9、夢に向かって
9、夢に向かって
私たちはお祭り騒ぎの中央広場で楽しんでいた。すると楽しげなジンタの音色が聞こえてくる。トーナメントを彩る音楽団だ。元の世界でもサーカスが街にやって来ると、この音楽隊が街をねり歩いて胸踊ったものだよ。
「ギュスターヴさんだ 」
射的に夢中になっていたコリンが、音楽隊の中にギュスターヴを発見して叫んでいた。コリンの中では、村を一人で守り抜いたギュスターヴは、犠牲になったボルトと共に英雄として刻み込まれているんだね。ギュスターヴも生き生きとリュートを奏でている。広場には笑顔が溢れていた。
・・・これだよ、これ このお祭りの活気と笑顔が溢れる人々の姿が好きなんだよ ・・・
私もアリスの肩の上で、つい笑顔になっていた。そこへ、ナアマとイブリースがやって来た。
「余裕だな、キノコ この程度の大会では何も問題なしか 」
「ピイッ 」
・・・ち、違うよナアマ シャーロットたちにお祭り気分を味わって貰いたかっただけだよ ・・・
私が弁解していると背後から声がかかった。
「この程度とは聞き捨てならないですね その大口、私と戦うまで言っていられますかね 」
ヴァイオレットだった。ナアマとヴァイオレットの視線がぶつかり合い、その間に火花がバチバチと飛んでいる。ヴァイオレットは王と分からないように平服を着て、ともの者も連れていない。でも、王様が一人で出歩いて大丈夫なの。私が心配していると、シモンが問題ありませんと教えてくれた。
「ヴァイオレット王は、トーナメントでも優勝しているように実力者です。ジョブでいうと”モンク”に相当しますかね。すべて必殺の一撃で勝ち抜いているのですよ。なので、むしろ護衛などいない方が好きに暴れられて良いと言っていましたね 」
とんだお転婆女王様だよ。でもね、王様は一人の体ではないから気をつけてよ。私は、ヴァイオレットに好感を持っていたから、私が世界を平和にしたら是非ヴァイオレットに治めて貰いたいと思っていたんだ。
ナアマとヴァイオレットがライバル意識むき出しで火花を散らしていると、そこにもう一人トーナメント参加者が現れた。
「お二人共、なかなかの強敵であるのは確かですが、この大会では私が一番有利でしょうね 魔法を使わない状態の技の多彩さでは私の右に出る者はおりません 」
クレアだった。ナガトが後ろについている。確かにレンジャーと忍者が手を組んでいたら厄介かも……。どんな技を使ってくるか分からないよ。クレアはナガトと特訓しているから、”分身の術”や”空蝉の術”なんかを覚えていたら相手にするの大変そうだよ。この曲者コンビ、強敵だね。私がウンウンと頷いていると、三人の間で火花がバチバチと飛んでいた。その時、私はシャーロットが屋台をじぃーっと見つめているのに気がついた。シャーロットはイカ焼きの屋台を見つめていた。イカの焼ける良い匂いも漂ってきている。
「ピイィィーーッ 」
・・・シャーロット、あれが食べたいの? ・・・
私が訊いたらシャーロットは恥ずかしそうに下を向いてしまった。
「キノコ様、シャーロットの家は豊かではありませんでした こんなお祭りに来たのも初めてでしょう きっと目にはいるものが全て珍しいのでしょう この国の民にそんな思いをさせてしまうのは財政を預かる私の責任です 申し訳ありません 」
「いや、シモンの責任ではありません それは王である私の責任 国の財源不足を解消出来ない私の不徳の致すところです とはいえ、これ以上税をあげれば民はさらに疲弊してしまうでしょう 」
シモンが謝罪しているとヴァイオレットも頭を下げてきた。いや、まあ確かに国のトップの責任だとは思うけど、別に二人が私腹を肥やしているわけでもないし、それはもっと別の事が原因だと思うよ。それに、そうか平和にするだけじゃみんなが笑顔になれる訳でもないんだ。私は改めて笑顔で溢れた世界を作る事の難しさを感じていた。そこへ、コリンが大声を上げていた。
「やったーーっ! 」
どうやら射的で狙っていたぬいぐるみを落としたようだよ。コリンは茶色い信楽焼のたぬきのような大きなぬいぐるみを持って、それをシャーロットに渡していた。シャーロットも嬉しそうにそれを抱き締めているよ。子供の時のぬいぐるみって特別な物なんだよね。カレンもウサギのぬいぐるみを抱いていたし、私も子供の頃抱いていた。妙な安心感があるんだよね。
「んっ、シャーロット あれ食べたいのか 」
コリンも気がついてシャーロットに言うと、シャーロットが返事をする前に屋台に行ってイカ焼きを買っていたけど、急にナアマを振り向くと先生と呼んでいた。ナアマはなんだという顔で歩いていくと、コリンに何かを言われてガツンと頭を叩いていた。
「ピ、ピイッ 」
・・・ナアマ、どうしたの 子供を叩いたりして ・・・
私が慌ててナアマに言うと、ナアマは苦笑いして答えていた。
「コリンの奴 お金がないのにイカ焼きを買おうとしてるんだ 私が渡した小遣いは射的で全部使ってしまったらしい ちゃんと金銭感覚も養わないと不味いだろう まあ、コリンが言うにはシャーロットは学者を目指しているから、何でも食べたりして経験しないと駄目なんだよと言ってるけどな そういう理由なら仕方ないから買ってあげたがな 」
なんかすっかりお母さんじゃん、ナアマ。それに、シャーロットは学者さんかぁ。希少なジョブだけどシャーロットに似合っているね。その夢を叶えてもらうために大人の私も協力しないとね。私は、今日は私がお金を出すから、何でも好きな物を買いなさいと言おうとしたら、先にヴァイオレットが口を開いていた。
「シャーロット、あなたには王としてどう謝罪したら良いのか分かりません どれだけ辛い思いをしたことか このカードを持っていきなさい このカードを見せれば何でも買えますよ 今日一日は思う存分楽しみなさい それが、せめてもの私のお詫びです 」
ヴァイオレットはシャーロットに黒いカードを渡していた。
「ピイッ…… 」
・・・ブ、ブラックカード…… 私なんか持ちたくても持てないカードだよ 元の世界で私が勤めていた会社では持っている人なんて誰もいなかったよ ・・・
年会費も高額だし、使用しなければならない金額も定められている。私なんかが持てるカードじゃないよ。さすが王様。私は見たこともなかった黒いカードを見て怖じ気付いていた。そして、シャーロットも、そんな凄いカード受け取れませんと断っていた。でも、コリンはちゃっかりそのカードを受け取るとシャーロットの手を引いて走り出していた。
「王様が良いと言ってるんだから遠慮するなよ、シャーロット 虫メガネが欲しいと言ってたろう これで最高級の虫メガネ買って勉強しよう 使った分は大人になって返せば良いじゃん 夢に向かうにはチャンスは活かさないとね 」
コリンに手を引かれ走りながらシャーロットも大きく頷いていた。そうだよ、シャーロット。チャンスと思ったら活かさないとね。私は走っていく二人を見て、この二人の未来のためにも世界を変えていこうと心に誓っていた。




