第216話・最終回、そして──
魔王城、そして魔王領域を出発して2日。
ほぼ全ての人類の記憶が書き換えられる明日を控えた今日。
俺はアリアとともに、魔王城へ来た時の道をあの時とは反対の方向に歩いていた。
目的地は錬金術の街ベルトン。アリアに運んでもらえばすぐ到着出来るが、懐古に浸りたい気分だったので途中でやめた。
こうして彼女と二人で歩いていると、当時の記憶が鮮明に思い出せるというものだ。
⋯⋯といっても、一年も経ってない程度の思い出なのだが。
「──なぁ、幼女」
「あっ、その呼ばれ方。懐かしいねぇ〜♪」
「だって幼女は幼女だろ? なら幼女でいいんだよ」
「ふふ、はいはい幼女アリアちゃんですよ〜っと。それで? どうかしたの?」
「いや折角だからさ。あの時みたいに、歩きながら何か面白い話でもして欲しいなって」
俺の要望に、アリアは「う〜ん」と考える素振りを見せる。
少ししてから、閃いたように目を丸く見開いて話を始めた。
「それじゃ、ここでアリア先生による豆知識のお時間っ♪
この前、ギルルやティガが“魔宮”に遊びに来てって話をしてたでしょう? 補足をしたげる。
ひとえにダンジョンと言っても、実はその種類はいくつかあってね。これが中々面白いんだよ。
大前提として、どれがなにでこうっていうダンジョンの区別は人間の学者さん達がやってるものだけど⋯⋯」
「ダンジョンの種類」
「そっそ。一つがギルルやティガ達みたいな主に上位の魔族が持ってる《レジエンドダンジョン》。“魔宮”とも呼ぶ。
二つ目が、古城や洞窟に不特定多数の野生魔物が住み着いている場所。“魔窟”の名があるコレが《ジリオンダンジョン》。
三つ目が《アルトダンジョン》。魔物と魔族の両方が住んでいる場所だね。
“魔窟”と《アルトダンジョン》の違いは、そのダンジョンに魔族であれ魔物であれ支配者がいるかどうかだ。
因みにダンジョンには、なんとゲームのように金銀財宝や危険なトラップがわんさかある場合があるよ」
「へええ。⋯⋯トラップは分かるとして、どうして金銀財宝が眠ってるんだ?」
「う〜ん、コレはちょっと昔話になるんだけどね──⋯」
⋯──ベリアルって魔族がいたんだよ。私の友人であり初代魔王⋯⋯というか、「魔王」という制度を創ったのが彼だ。
ベリアルは太古の魔大戦の終結後、人類と魔族の共存の為にこの星のいくつかの地域に魔族の生活圏を設けた。
んまぁ、これは彼の話術というか志しに当時の人間の長達が説得されたから出来た事かな。
でだ。人類と共に生活するにあたって、魔族にもお金や財宝への価値が生まれたんだ。
だけどねー、当時のあのコ達ったら限度というものを知らなくてねー。金銀宝石の鉱脈を、もう当てるわ当てるわ。
『いっぱい持っていればいいんでしょ?』みたいなスタンスで蓄えを増やすワケだから貯金がタンマリなんだよ。
そんでまぁ、当時の魔族も現代と同じく“魔宮”で生活してたんだけど⋯⋯。彼らも長生きとはいえ寿命はあるからね。
家主が消えた魔宮は、長い時間をかけて魔窟や《アルトダンジョン》へと変化した。使い切れなかった貯金を残して、ね。
その結果ダンジョン=お宝があるって状態になったワケだ。
因みに、お宝の中には武器や防具もあったりするんだけど、その理由は二つあってね。
一つは“信頼の証”ってやつだね。魔大戦中には、人類は沢山の兵器はもちろん、武具も多く開発した。
争いの道具であったとはいえ、それらは当時の職人が文字通り命を掛けて造った代物。
強力かつ見事な武具を敵だった者達へ贈る事で、人類もまた魔族へ歩み寄る意思を形として示したんだ。
実際、私が覚えている限りでは、その後の時代の魔族が贈られた武具で悪さをした事は⋯⋯まぁ、あんまりないかな。
二つ目の理由は、一つ目とは真逆の“裏切りの意思”だ。
魔大戦に負けた。原因の一つは同胞の中から出た裏切り者。その者が自分達の長となり、今までの敵と和平を結んだ。
⋯⋯まぁ、当然素直に従わないって魔族も多かった訳だね。
だからこそ、彼らは密かに武器兵器を開発して、それが露呈しないように自らの魔宮に侵入者対策を施した。
それが、いくつかのダンジョンの中に危険なトラップがあったりする所以だね。
ただ、別に敵意があったからとかじゃなくて、本人としては戸締り的なニュアンスで罠を仕掛けてるコもいたけど。
ダンジョンっていうのは、本当に色んな所にあるよ〜??
例えば、海底に沈んだ神殿っ! もうそのワードだけで冒険心が騒いじゃうでしょ?
