46、命の代償
46、命の代償
「駄目だっ、皆さん、逃げて下さいっ 」
ギュスターヴは叫ぶが、村人たちは休みなく矢を射続ける。その矢は、女性たちが弓を持つ村の男たちに手渡していた。そして、その矢には鏃に毒を塗った毒矢や、火を点けた火矢も混じっていた。まさに村人全員一丸となった総攻撃である。これが、ゴブリンやオークの群れであったなら、この総攻撃で撃退出来ただろう。しかし、今回の魔物は遥かにレベルの高いサラマンダーとアークエンジェルである。高レベルの魔物は例外なく物理や魔法攻撃の耐性が高い。聖剣や魔剣の攻撃や、上級の攻撃魔法でなければ傷一つ負わせられないのだ。案の定、アークエンジェルは雨のような矢の攻撃を受けても平気で村に侵入してくる。ギュスターヴの波動がなければ、この村の住人は皆殺しになっているのは明らかだった。
「放してよ、ソフィーおばさん 僕は、この村を守らないといけないんだ 父さんが守ったこの村を守る事が、残された僕に託された使命なんだよ 」
コリンは抱えられながら暴れるが、ソフィーも他の女性も、コリンに蹴られても殴られても、けして手は放さなかった。
「コリン、私たちにも使命がある アレンやローズから託された大切な使命が…… それは、あなたを必ず守る事 それが村を守ってくれた3人に対する恩返し この気持ちだけは私たちの中で変わらない不変の思い だから、あなたが何を言おうと私たちは、あなたを逃がす あなたをあの戦場には立たせない 」
ソフィーの気迫の籠った言葉に、コリンは口を開けたまま言葉が出なかった。
一方、波動の中を無理矢理進んでくるアークエンジェルは、その波動を発しているギュスターヴに向かって来ていた。村人たちは必死に矢を射るが、アークエンジェルは意に介せず進んでくる。
・・・くそっ、この1体に波動を集中すれば止められるだろうが、残りの魔物に侵入される こいつをなんとか出来れば ・・・
ギュスターヴは手持ちのアイテムで何か有効な物はないかと考えるが、持っているアイテムは回復系の物がほとんどで、攻撃に使用出来る物はなかった。
・・・私が吟遊詩人ではなく、戦士や魔法使いであったなら、この村を守れたのか いや、違う 職業などどれでも同じだ この村を守るという強い意志だけが、この村を守れる 吟遊詩人である私の攻撃方法はただ一つ だが、それでも私の力では、このアークエンジェルは倒せないだろう 誰か一人でもアークエンジェルにダメージを与えられる者がいてくれたら、倒す事は出来なくても撤退させる事が出来るかも知れないのに ・・・
アークエンジェルは、もうギュスターヴの間近に迫ってきていた。しかし、ギュスターヴは動くわけにはいかない。動いてしまえば波動がずれ、村人たちが危険にさらされる。
・・・エマ…… やはり私は駄目な男だ みんなの顔を笑顔にしたい そう思ってやってきたが、この村の人たちを笑顔にする事は出来なかった 3日耐えれば救援が来る お笑いだ 私の力では1日ももたなかった ・・・
ギュスターヴは覚悟を決めていた。自分が逃げるわけにはいかない。そして、自分が殺されるところを見れば、村人たちも逃げてくれるだろう。そう思っていた。そこへ一人の村人が台車を押してやって来た。
「ノアさん、今こそこれを使う時ではないか。ローズさんが遺してくれた、この魔法玉を……」
「魔法玉? それは? 」
ギュスターヴがリュートを奏でながら村人に聞き返していた。それに、ノアが答える。
「ローズさんが毎日少しずつ魔力を貯めていた玉です これを魔物に当てれば、極大の魔法”エピタフ”が発動して魔物を滅ぼす事が出来ると言っていました ただし、魔法玉は一つしかありませんので、あの一番近い魔物に使用します 」
「助かります、ノアさん あの1体を倒してくれれば、残りの魔物は私がなんとしても抑えます 」
「任せて下さい 私とて、この村のリーダーである以上、この村を守るのに躊躇いはありません 」
ノアは台車の上の箱から虹色に輝く玉を取り出した。大きさは、丁度野球のボールくらいの大きさだ。これを魔物に当てれば良いという事だが、魔物も動いている。ギュスターヴの波動の中を進んで動きが鈍くなっているとはいえ、一つしかない魔法玉だ、失敗は許されない。投げて外してしまったら元も子もない。ノアは覚悟を決めた。
・・・あの魔物の直近まで行って魔法玉を使う 私はこの村のリーダーだ みんなの為なら…… ソフィー、すまない…… ・・・
ノアは魔法玉を握りしめるとアークエンジェルに向かって走り出そうとした。が、肩を掴まれ止められていた。
「ノアさん、あんたの考えている事はわかる でも、あんたじゃ無理だ だから俺が行く 」
「ボルト 駄目だ お前みたいな若い者に任せるわけにはいかない お前は、お前たち若者はこれから、この村を背負って立つ人間だ 」
ノアを止めたのは、この村一番の足の速さを誇るボルトだった。確かにボルトならアークエンジェルに近付いて魔法玉をヒットさせる事が出来るだろう。しかし、これは帰って来れない片道切符の特攻だ。間近で極大魔法を浴びては消滅する以外ない。そんな事を将来ある若者にさせるわけにはいかなかった。
「その村の存続の危機だ クロが命をかけて守ってくれた村だ 今度は俺が村を守る 」
ボルトは、ノアから魔法玉を奪い取ると駆け出していた。そして、あっという間にアークエンジェルの足下に迫る。アークエンジェルは巨大な腕でボルトを薙ぎ払うように攻撃するが、ボルトは間一髪その攻撃を避けていた。
・・・当たってたまるか クロ、俺に力を貸してくれ ・・・
ボルトの動きはさらに加速する。そして、アークエンジェルに触れられるほどの距離に到達する。もう万が一にも外す事はない。ボルトは確信した。
「くらえっ、化け物 」
魔法玉はアークエンジェルに当たり、極大魔法”エピタフ”が発動した。黒い光が周囲を包み込む。アークエンジェルと共に、ボルトの体もその光に飲み込まれていった。
・・・クロ、やったぞ お前が守ったこの村、今度は俺が守った ・・・
ボルトの意識はそこで途絶え、そのまま消えていった……。
* * *
首都シン・イーハトーブの鳩舎に1羽の鳩が戻って来ていた。通信官は、その鳩が運んできた書簡を取り出して読む。そして、通信官は慌てて国王の元へ駆け出していた。




