。

国家中枢は「連盟総統府」と改称され、赤シャツ団による独裁体制が形を整え始めていた。

トラッヒは、外部から密かに入手した潜水艦を新たな切り札としていた。

潜水艦は海面下から商船や軍艦を攻撃できるため、王国や共和国の海上交通を混乱させる可能性を持つ。

レンカーザは、サネホーンだけでなく、商業連盟の軍事力も老師の計画へ組み込んでいた。

フソウ連合とサネホーンが戦っている間に、王国と共和国の航路を連盟の潜水艦で脅かし、フソウ連合を国際的に孤立させようとしていたのである。


●サネホーン大艦隊の発見●

リンダと鍋島長官の面談から二日後、アルンカス王国方面を警戒していた第七潜水隊の伊号第二十一潜水艦が、百隻を超えるサネホーン艦隊を発見する。

伊号第二十一潜水艦から発進した零式小型水上機は、敵艦隊の写真撮影と艦数確認を行う。

サネホーン側も偵察機の存在に気づいていたが、小型機を脅威と考えず、積極的に撃墜しようとはしなかった。

その油断によって、艦隊の編成、進路、電探艦、水上機母艦などの情報がフソウ連合へ送られる。

アルンカス王国のアンパカドル・ベースでは、西尾中佐率いる第二外洋艦隊をハントーノンナ島周辺へ展開させる。

フソウ連合本国でも緊急会議が開かれ、第一艦隊、第二艦隊、航空隊、潜水艦、アルンカス王国海軍を組み合わせた迎撃準備が始まる。


●ハントーノンナ島沖海戦●

サネホーン主力艦隊を率いるフラッセ提督は、フソウ連合の小型偵察機や潜水艦を軽視していた。

彼はアルンカス王国の第一防衛線であるハントーノンナ島に、フソウ連合の防衛艦隊が待ち構えていると予測する。

一方、西尾中佐率いる第二外洋艦隊は、巡洋戦艦フッド、レパルスを中心とする十一隻で、百隻を超える敵艦隊に対抗しなければならなかった。

西尾は、正面からの砲撃戦ではなく、敵の指揮官と砲手が戦果を求める心理を利用する。

フッドとレパルスを先頭にして敵の砲撃を引きつけながら、艦隊を左右へ分ける。

サネホーン側は、堅固な巡洋戦艦を狙い続けるか、より撃沈しやすい後続艦を狙うかで判断が乱れる。

その一瞬の混乱を利用し、第二外洋艦隊は砲撃と魚雷攻撃を加える。

少数艦隊が大艦隊を撃破しようとするのではなく、敵の進撃を遅らせ、陣形を崩し、後続の主力艦隊が到着するまで時間を稼ぐ戦いだった。


●レムカライア海海戦●

サネホーンは、アルンカス王国へ向かう主力艦隊とは別に、キナリア列島やフソウ連合の航路を狙う遊撃艦隊も送り出していた。

遊撃艦隊を率いるダウィード・ラーゲルチンク提督は、表向きはサネホーン内部の中立派だった。

しかし、実際には自分の出世と利益を優先し、勝利した側につこうとする人物だった。

敵艦隊を発見した的場良治准将は、第二艦隊を二つの分隊へ分ける。

まず航空隊が、敵の索敵能力を支える電探艦と水上機母艦を攻撃する。

敵の「目」を奪った後、野辺少佐率いる第一分隊が高速で接近し、すれ違いざまの砲雷撃を実施する。

敵が撤退するなら深追いせず、攻撃を継続する場合には第二分隊が新たに戦闘へ加わる。

的場は、一度の戦闘ですべてを決めようとせず、敵の反応に応じて次の手を選べる作戦を準備していた。

索敵、航空攻撃、砲撃、雷撃、予備戦力を段階的に使用したことで、ラーゲルチンク艦隊は大きな損害を受け、キナリア列島への攻撃を断念する。


●アルンカス王国海軍の初陣●

アルンカス王国南方では、ラチベチパ提督率いる親衛艦隊が、サネホーンの別動隊を迎え撃つ。

親衛艦隊は、軽巡洋艦プリンセス・マムアンを旗艦とし、アンカラー・リッチン級駆逐艦四隻で構成されていた。

これは、独立後に新しく作られたアルンカス王国海軍にとって、初めての本格的な外洋戦闘だった。

アンパカドル・ベースから飛来した二式水上戦闘機が先行し、敵艦隊への攻撃と索敵を支援する。

アルンカス王国で二式水上戦闘機は、先陣を切る者を意味する「クァンカ」と呼ばれ、国民からも親しまれていた。

ラチベチパは、フソウ連合の航空支援を受けながらも、自国の艦隊を自ら指揮して戦う。

親衛艦隊は敵の接近を阻止し、損傷を受けながらも勝利する。

アルンカス王国は、フソウ連合に守られるだけの国ではなく、自らの海軍と兵士によって領海を守る国家として、最初の一歩を踏み出した。