樹海の奥深くで眠る太古の遺跡っ! 凍える大氷山にある闇をも飲み込む大洞窟っ! この空の何処かに浮かぶ──⋯
「⋯──ん? ああ、ゴメンゴメン。私が語りすぎると冒険する意味が無くなっちゃうか」
「でも、すごく面白そうな話だった。ウズウズしてきてるぜ。
前に、アリアもよく旅をしたって言ってたが⋯⋯。やっぱり良いもんだよな、冒険って」
「ふふふ。うん、本当にね。まるで、物語の主人公にでもなった気分になるんだよ。
⋯⋯まぁ、世界中を巻き込んだ私の物語はここらで最終回だけど。シーズン2に乞うご期待! って感じかな♪」
ニッコリと笑うアリアに、思わず俺も笑いが零れる。
彼女は⋯⋯もしかしたら、俺がなりたい俺とよく似た人生を歩んでいるのかもしれない。
きっと、俺もいつか。自分の人生を振り返った時には、今のアリアのように輝いた目をしているのだろう。
ふふふ、堪らなく楽しみだ。いずれ、抱え切れない程の思い出話を語ってみたいものだな。
「──さて、そろそろ着く頃だね」
「ああ、見えてきた」
遠くに見える、ベルトンの街。
アリアとはここまでの約束だ。
「⋯⋯紅志、」
「ん? なんだ──って、うおっ!!」
アリアの声に振り返った俺が見たのは、白く輝く龍だった。
星廻龍アルノヴィア。そう呼ばれる彼女の真の姿は、文言で形容するにはあまりに言葉が足りない。
磨き上げられた白銀の煌めきを放つ宝石と見紛う程、透き通るような全身の白鱗。
細身だが調和の取れた筋肉の逞しさと、なめらかな曲線美を魅せる四つの長い脚。
絹の反物の様な四枚二対の翼は、まるで星々の閃光のように繊細で見目麗しい。
しなやかに流麗に揺らめく尻尾、尻尾よりやや長く堅牢さとともに威光と柔らかさとを感じさせる胴体。
そこから先。布かあるいは流水を思わせる至高の彫刻の如く長く美しい首。
頭の後ろから気高さを表すような二本角が真っ直ぐと生え、下顎の後ろからは力を象徴するような棘が左右に生えている。
その肢体は、せいぜい俺の三倍程度の大きさであるにも関わらず、底知れない威圧と存在感を放っていた。
全貌に神々しさと猛々しさを備えつつ、その顔立ちと真紅の瞳が持つ優しく暖かな眼差しは明確にアリアを感じさせた。
「──まぁ、せめて、ね。本当の私の姿も知っておいてよ♪」
「⋯⋯その口調、すげえ安心した」
「ふふふ、私は私だよ。それとも、雰囲気変えた方がいい?
“我は星廻龍アルノヴィア。世界の調和を司る龍なり”ぃ〜」
「いいって、似合わないから。幼女アリアちゃんでいてくれ、俺はそっちの方が好きだから」
「きゃっ! 『好き』って、我照れちゃうっ♪」
そんな龍の姿で照れられても⋯⋯。
美しさと可愛さは別ものなんだよ。ちょっと可愛いとは思ったけどもな?
⋯⋯なんて、はーあ。こうして冗談を言い合えるのもこれで最後か。
今生の別れというつもりなんてさらさらないが、いつまた会えるかも分からないのは事実。
少し⋯⋯。いや正直、めちゃくちゃ不安だ。
アリアは神話や伝説の存在。本来なら、俺なんかがこうして面と向かっていられる相手ではない筈だ。
今後、二度と会えない可能性だってあると考えてしまうと、思わず抱き着きでもしたくなる。
というか⋯⋯うん、もうしておこう。なんか猛烈にしたい。
「ふぇっ?? ええっ!? ちょっと、もお〜!! ホントにこのコったらぁ!! 紅志ぃ〜!!」
「うおーん」
頭を撫で回し、高い声で俺の名を呼ぶアリア。
甘えたい、という訳ではないのだが──まぁこれまで世話になったからなぁ。
魔物や魔力の知識だけでなく、住処や行くべき場所、多くの出会いまで与えてくれた。
親の代わりと言っても過言ではないのがアリアなワケだし、こういう触れ合い方もたまにはいいだろう。
しかし、子はいつまでも親に甘えてはいられない。⋯⋯もう行かなければ、な。
「──長かった私とこの世界の物語は終わった。そして紅志、これから始まる新たな物語の主人公は君だ。
⋯⋯ここに来るまで少し時間が掛かっちゃったけど、紅志は紅志としての人生を歩んで」
「⋯⋯アリア、」
「いいのいいのっ、お別れの言葉なんて。ほら、もう行って。
──今までありがとう。それじゃ、また会おうね♪」
⋯⋯うん、そうだな。
別れの言葉を交わす必要は、俺達にはないか。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
またな、アリア。
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