ラ・リストランテ ~料理の味は、誰と何処で食べるか~
土曜日が勤務日だったため、月曜日は代休となった。そこで、最近ご無沙汰していた御殿場のリストランテへランチに行った。昨年のクリスマス・ディナーを母親の葬儀で、3月の結婚記念日を家人の入院でキャンセルしていたので、半年ぶりの訪問である。
ここのシェフとは、もう25年ほどのつきあいである。私は、そのシェフの創るイタリア料理に魅了され続けている。シェフは、長年、長泉町のリストランテにいたが、7,8年前に現在の御殿場市に出店したバラの品種名を冠したリストランテのシェフとなったのだ。その25年間には、私にもいろいろな出来事があった。「喜びも悲しみも幾年月」ではないが、嬉しい時にも哀しい時にも家人と一緒に通った25年間であった。(「通った」と言っても年に3,4回ではあるが……。)
四半世紀 イバラも構わず 追っかける
その日は、6月の初旬とはいえ、爽やかで穏やかな風が吹く清々しい日であったため、テラス席に通された。
席に座ると顔なじみの男性スタッフが、
「お二人ともお飲み物は、『いつもの』でよろしいですか?」
と尋ねてきたので、
「よろしく。」
と返した。
食前酒を待つ間、テラス席から初夏らしい広々とした前庭や芝生、フェンスに絡まったバラの花々を眺めた。現在の店名がバラの品種名を冠しているだけあって、店の前庭はもとより店内の至る所にバラが咲き誇っていた。
店の雰囲気も申し分ないが、やはりシェフが腕によりをかけた今日の料理が楽しみで仕方がなかった。ここのシェフが創る料理は、長年通ってもマンネリ化したことなどはなく、バーニャカウダとラヴィオリ以外に同じ料理を食べた記憶がないほどだ。
食前酒が運ばれてきた。家人は、スプマンテ、私は、まさにいつものW社のジンジャエールである。とりあえず、久しぶりに来店できたことに乾杯した。ジンジャエールはやっぱりW社に限ります、と「目黒のさんま」の下げのようなことを思いながら、家人のスプマンテをほんのひと舐めした。香りからして他店が出す発泡ワインとは別格。とてもふくよかでいて爽やかな香りで、味もたいへん豊潤でフルーティーだった。
料理は、「バーニャカウダ」のあとに、3品、そのあとにパスタを挟んでメインディッシュが給仕された。スプマンテから白ワインを飲んでいた家人は、酔いのため、メインディッシュの軍鶏肉の半分しか食べられなかった。そこで、残飯処理係の私が「仕方なく」胃の中に納めた。シメシメである。
女房酔い 吾にアシスト 白ワイン
「やっぱりここに来ちゃうと他が……。」
と家人が言うので、
「ここの料理が基準になっちゃってるからね~」
と私も言った。
我々の味覚評価基準は、25年前からここのシェフの味になってしまっている。このことは幸せなことなのだろうか?という命題がいつも我々のイタリア料理をはじめとした西洋料理店選択に影を落としているのだ。今までの経験上、ネットのどんなサイトの評価もランキングも当てにはならなかった。知り合いからの口コミも評判も当てにならなかった。それらの情報をもとに、その料理店に行っても満足できた店はほとんどなかった。信じるのはただ自分たちの感性のみである。そのため、イタリア料理に限らず、偶然入った店の料理が気に入ると、週1ヘビーローテーション化してしまうことが結構ある。残念ながら料理の美味さと料金は比例するので、この御殿場の店を週1ローテにしたら破産してしまうだろうが。
虎の子の 一枚握り またきたよ
精算後、いつものようにシェフがテーブルまで来て、お互いの近況を煎茶を飲みながら話した。家人のその後の病状を心配してくれたシェフの頬には、見慣れないシミができていた。
「我々の味覚評価基準」と前述したが、90%以上は家人の基準であることを報告させていただく。