●フルカクール夜戦●

サネホーン主力艦隊を最終的に迎え撃ったのは、南雲石雄大佐率いるフソウ連合第一艦隊だった。

第一艦隊は、大和改を旗艦とし、大和、武蔵、長門など四隻の戦艦を中心に編成された、フソウ連合でも最強級の打撃艦隊だった。

南雲は、昼間の戦闘で疲労し、陣形を崩した敵艦隊を、夜間に捕捉する。

夜の海では、目視よりも電探の性能と、得られた情報を各艦へ伝える能力が勝敗を左右する。

フソウ連合第一艦隊は、サネホーン側より先に敵艦隊を発見し、相手が正確な状況を理解する前に砲撃を開始する。

大和改、大和、武蔵、長門の大口径砲が、暗闇の向こうにいる敵艦隊へ集中する。

さらに駆逐艦隊による雷撃が加わり、敵艦隊の退路と陣形を破壊する。

サネホーン側は、どこから撃たれているのかを十分に把握できず、砲撃、衝突、混乱、逃走によって壊滅していく。

フルカクール夜戦は、艦の大きさだけでなく、索敵、電探、通信、夜間射撃、艦隊統制の差が決定的な結果を生んだ戦いだった。


●サネホーン海軍の大敗●

第一次アルンカス王国攻防戦に参加したサネホーン艦艇は、主力艦隊と遊撃艦隊を合わせて約百八十隻に達した。

その七割以上が、撃沈、自沈、行方不明、航行不能となる。

特にアルンカス王国を直接攻撃した主力艦隊は、百二十隻のうち、帰還できたのは十五隻だけだった。

それらも多くが損傷しており、無傷の艦はほとんどなかった。

サネホーンは過去にも六強諸国との戦いで敗北したことがあったが、ここまで壊滅的な敗北は経験していなかった。

ルイジアーナは、単に指揮官の失敗として処理せず、作戦計画、情報、敵戦力の評価、派閥間の関係を調べる必要があると主張する。

フッテンを失った今、ルイジアーナは、対立しながらも国家全体を見ていたフッテンの役割を、自ら引き受け始める。

しかし、戦争を引き起こした者たちは、この敗北さえ次の工作へ利用しようとしていた。


●勝利後のフソウ連合●

フソウ連合側は、第一艦隊、第二艦隊、第二外洋艦隊の損害を比較的少なく抑える。

鍋島長官は勝利を喜びながらも、今回と同じ結果が次も得られるとは考えなかった。

新見中将も、周囲が勝利に安堵するなか、次の戦いへ備える必要性を指摘する。

第二艦隊はアルンカス王国へ駐屯し、第二外洋艦隊は損傷艦の修理へ入る。

第一艦隊はフソウ連合本国へ戻り、整備と再編を行う。

さらに、サネホーンとの長期戦を考え、戦闘艦だけでなく、輸送船、貨物船、修理艦、防空艦の増強が必要と判断される。

フソウ連合海軍第十一建造計画は改訂され、秋月型・改秋月型防空駆逐艦に加え、リバティ船を参考にしたEC2型貨物輸送船二十隻が追加される。

鍋島長官は、海戦で勝つ艦隊だけでなく、戦争中も人員、食糧、燃料、弾薬、復旧物資を運び続けられる国家体制を作ろうとしていた。


●チャッマニー姫の新たな決意●

アルンカス王国王宮では、侵攻艦隊撃破と親衛艦隊勝利の知らせが伝えられる。

周囲が大勝利に歓声を上げるなか、チャッマニー姫は最初に自国側の損害を尋ねる。

親衛艦隊では、駆逐艦一隻が小破し、ほかの艦にも損傷があった。

人的損害は、戦死・行方不明者八名、重軽傷者三十二名。

チャッマニーは、戦死者の家族へ十分な補償と名誉を与え、負傷者へ治療を行うよう命じる。

さらに木下喜一から、鍋島長官が負傷兵を見舞い、戦死者の家族と面会していることを聞く。

アルンカス王国では、それまで勝利した勇者を称える一方、負傷者へ王族が直接会う習慣はなかった。

チャッマニーは、負傷した者も国を守るために戦ったのだから、陰に置くべきではないと考え、自ら見舞いへ行くことを決める。

この決断は、チャッマニーが王国の象徴として飾られるだけでなく、兵士と国民に対して責任を負う統治者へ成長し始めたことを示していた。


●王国と共和国の秘密協力●

ウェセックス王国とフラレシア共和国は、フソウ連合とサネホーンの戦争を、フソウ連合だけの問題とは考えなかった。

サネホーンとの戦争が拡大すれば、国際航路、IMSA、IFTA、アルンカス王国、王国と共和国の復興にも影響が及ぶ。

アッシュとアリシアは、アルンカス王国での会談を通じ、フソウ連合を支援するための情報共有と航路警備を始める。

その後、両者はパーナミュンデ海で密かに会談する。

