61、言霊
61、言霊
私はノヅチを、行動不能にしていた個体も含めて全て消し去っていた。ランスロットたちに目を向けると、アークエンジェルとサラマンダーは彼らによって掃討されていた。
・・・ふふ、さすが勇者と私の仲間だよ それに、シモンが奴らの培養装置を壊してくれたから、もう神獣は送れないでしょう ・・・
ようやく静けさを取り戻した村で私は安堵していた。そして、自分の手を見る。私の手は光の粒子となって先端から少しづつ消えていた。
・・・覚悟していた事だよ この村が、みんなが無事ならそれでいい 私が消えても、みんな仲良くこの世界を平和な世界にしていってね ・・・
だんだんと私の体全体が光に包まれていく。
・・・少し短かったけど楽しかったよ ナアマ、イブリース、ナガト、クレア、ギュスターヴ ランスロット、アリス、シモン、トリスタン みんな、ありがとう そして、シャーロット コリンがついてるから大丈夫だよね ちゃんと頑張るんだよ ・・・
ナアマが、驚いているクレアを振り切って私に向かって駆け寄ってくるのが見えた。ナガトは黒装束から覗く目を大きく開いて私を見ている。アリスは口に手を当て何か叫んでいた。そして、ギュスターヴのリュートを奏でる手も止まっている。
・・・ああ、セレネ様にも会えたらお礼言わなくちゃ こんなに楽しい思いをさせてくれて、ありがとうって…… ・・・
私は白い光に包まれて、だんだんと視界も意識も白く塗り潰されていく。そして、全てが白く染まった後に私は意識を失っていった。
* * *
「ず、瑞獣だと…… 我々でさえ神獣を召喚するのが精一杯だ 神以外に瑞獣を操れる者など存在しない それを、あの小動物は…… 」
「だから言ったのよ あの小動物は神 私たちが触れてはいけないもの 私たちは神の怒りをかった もう私たちは終わりだわ 神に仕えるべき私たちが、神に逆らってしまった 私たちには必ず天罰が下される 神は無慈悲な存在、あのソドムの街のように私たちは滅ばされる…… 」
「ふざけるな あんな姿の神がいるものか 奴は神などでは断じてない 奴は我々の邪魔をする敵だ サタン以上の敵であると認識しろ 奴の力はサタン以上の脅威だ 我々も、もっと力を蓄えなければならない しばらく、それに専念するぞ だが、警戒だけは怠るなよ あの小動物の動向には要注意だ 」
「くそっ、私のノヅチを台無しにしおって この借りは必ず返させてもらうぞ 」
・・・本当にそうなの? 私には、あの小動物が神にみえる このままでは私は神の怒りで消されるだろう 冗談じゃないよ 私は、そんな運命になりたくない ・・・
・・・いい気になりやがって、自分が仕切っているつもりか あんたの言うことは間違ってばかりじゃないか ・・・
十二使徒の中でも、この戦いを境にそれぞれの考えに相違が現れていた。それまで一枚岩であった目的にヒビが入ったのは否めなかった。しかし、その思いは心の奥に秘め、彼らはしばらく表だった活動は控え、闇の中にその存在を潜めていった。
* * *
「キノコ 」
「キノコさん 」
「キノコちゃま 」
「キノコ殿 」
「キノコ様 」
私を呼ぶ声が聞こえる。たくさんの声だ。私は、その声を聞いていると自然に幸せな気分になっていた。
「山内さん まだ終わりじゃないですよ 」
水野清美さんの声も聞こえるよ。
・・・なんだろう たくさんの人が私を呼んでくれている なんだか気持ちいいよ ・・・
「ピイィィィーーーッ 」
ハッと私が目を開けると、私の周りをみんなが囲んでいた。
「お前、一人でカッコつけていなくなろうなんて許さないからな まだ天界には帰さないぞ 」
ナアマがニヤリと笑って言う。そうだ、私は究極召喚を使って消えたはずなのに……。
「言霊 心のこもった言葉には霊的な力が宿ります 名前を呼ばれるという事は、その人の存在を確かなものにします 逆に名前を呼ばれない人は、その存在がどんどん薄くなっていき、やがて消えてしまうでしょう 言葉には、それほどの力があるのです キノコ様、あなたはまだこの世界に必要なお方 あなたを呼ぶみんなの本心からの呼び声が、あなたを戻してくれたのでしょう このシモンもキノコ様に生涯仕える所存です まだまだ私に仕えさせて下さい 」
シモンが恭しく私に頭を下げる。
「キノコさんは僕たちを見捨てる筈がない そう信じていましたからね 必ず戻って来てくれると思っていました だから、宴の準備をしておきましたよ、キノコさん 」
イブリースが片手を上げると、煙幕を張っていたナガトが風の忍術で煙幕を吹き飛ばす。煙が消えた後には村の人たちが総出でお酒と食べ物を並べ宴会の用意をしていた。そして、ギュスターヴがリュートを奏でる。クレアが私を宴の席まで運んでくれた。
「神様、ありがとうございます うちの村、特製のクラフトビールを是非味わって下さい 」
男女が私の前にジョッキを置く。ギュスターヴがこの村のリーダーのノアとソフィーだと紹介してくれた。私も頭を下げて、目の前のジョッキを見つめる。
「キノコ、遠慮せず一気にいけ この村特産のフルーツテイストのビールらしいぞ 」
ナアマがジョッキをカチンとぶつけてくる。普通のビールより濃い色のクラフトビールは美味しそうだ。私も、一気に飲みたいけど、このジリスの体ではペロペロでしか飲めないよ。かくなる上は……。
「うぴぃ おいちいぃ 」
私は魔法少女に変身してジョッキを掴み、一気にビールを飲み干していた。
・・・これこれ、この喉ごし それに、この味 仄かにフルーツの味わいがあって美味しいよ この村もこれで地図に載れば、行商人も多く訪れるだろうから、このビールも特産品になるよ ・・・
私がジョッキを飲み干すと、すぐにソフィーが代わりを置いてくれる。
「みんな、キノコに負けるな どんどん飲むぞ 」
ナアマもイブリースもナガトもクレアも、みんなハイピッチで飲んでいく。ランスロットとアリスは、ギュスターヴのリュートをバックにデュエットを歌いだした。それに合わせてクレアがダンスを踊る。まるで村中が宴会場になったように、みんな笑顔で大いに盛り上がっていた。
・・・こんな光景が世界中で見られるようになれば、きっとみんな幸せなんだよね ・・・
みんなの笑顔を見ていると私も幸せな気分になっていた。




