5、大会開始
5、大会開始
華々しいセレモニーの後、ヴァイオレットの演説があり、そして「第6回ヴァイオレット杯」の開始が宣言された。
ポーン、ポーン、ポーン!
花火も打ち上げられ、まさにお祭りムードだよ。お祭り好きの私としては、もうわくわくが止まらない。
小さい頃、地元の夏祭りに行った時を思い出すよ。小学校に校庭に櫓が組まれて、その周りで盆踊りを踊るんだ。金魚すくいや射的やわたあめ、そんな露店もたくさん出て、私はその日常と違う雰囲気が大好きだったんだ。普段は夜出歩く事なんてなかったけど、この時だけは浴衣を着て、提灯や露店の灯りで昼間のように明るくなった夜の校庭を親に手を引かれて歩いていた事を思い出すよ。そんなお祭りの楽しい原体験があったからなのか、それから私はお祭り好きになっていたんだよ。大人になってからも、お祭りと云うと血が騒いでくるんだ。露店で売っている”たこ焼き”や”大判焼き”を食べながら歩いていると自然に笑みが出てくるよ。
だから、会社の飲み会とかも大好きだったよ。普段は仕事で厳しい事を言ってくる上司や、たまにやらかしてくれる部下とも仕事を忘れて話せる。これもお祭り同様、日常とは違う雰囲気で私は好きだったよ。そういえば忘年会で、べろべろに酔った常務を思い出した。その姿はまるでテレビドラマの酔っぱらいそのままだった。ネクタイを頭に巻いて、なぜか大声で話してくる。帰る方向が同じなので私と同僚二人は同じ駅のホームにいたけれど、恥ずかしいから他人のふりをしていたんだよ。それでも、常務がホームに落ちないか心配だから見ていたら、ホームに入ってきた電車に常務がこの電車だと乗り込んで私たちも続いたんだけど、それは行先の違う電車だったんだよ。私たちは途中で気がついて戻ってきたけど、常務は間違いないと電車に乗り続けていたんだ。常務が無事に帰れたのか心配だったけど、翌週普通に仕事に出ていたから問題なかったのかな。
いけない、いけない。お酒絡みの話になるといろんな事が思い出されて、つい脱線してしまうよ。大会の話に戻ります。
私たちは控え室にいたけど、そこでもお客様の歓声が聞こえてくる。凄い盛り上がりようだよ。私はアリスの肩に乗って、興奮してキョロキョロと辺りを見ていた。みんな、強そうな人ばかりだ。その中で一人、お酒を飲んで酔っぱらっている人がいる。大会が始めるのに大丈夫なの、と思ったらゴモラの街の酒場のマスターだった。
・・・そうか、マスターの酔拳の使い手 でも、あれ酔っぱらい過ぎなんじゃないの ・・・
私は、アリスにマスターの近くまで行ってと伝えてとギュスターヴに頼んでいた。そうそう、私の通訳をしていたシモンは、どこかに飛んでいってまだ帰ってきていないんだ。だから、ギュスターヴに通訳をお願いしているんだよ。シモンが、ここまで帰ってくる冒険譚は機会があれば、シモンに語って貰うとしようかな。
私が近づいて行くと酔っぱらっているマスターの横にサーシャがいた。
「あっ、リースちゃん…… いけない、神様なんですよね 組合では失礼しました 無礼な物言いをお許し下さい それでこれからは、なんとお呼びすれば…… 」
「ピイッ 」
「リースさんの本当の名前キノコで良いですよと仰っていますよ、サーシャさん 私は通訳で吟遊詩人のギュスターヴ こちらの女性は…… 」
「もちろん知っております これでも冒険者組合に勤めておりますので 勇者パーティーの”深淵の魔法使いアリス”様ですよね 」
アリスはフフンとどや顔をしているけれど、鼻息がうるさいよ、アリス。それよりも、マスターだよ。
「ピイィィィッ 」
「いくら酔拳の使い手でも、そんなにべろべろに酔っぱらって大丈夫なのかとキノコさんが心配していますが 」
「私も少し酔い過ぎではないかと言ったのですが、修練場でキノコ様の力を見てしまったようで、飲まないと怖くて戦えないというのですよ それなら、棄権すれば良いのではと言ったのですが、ゴモラの街から応援の人たちがたくさん来ているのに、それは出来ないと言って…… マスターの気持ちも分かるのですが…… 」
「ピ…… ピイ…… 」
・・・ごめんなさい でもあれは魔動人形だったから さすがに人には本気で打たないよ ・・・
私はマスターに謝ったけれど、マスターは私の姿を見て、さらに怯えてしまっていた。私はアリスの肩の上で可愛いポーズをとっていたけど、マスターには私の姿は恐ろしい魔物に見えているようだよ。
「ひぃぃーっ、サーシャ、もっと強い酒をくれ 早くうぅーーっ 」
サーシャにさらにお酒を要求するマスターに、アリスがさらに追い討ちをかけていた。
「あの粉々された私の魔動人形を見て、よく出場する気になるわね あれは、あなたの未来の姿 まあ、キノコちゃまと戦って天に召されるなら光栄なことかも知れないわね きっと、子々孫々まで語り継がれるわよ 」
「ピイッ 」
・・・ちょっとぉ、アリス 言い過ぎですよ ・・・
「いいえ、キノコちゃま 戦いはもう始まっているのです 私はキノコちゃまの障害になるものは、例えそれが石ころ一つでも許しません 心理的にダメージを与えてやります ぐふふ 」
「ピッ…… 」
・・・こ、怖いよアリス ・・・
私も震えていたけど、マスターはそれ以上に怯えて、サーシャから奪い取ったアルコール度数90以上のお酒”スピリタス”をそのままらっぱ飲みしていた。