アリシアは共和国海軍の中立派を率いるランパラ・リストンペ提督を同行させ、王国の戦力とアッシュの考えを直接見せる。

ランパラは、アリシアが単なる党派政治家ではなく、共和国の将来を考えて行動する人物だと認め、表向きは中立を保ちながら彼女を支持することを約束する。

かつて戦争を繰り返した王国と共和国は、フソウ連合を中心とする新しい国際秩序を守るため、秘密裏に協力を深め始める。


●教国で生まれる疑問●

ドクトルト教国では、法皇の方針に疑問を持つ司祭たちが現れ始めていた。

若い司祭ターントクは、信徒へ強引な寄付を要求し、支払えない者を背教者として扱う現在の方針を批判する。

師であるリーンダートも、以前の法皇と現在の法皇が、まるで別人のように変わっていると感じていた。

教国では背教者の烙印を押されることが、社会的な死だけでなく、実際の生命の危険へつながる。

それでも二人は、信仰を守ることと、現在の教国指導部へ従うことが同じなのか、考え始める。

老師側が教国を利用してフソウ連合包囲網を作ろうとする一方、教国内部には、その変化を不自然だと感じる者も生まれていた。


●老師の第二段階●

サネホーンの侵攻が失敗しても、老師は計画全体が失敗したとは考えなかった。

サネホーンにはまだ膨大な艦隊があり、フソウ連合に匹敵する戦艦や空母も残されている。

さらに、敗北によってサネホーン内部の恐怖と反フソウ感情を強めれば、次の戦争を起こしやすくなる。

老師の配下は、ポルメシアン商業連盟の潜水艦によって王国と共和国の海運を妨害し、教国の宣言によってフソウ連合を外交的に孤立させる計画を報告する。

同時に、より強力な艦隊を異世界から召喚するための術式も準備される。

新たな召喚術には、召喚された者のフソウ連合への敵意や、権力・名誉への欲望を増大させる術式まで組み込まれていた。

老師は、宗教、経済、海運、軍事、召喚術を組み合わせた計画を「第二段階」へ移す。


アルンカス王国を守る戦いは終わった。

しかし、その勝利は、フソウ連合を中心とする諸国と、老師が操る勢力との世界規模の戦争が始まる合図でもあった。


●この編で起こった変化●

フソウ連合とサネホーンの和平交渉は、レンカーザたちの工作によって破壊され、両国は戦争状態へ入った。

サネホーンは、フッテンという政治・軍事上の柱を失い、偽情報と派閥争いによって国家全体が誤った戦争へ引きずり込まれた。

一方、リンダがフソウ連合へ亡命し、真相と軍事情報を提供したことで、サネホーン内部にも戦争へ反対する者が存在することが明らかになった。

フソウ連合は、索敵、潜水艦、航空機、電探、戦艦、水雷戦隊を連携させ、数で勝るサネホーン艦隊を撃破した。

アルンカス王国海軍は初陣を経験し、自国の領海を自国の艦隊で守る独立国家としての実績を得た。

チャッマニー姫は、勝利の象徴となるだけでなく、負傷者や戦死者の家族に対する責任を自ら負う統治者へ成長し始めた。

王国と共和国は、かつての敵国という関係を越え、フソウ連合と国際秩序を守るための協力を深めた。

ポルメシアン商業連盟と教国では、老師側の工作が進み、潜水艦、宗教、経済を使った新しい戦争の準備が始まった。


●次の物語へ●

第一次アルンカス王国攻防戦は、フソウ連合とアルンカス王国側の勝利に終わった。

しかし、サネホーンの主力戦力すべてを失わせたわけではない。

同国には、さらに強力な戦艦、空母、大艦隊が残されている。

サネホーン内部では、誰が戦争を仕組んだのか、なぜこれほどの大敗を喫したのかという疑問が生まれ始めている。

リンダたちはフソウ連合側にいるが、グラーフ、ルイジアーナ、ペーターたちは、まだ真相を知らない。

ポルメシアン商業連盟では潜水艦戦力が準備され、王国と共和国の海運を狙おうとしている。

教国では、法皇の名のもとに新たな宣言が準備される一方、内部では現在の方針へ疑問を持つ司祭たちが現れた。

老師は、フソウ連合を孤立させ、より強力な艦隊を召喚する計画を第二段階へ進める。

アルンカス王国を守る局地戦として始まった戦いは、世界の国家を二つに分ける大戦の入口へ変わったのである。

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