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最強の魔法使いに転生したいとお願いしたのに小動物になっていた私  作者: とらすけ
三章 北の大地、南の大陸

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6、初戦


6、初戦



 一回戦が開始され、控え室から出場する選手が呼び出されていく。マスターは、スピリタスの一気飲みで、まるで燃え尽きて真っ白な灰になったボクサーのように椅子に座って項垂(うなだ)れていた。


・・・大丈夫なの…… マスター…… ・・・


 私は心配だったけど、マスターのセコンドにつく予定のサーシャは、大丈夫ですと笑顔で答えていた。そうしているうちに私の出番がやってきた。私はセコンドのアリスの肩に乗り試合会場に向かって行った。そう、私のセコンドはアリスなんだよ。ナアマとクレアは出場選手だし、イブリースとナガトはこの二人のセコンドだ。私のセコンドは本当はシモンの予定だったけど、シモンはまだ帰って来ないから、私の言葉が解るギュスターヴにと思ったけど、アリスが私がセコンドをすると頑として譲らなかったんだよ。


「大丈夫です、キノコちゃま 言葉は解らなくとも私たちは瞳で通じ合っています 」


 アリスは断言するけど、私には自信たっぷりに言うアリスが全然解らないよ。そして、私たちは闘技場に立っていた。周りは凄い観客だよ。ローマのコロッセオのような観客席には空いてる場所がないほど人が溢れている。


「キノコさまぁーっ 」


「キーノーコ、それ、キーノーコ 」


 周り中からの大歓声で、会社の朝礼当番でみんなの前で所感を述べるだけでも緊張する私はひきつった笑顔で体は硬直していた。だってこれ何人いるの。こんなに大勢の人が私に注目しているなんて初めての経験だから、私はとても平常心ではいられなかったんだよ。すると、アリスが大丈夫ですよと私をナデナデしてくれる。


「心配しないでもキノコちゃまは最強です ここにいる皆さんの度肝を抜いてあげるのです 」


 私はアリスにおだてられて、ふんっと鼻息が荒くなっていた。そこへ、サーシャの肩を借りてマスターもやって来る。私とマスターは闘技場の上で向き合っていた。普通なら視線がぶつかり合って、バリバリ火花を散らすところだけど、マスターはふらふらで視線が合わず、というか私の視線を避けてるみたいだった。


「それでは、一回戦 神の使い、キノコ様 対 酒場のマスター、クラトス、開始っ 」


 レフリーの宣言で試合が開始された。アリスは私を置いて、サーシャも肩をどけて闘技場を降りていく。


「キノコちゃまぁーっ 速攻勝負です 一発で決まりますよぉ 」


 アリスの声援にのって私は魔法少女に変身する。本来これも魔法じゃないのという声が聞こえてきそうだけど、魔法を使わないジリスの体では人間に噛みつくくらいしか戦う手段がないので、対当の大きさになる人間に変身するのは了承を貰っているんだよ。それは観客の皆さんにも周知されているんだ。


「キノコさまぁーっ その姿も可愛いですぅーっ 」


「俺は、その姿が好きですぅーっ 結婚してくださいぃーっ 」


「ずるいぞっ、俺が先だっ キノコさまぁーっ 」


 なんか変な声援も混じっているけれど、私はマスターに向かって構えをとる。マスターは、ふらふらと立っているのもやっとの状態のようだよ。


・・・これは早く勝負をつけて休ませてあげた方が良いかも ・・・


「クラトス、俺たちがついてるぞぅっ 華々しく散ってこいっ あははっ 」


「マスター、頑張れっ これは武勇伝になるよぉっ 」


「そうそう 写真撮っておくから、パネルにして酒場に飾ろうぜ 」


 マスターにもたくさんの声援が送られていた。みんなゴモラの街からはるばる来たんだね。マスターがこの人たちのために闘技場に立った気持ちは分かるよ。でも、勝負は勝負だからね。

 私はマスターに向かって飛び出し、間合いに入ると顎の先を狙って拳を振った。


ブンッ!!


スカッ……


・・・あれっ…… ・・・


 私の拳は見事に空を切っていた。


・・・おかしいな、ちゃんと狙った筈なのに…… ・・・


 私は、それなら胴だとマスターの鳩尾に拳を突き込む。


スカッ……


 マスターはまるで軟体動物のように体をくねらせて私の攻撃を避けていた。それから私は続けざまに拳を突き込むが、どの攻撃もマスターに避けられてしまう。


・・・マスター、私の攻撃が見えてるの? いや違うよ あの目は全然違う方を見ている マスターは私の気配だけで攻撃を避けているんだ この泥酔状態 これが本当の酔拳なの ・・・


 私は連続で攻撃を仕掛けるけど、みんなマスターに避けられてしまう。その私の姿は、ジャッキー・○ェンに翻弄される悪者のようだ。そのうちに、どんどん時間が経っていた。


「キノコちゃまぁーっ お遊びはそこまでですぅっ もう時間がないですよぅーっ 」


 アリスが私に声をかけてくるけど、私にはマスターの動きがまったく読めないんだよ。このまま時間が切れたらジリスの姿に戻っちゃうよ。そうしたら多分引き分けになって二人とも敗退という結果になってしまう。


「いいぞぅ、クラトス 粘れ、粘れぇーっ 神様と引き分けたら、大金星間違いなしだぁっ 」


「あそこまで泥酔したクラトス、初めて見たわ それにしても、あの神様の攻撃を避け続けるなんて凄いわね これなら引き分けに持ち込めるんじゃない 」


 私は正直パニックになっていた。足なら避けられないだろうと、マスターの足元に蹴りを入れると素早く足を上げ、Y字バランスの姿勢から私の頭上に踵を落としてくる。


「うぴぃ…… 」


 私はそれを避け、マスターから離れ間合いをとっていた。


・・・落ち着け、落ち着け…… 契約の時を思い出すんだよ 相手のどんな言葉にでも対応出来るように、頭の中は常に冷静でいなくちゃならないんだ その時を思い出すんだ ・・・


 私は契約と同じ様に、マスターを攻略するために頭をフル回転させていた。



・・・どんな事にだって対処する方法はあるんだよ ・・・


 私は、会社のみんなの顔を思い浮かべていた。そして、ハッと気がついた。


・・・これは、忘年会でべろべろに酔っぱらった常務の動きだ ・・・


 私は、あの時の常務を思い出し、またマスターの間合いに飛び込んでいった。そして、マスターの顔を常務に変換する。その常務の顔に向かって私は攻撃を仕掛けた。


「お酒に呑まれてはいけませえーんっ 」


パーーーンッ!!!


 私の平手は見事にマスターの頬にヒットしていた。マスターは闘技場に倒れると、急に酔いが醒めたように私を見つめ、まいりましたとギブアップしていた。私は、あの時の酔っぱらっった常務に心の中で感謝していた。


・・・うん、やっぱり何事も経験だね ・・・


 酔っぱらいの相手をした経験も、それを活かせる時があるんだね。私が安堵していると、レフリーが私の手を上げてくれる。


「勝者、神の使いキノコ様ぁぁぁーーーっ 」


  私の手が上がると、周囲から割れんばかりの歓声が雨のように降ってきていた。


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