3、酒場のマスター
3、酒場のマスター
私はアリスの肩に乗り、城の一画にある広い修練場に来ていた。その後ろをシモンがついてきている。今回のトーナメントに参加する人たちが、ここで最終調整をしているので様子を見に来たのだ。
・・・ねえねえ、魔法は駄目だけど、技とかは使って良いんだよね ・・・
「勿論です、キノコ様 ほら、あそこの男を見て下さい 」
シモンが指差す方を見ると、一人の体格のいい男が相方と組手をやっているようだった。男は、スッと相方の懐に入ると腰を落とす。そして、そこから高速の拳を打ち上げた。
「昇龍◯ 」
男の声が聞こえ、同時に男の拳が龍のように天空に上がったように見えた。
・・・な、なにあれ…… 実際にあんなパンチ打てる人がいるの ・・・
私は驚愕していた。だってあれ、私が元の世界で遊んでいた格闘ゲームに出てくる必殺技だよ。まさか、それの本物が見られるとは思わなかったよ。
「彼は去年のベスト4に残った強者です 今年こそは決勝に残ろうと、今まで以上の特訓をしていると聞いています キノコ様なら問題ないと思いますが、憶えておいても無駄にならないと思います 」
いやいや大問題でしょう。だって私、素人だよ。あんな本格的な人が参加してくるなんて思ってなかったよ。ヴァイオレット、ごめんなさい。私、軽く見すぎていました。私が反省していると、筋肉ムキムキのごっつい男が声をかけてきた。
「おーい、リースちゃん 久しぶりぃ 」
・・・酒場のマスター…… ・・・
驚く私にマスターは気軽に話しかけてくる。
「びっくりだよ、リースちゃん 神様なんだって…… しかも、俺の1回戦の相手とはね そうそう、またあのイケメンの彼ととリュート弾きの男連れてきてよ 女性客がうるさいんだよ 俺としては、あのむちむちのビキニアーマーの姉ちゃんの方が会いたいけどな アシャちゃんだっけ 彼女もこの大会に出るって聞いたけど、どこにいるの サービスするから、またお店に来てもらいたいなぁ それに、出来れば彼女と戦いたかったよ 」
マスターは私の周りをキョロキョロと見ている。本当に分かりやすい人だよね。イブリースやギュスターヴの名前は忘れても、ナアマの名前はしっかりと憶えている。きっと、私を見つけて近くにナアマもいると思ったんだろうな。でも、残念。今は私たち別行動なんだ。ナアマは、自分の居城に一旦戻って鍛えているよ。魔法も焔の剣も使えないからね。それでも、ナアマが簡単に負けるとは思えないけど、あの昇龍◯の人みたいのがいると思うと油断できないよね。
「ナアマさんは、いませんよ 大会まで一人でこもって修行するそうです 」
シモンが答えると、マスターは残念そうな顔をしているけれど、ナアマと戦ったら簡単にのされちゃうと思うよ、マスター。
「キノコちゃま、そろそろキノコちゃまも、少し体を動かした方がよろしいかと…… 」
話が長くなりそうと思ったのかアリスが、割り込んできた。そして、私の練習用に魔動人形を造り出す。
「キノコちゃま用に用意しました これなら、キノコちゃまが本気で打っても大丈夫ですよ 強度は充分確保してありますので 」
凄いよアリス。こんな事も出来るんだ。ナガトも”傀儡の術”で人形を操ったりするけど、アリスの魔動人形もよく出来ているよ。
「この魔動人形Sくんには、あの昇龍◯の彼のデータも入力してあります なので、Sくんに勝てれば、彼にも勝てるということです 」
なるほどと思っているとマスターがキラキラとした瞳でアリスに訊いてきた。
「あ、あの…… 俺のデータも入力してあるんですか? 」
「ないですけど、なにか…… 」
期待を込めて訊いたマスターに、アリスは冷たく言い放っていた。がっくりと項垂れるマスターを見て、私は少し可哀想になっていた。
・・・じゃあさ、マスターが先にこのSくんと戦ってみなよ いい戦いをすれば、マスターのデータも入力してくれるよね、アリス ・・・
「キノコちゃまが、そう言うなら良いですよ でも、キノコちゃまの参考にならないようなら却下です
・・・ふんふん、じゃあマスター、頑張って ・・・
私がマスターに声をかけると、マスターはポケットからスキットルを取り出していた。
・・・えっ、これってお酒入れる入れ物じゃないの ・・・
私が驚いている前でマスターは、ぐびぐびとお酒を飲んでいた。辺りにウイスキーの匂いが漂い、アリスは顔をしかめるが、シモンはなるほどという顔をしていた。
「酔拳ですか…… 酒場のマスターらしいですね 」
す、酔拳……。映画では見た事あるけど、実際に見るのは初めてだ。というか本当にそんな拳法があるんだ。私は驚いていたけど、シモンは冷静に解説してくれた。
「酔拳は、その動きが予測不能 なので、修行をつんだ方ほど、その動きに眩惑されてしまいます なかなかに厄介な拳法です キノコ様もお気をつけ下さい 」
そのシモンの言葉通り、昇龍◯のSくんはマスターの動きに翻弄され、何度も急所に拳を叩き込まれギブアップのランプが点灯していた。
・・・Sくん、負けちゃった ・・・
「すいません、キノコちゃま このスケベ親父が、これほどのものとは…… すぐに入力します 」
アリスは満面の笑みを浮かべるマスターを睨みながら、Sくんにデータを入力していった。
「さあ、キノコちゃま OKです 戦ってみて下さい 」
私は、魔法少女の姿になるとSくんを見た。Sくんは千鳥足のようにふらふらと間合いをつめてくる。
「リースちゃん、未成年なのに酒場に来ちゃダメでしょう 」
マスターの呟きが聞こえるけど、まただよ。もう見た目で判断するの止めようよ。私は、もう大人なの。私はぷんぷんしながら、地面を蹴って一気に間合いをつめた。そして、Sくんに拳を叩き込む。
バキャッ
パーーーンッ
「あぁぁーーーーーーーっ!!」
その瞬間Sくんの体は粉々になり、アリスとマスターが目を丸くして悲鳴を上げていた。




