60、無限の力
60、無限の力
「奴はいったい…… 」
「我々は手を触れてはいけないものに触れてしまったのか…… 」
「狼狽えるな ただの見せかけだけのハッタリだ 奴は少し力のある小動物に過ぎない おそらく魔力を使ってあのような姿に見せているのだ 」
異空間でモニターを観ている十二使徒の目には、ノヅチに囲まれている小動物の姿が、ノヅチよりも恐ろしい化け物の姿に見えていた。その禍々しさはノヅチを遥かに上回り、まるで怒れる荒神のようであった。
「でも、あの小動物 たった1匹でノヅチに囲まれても慌てる様子もないわ 普通なら恐怖で気を失ってもおかしくないのに…… 神獣を前にして怯む事がない 遠呂知を倒した事といい、あの小動物は本当に神が降臨した姿なのでは…… だとしたら、我々はあの小動物に仕えるべきではありませんか 」
「何を言っている 我々こそが神の使いだ 我々の考えこそ神のお考えだ その考えに従えないというならシモンのようにここを立ち去るがよい ただし、ここから去るというなら、いずれ天罰が下されるだろうよ 」
「………… 」
「これだけの連戦だ もうあの小動物も魔力は残っていないのだろう なので、あのような姿を見せて我々を怯えさせようとしているのだ くだらん お笑いだな、まったく それよりもユダだ 奴が完全に裏切ったとは思えんが、ユダが力を貸すと厄介だ 少し我々の恐ろしさを思い出させておくとするか 」
十二使徒の一人が機器のスイッチをパチパチと入れていく。
「ふふ、1日くらいでいいか それでも奴は感じるだろうよ 我々を裏切ったらどうなるか 恐怖に震えるがいい 」
使徒の一人は最後のスイッチを入れた。そして、ダイヤルを回していく。機器の作動音が大きくなっていった。
* * *
・・・これは…… この感じは…… あの野郎ども、作動させやがった ふざけるなよ 俺にも考えがある 目にもの見せてやる ・・・
ユダは、他の者に悟られないように静かにこの場を後にしていた。そして、誰にも気づかれず、その姿は消えていた。
* * *
私は魔力を溜めていた。ノヅチは私に向かって迫って来るが、その動きは遅くなっている。私の目に、歯をくいしばって重力魔法をかけ続けているアリスの姿が映っている。
・・・アリス、ありがとう 私が弱いから無理させちゃって でも、もう大丈夫 安心して、見ていて ・・・
それに、私に時間を作る為に死力を尽くしているのはアリスだけじゃないよ。ナガトは”分身の術”で分身し”四方絡めの術”でノヅチにロープをかけ動きを制限している。ロープが切断されても、すぐに電光石火の動きで次のロープをかける。そして、ギュスターヴもリュートを奏でノヅチの動きを制限していた。
・・・みんな、ありがとう 今度こそけりをつけるからね ・・・
アリスたちの攻撃で上級の魔物であっても、これだけの制限を受ければ、もう動く事など出来ないはずなんだけど、さすが神獣と云われるノヅチだよ。こんな状態でも、ゆっくりと私に迫ってくる。だけどね、私もさっきまでの私じゃないよ。あのゲームのように私が消滅してもかまわない。でも、ここで氷づけにしたノヅチも含めて全て消し去ってやる。私の体にどんどん魔力が流れ込んでくる。別の世界の水野さんの力も、そして会社の人たちの力も流れ込んでくる感覚があった。
・・・今の私の魔力は無限だよ その魔力を注ぎ込んでノヅチを倒す ・・・
私はナアマに目を向けた。ナアマは、クレアに抱き起こされ私を見ていた。
・・・見てて、ナアマ いくよ ・・・
私はナアマに向かって拳を突きだし親指を立てていた。それを見たナアマも同じ様に拳を突きだし親指を立てる。そして、にっこりと笑った。私は爪楊枝の剣に魔力をエンチャントして、空中に魔方陣を描いていく。巨大な魔方陣を描いた私は、それをコピー&ペーストしていく。私の周囲に立体多重魔方陣が展開されていた。そして、私は魔法を発動させる。
「ピイィィィーーーッ 」
・・・究極召喚・瑞獣麒麟 ・・・
神獣の上位の存在であり、神獣を束ねる瑞獣。瑞獣とは吉兆を意味するんだ。あのゲーム、最後の場面で勝利を選択すると手に入るアイテム。それは麒麟を呼び出すアイテム。私は、どうしてもその選択が出来ずにいたけど、仲間の一人の残った戦士がそれを選択した。そして、勝利と引き換えに消えていった。残った私たちは、そこでしか手に入らない強力なレアアイテムを獲得出来たけど、その仲間とは二度と会う事はなかった。オンラインでしか会った事のない仲間たちだ。ゲーム上で会えなくなれば、二度と会う事はない。そして、一人が欠けたパーティーは、いつの間にか解散していた。私も、それ以来そのゲームをやる事はなくなっていた。
この魔法を使えば私は、この世界から消えるかも知れない。それでも、私は後悔しないよ。あの時の、あの戦士のように……。
・・・これで、終わりだ ・・・
私の頭上に白い巨大な球体が現れる。そして、その中を遠くから何かが駆けてきていた。そして、それはだんだん大きくなり球体から飛び出した。竜の頭に、鱗のついた馬の体、ライオンの尻尾。瑞獣麒麟だよ。麒麟はノヅチに襲いかかり次々にノヅチを消していく。麒麟は、全てのノヅチを消しさると、自身も塵となり消えていった。




