7、小さなお守り
7、小さなお守り
私がアリスの肩に乗って控え室への通路を進んで行くと、キノコ様と声をかけられた。
「ピッ…… 」
私が目を向けると、ウサギのぬいぐるみを持った女の子が緊張した顔で私たちを見つめていた。女の子の後ろには両親らしき男女が立っている。
「あの節はありがとうございました まさか神様であるとは存じなくて、失礼を致しました 改めてお礼を言わせて下さい 」
男女二人は深く頭を下げ、女の子もお辞儀をしていた。
「ピイッ…… 」
・・・カレンとその両親だ 彼女たちも首都まで来たんだ そんなに気にしなくて良いからね それよりカレンが元気でなによりだよ ・・・
私はカレンにその言葉を伝えたかったけど、私の言葉を通訳してくれる人がいない。
「ピイィィッ 」
私は身振り手振りで、カレンたちに伝えようとしたけれど、やはりそれは不可能だった。
「カレンというのですね キノコ様は、あなたが元気でなによりですと仰っていますよ 」
突然、背後から声がして私とアリスが驚いて振り向くと、そこにはボロボロの服で顔も汚れたシモンがいた。
「ピイィィーッ 」
・・・良かった、シモン その様子を見ると、苦労したみたいだけど大丈夫なの? ・・・
「はい、申し訳ございません キノコ様にはご迷惑をかけてしまいましたが、今後このような事がないよう気をつけて参ります 」
シモンが頭を下げるけど、私の横でアリスがチッと舌打ちするのが聞こえた。
・・・こ、怖いよ アリス ・・・
私は震えながらカレンに向き直っていた。
「ピイィィッ 」
・・・応援に来てくれたんだ ありがとう、カレン ・・・
今度は私の言葉をシモンがすぐに通訳してくれる。アリスが、ムッとした顔をしているけれど、仕方ないよアリス 人それぞれ得手不得手があるんだから、アリスも攻撃魔法なら群を抜いてるじゃない。それに、アイテムさえ手に入れればアリスも私と直接話せるようになるからね。
「はい、あの時助けてもらったのにきちんとお礼が言えなかったので、お父さんとお母さんに頼んで首都に向かう応援団の馬車に乗せてもらって来たんです キノコ様には優勝して貰いたいです 」
「街の皆さんは酒場のマスターの応援でしたが、私たちはキノコ様の応援で」
「キノコ様が降臨して下さったおかげで、私たちは希望が持てました 是非、頑張って下さいね 」
カレンに続き、両親も私を激励してくれる。私も、その気になって鼻息が荒くなっていた。会社でもそうだったけど私は小心者のくせに、期待されるとその気になってしまう。無理目の案件に、山内くんなら出来ると言われて出掛けて行って玉砕する事多数。今思えば、誰もやりたがらない仕事を上手く押し付けられていたんだと思うけど、それでみんなの役に立っていたんなら良いよね。
「ピイィィィーッ 」
・・・ありがとう 私、頑張る ・・・
私が拳を握りしめていると、キノコさんとまた声がかかった。振り替えるとポラリスの戦士ヴラドだった。AA級冒険者のヴラドとは、ダンジョン”白桃の眠り”で知り合ったんだ。ヴラドは闘技場に向かうところらしい。このトーナメントに出場するんだね。
「これから、俺の試合が始まるからキノコさんには是非観て貰いたい あの時より成長した俺を見せますよ 」
ヴラドは自信たっぷりに言うと歩いて行った。
「彼も、良い顔つきになりましたね 」
・・・シモン、ヴラドの事、知ってるの? ・・・
「ええ、彼ら”ポラリス”とは何度か共闘した事がありますからね まだAA級冒険者パーティーですが、将来的には勇者パーティーまで登り詰めるんじゃないですかね 彼は、実力、人柄共に優れているパーティーの中の一人ですよ 」
「まあ、いくら人柄が良くても勇者にはなれないけどね 必要なのは絶対的な強さ 人々の希望になるには、それなりの強さが必要になってくるからね 私たちが敗退したあの戦い、もしあの魔王が最後の一人であったなら、ランスロットは勝っていたわね ランスロットはね…… でも、他にもまだ魔王は残っていたからね 撤退して、備えなければならなかったのよ 人類の希望が失くなる訳にはいかないから…… でも、今はキノコちゃまがいるから安心ですぅ もうランスロットも過去の英雄ですね 神獣さえ、物ともしないキノコちゃまがいるんですからね このトーナメントでも優勝ですよぅ 」
「こらこら、アリス 口が悪いですよ キノコ様は手助けしてくれるだけです この世界を創っていくのは、あくまでこの世界の人々だとのお考えです 」
「なーにが偉そうに…… 自分だってキノコちゃまにべったりじゃん 」
「わ、私は神に仕える身ですから当然ですよ 」
「ふふん、シモン キノコちゃまを独り占めしようとしても、そうはいかないからね とにかく、今は私がキノコちゃまのセコンドです あなたはただの通訳 でしゃばらないように控えていなさい 」
アリスは勝ち誇ったように、どや顔をしていたが、二人のやり取りをハラハラしながら見ていたカレンが私の首にお守りをかけてくれた。
「私が作ったの あの時、あの森で摘んだ花を押し花にして入れてあります 私もキノコ様のように人を守れるようになりたい キノコ様、この大会優勝してね 」
カレンは両親に手を引かれて、観客席に向かって行った。少し不恰好だけど、カレンが一生懸命作ってくれたお守り。私は、カレンの気持ちに答える為にも負けられないと心に誓っていた。




