43、矜持
43、矜持
ノアの話は続いていた。
「私は必死に止めたんです この村にいるのが、とるに足らない者ばかりであれば、あの魔王と名乗る悪魔は退いてくれるのではないかと思ったからです だけど、ローズは気付いていたんです この村を一瞬で消滅させる巨大な魔方陣が既に展開されていると…… アレンは、ローズから耳打ちされると前に出て悪魔と対峙していました そして、悪魔に言いました 自分がこの村で一番の戦士だと、それで自分が負けても、この村には手を出さないで欲しいと…… 」
ノアは、まるで自分に責任があるかのように声を震わせていた。
* * *
「あなた一人で僕の相手になるとでも…… それは無理でしょう 僕を楽しませてくれないのなら、ここで終わりにしましょう 」
魔王と名乗る男は呪文を詠唱し始める。そこへ、二人の人間がアレンに続いて出てきた。ローズと、もう一人は村の若者クロだった。ローズはソフィーにコリンを預け、クロは、アレンを師匠のように慕って、一緒に魔物から村を守っていた若者だった。アレンは、一瞬驚いたような顔をしたが、二人の瞳に覚悟を感じて、ローズとクロに向かって笑顔を向け頷いていた。
「俺一人で不足なら、パーティーであなたに挑もう 人間一人一人の力は小さくても、集まれば決して折れない枝になる 」
魔王と名乗る悪魔は、呪文の詠唱を止め、嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「知っていますよ 勇者ランスロットのパーティーは非常に手強かった 人間が僕に勝てるとしたら、その互いを信頼して全力を合わせて出す未知の力ですからね 面白い、全力でかかってきなさい 僕に勝てなくても、この村には手を出しません 魔王の名にかけて約束しますよ 」
「さすが魔王と名乗るだけある 信じましょう それと、ランスロットはあなたに負けたのか 死んでしまったのか 」
「ええ、彼らはなかなか強力なパーティーで苦労しましたがね 魔力が尽きて撤退していきましたよ 」
「そうか、撤退したか 俺の教えを憶えていてくれたんだな ランスロットは俺の弟子だった男だ 計らずもここで弟子の仇を討たせて貰う事になるとはな 」
「これは思わぬところで貴重な人間に出会いましたね 僕は運がいい これは楽しめそ…… 」
魔王と名乗る悪魔が話している最中にクロが一気に間合いに入り剣を振り下ろしていた。悪魔は、しかし慌てる事なく軽く一歩下がりクロの斬撃をかわす。が、その下がった足元にアレンの剣が襲いかかる。悪魔の足が断ち切られたと思ったが、悪魔は軽くジャンプしてかわしていた。そこへ呪文を詠唱していたローズの魔法が直撃する。電撃の魔法を受けた悪魔は、地面に転がりブスブスと煙をあげていた。村の者たちは、やったと声を上げていたが、まだだと感じたアレンとクロは悪魔に飛びかかっていた。が、次の瞬間、剣を抜いた悪魔が二人の剣を弾き返していた。そして、何事もなかったように立ち上がる。
「少々効きましたかね いやあ、楽しいね 人間の連携する力と云うのは面白い もっと僕を楽しませて欲しいですね 」
アレンたちは一旦退いて体勢を整える。
「クロ、いけそうか 」
「大丈夫です、師匠 」
「よし 長引くと不利だ 一気に決めるぞ ローズ、俺たちにバフを頼む 」
ローズは頷くと呪文を唱える。
「ストレングスアップ アジリティアップ ディフェンスアップ バイタリティアップ…… 」
ローズから多重バフが、アレンとクロにかけられた。二人の体は光り輝いていく。そして、さらにアレンとクロは剣の力も解放する。
「プラウド・ソード 解放 」
「グローリー・ブレード 解放 」
そして、ローズは自身の持つ最大最強の極大呪文を詠唱する。ローズの周囲に立体多重魔方陣が展開されていた。アレンとクロの剣も、まるで太陽のように白く輝き、まるでこの星すら破壊するのではと思われる程の力を発していた。
「これは、素晴らしい そして、美しい 僕はこんな胸が踊る気持ちになったのは初めてだ 」
悪魔は両手を広げて感嘆していた。村人は、その悪魔の姿を見て、もう成す術なく降参したのかと思っていた。それほどアレンたちの力は悪魔を凌駕し圧倒的に思われた。ソフィーの腕の中でコリンも、父と母、そして兄のように慕っているクロの勇姿を誇らし気に見ていた。
* * *
「私たちはアレンたちの勝利を確信していました けれど、その僅か数分後に倒れていたのはアレンたちでした 信じられませんでしたよ 悪魔は高揚したように軽やかに舞を踊っていました そして、敬意を表すると言って呪文を唱えたんです その呪文の直撃でアレンたちは消滅していました 私やコリンの目の前で、アレンたちは消えていったんですよ 悪魔は、その後自分の名を名乗ると約束だからと、私たちには何もしないで立ち去っていきました 私たちは茫然とその悪魔の後ろ姿を見送っているしかなかったんです 」
ノアは、その時を思い出したように震えていた。ソフィーも目頭をハンカチで押さえている。ギュスターヴは冷たくなったお茶を一口飲み乾いていた口を潤すと、確認しておかなければならない点を口にした。
「その悪魔の名前というのは……? 」
「魔王イブリースと言っていました…… 」
薄々そうではないかと思っていたギュスターヴであったが、はっきりとその名を聞くと複雑な思いだった。あの灼熱の迷宮で自分の命を助け励ましの言葉さえかけてくれた命の恩人が、コリンの両親や兄のように慕っていたクロを殺した張本人だとは……。
・・・ああ、キノコさんが、もっと早くこの世界に降臨されていたら、こんな悲劇は起こらなかっただろうに…… いや、まだ遅くない もう二度とこんな悲劇を起こさない為に、キノコさんに一刻も早くこの世界をまとめて貰わないと ・・・
ギュスターヴは、それでも、コリンの気持ちを尊重するにせよ、子供であるコリンに魔物と戦わせるのは危険だと主張していた。
「それは、大丈夫です 半鍾を鳴らすのは単体のスライムやラビットの時だけです それ以外の魔物が襲ってきた時は音楽を流すようにしています そして、その時は我々大人たちが総出で魔物を撃退しています アレンとローズの子供を守るのが、この村を守ってくれた3人に対する我々の責任ですから…… 」
ノアとソフィーの顔には、自分たちの命は捨ててもコリンは絶対に守るという固い決意が表れていた。
・・・この人たちは本気だ でもいつこれまでにない強力な魔物や、魔物の大群が襲ってくるかも知れない 警備隊の常駐していないこの村では、あっという間に蹂躙されてしまうだろう そうなればコリンを守るどころではない 村そのものが地上から消える ・・・
ギュスターヴは、この村がそんな目にあって欲しくなかった。




