第217話・再会、約束、再会
「──おお、来たか来たか」
ベルトンに到着してすぐ、俺は度肝を抜かれた。
街に入るなり、例の如く喋るドラゴンに興味を持った群衆に取り囲まれたワケだが⋯⋯
ギルドの出入口から人混みを掻き分けて、茶髭もっさりかつごく低身長な一人の男が俺を呼んだのだ。
ガバン・ビンゴール。この錬金術の街ベルトンでギルドマスターを務める、ドワーフの老人である。
そして、以前の黒異種による人類への攻撃──大襲撃と呼ばれていたか──で命を落とした者の一人だ。
⋯⋯ああ、そういえば。アリアから、冒険者を始めとしたギルド関係者だけは先に生き返らせるとかなんとか。
兎に角、人類の今後の世界情勢とそれへの対応の為、必要な人材は先んじて復活させると聞かされたな⋯⋯
「何があったかはヴィルジール君から聞いた。まぁ、近々この記憶も忘れ去る事になるらしいが⋯⋯。
それでも、君のお陰でこの街のギルドマスターを続けられる事に感謝を伝えるべきだと思ってな。本当にありがとう」
真摯な眼差しでお礼を言われ、思わず頬を指で掻く。
特別な仲という訳ではないが⋯⋯やはり再会とは感動だな。
ましてや一度死んだ相手、こうして涼しげな顔を保つので精一杯だ。⋯⋯涼しい顔出来てるよな?
「話によれば、以前の王都防衛戦の後に魔王軍に連れ去られ、壮絶な扱きを受けたとか? よくぞ無事でいてくれたものだ」
「⋯⋯フッ。まぁな、色々頑張ったぜ」
冗談っぽく肩を竦めつつ、ガバンに歩み寄る。
再会の握手と軽い抱擁を交わしてから、彼に招かれてギルドハウスの執務室へと移動した。
俺に一人掛けのソファを手のひらで差してみせるガバンは、右手で珈琲を淹れながら左手で何やら書類に触れている。
少しして二人分の珈琲を用意したガバンが、数枚の紙を手に俺と向かい合う形でソファに座った。
「──しかし⋯⋯しかしだ。いやあ、しかしだ。この私も件のオーガや魔大戦の話を存分に聞かされたが⋯⋯」
ソファの肘掛けポンポンと叩き、珈琲を口へ運ぶガバン。
若干の間を開け、彼は眉を顰めながらも笑顔で──つまりは呆れた表情で言葉を続けた。
「なんだね、あの話は?」
「はは⋯⋯それを聞かれてもな。俺も意外と端役なんだよ」
「ム、そうなのかね? ヴィルジール君の語りによると、君はまるで主役の英雄の様だったが⋯⋯。“邪神を打ち倒し世界を救った”、それは事実なのだろう?」
「どうだかな。世界を救ったというのは、行為としての自覚は難しいのかもしれない」
ふふふ。こうして自分で言ってみると、まるでその通りだ。
今のこの世界を、この景色を、この瞬間を──もしかすると俺が生み出した可能性がある。そう考えると不思議な気分だ。
⋯⋯しかしそれはそうと、ヴィルジールはあの戦場での自分の経験をガバンに語らなかったのだろうか?
俺はオーガを倒せるだけの鍛錬を積まされたから、そりゃあ当然オーガは倒せましたって結果になったが⋯⋯
ヴィルジールが魔王城で鍛錬したのは僅か数日。にも関わらず、圧倒的格上のギオスを追い詰めていた。
勇気を持って強敵に挑んだ者を「英雄」の定義とするなら、彼の方こそその肩書きが似合うと思うけどな。
まぁ彼自身、自分を持ち上げる性格ではないだろうが。
「ふむ⋯⋯何はともあれだ。君には感謝してもしきれないな」
「いいって、そういうの。照れるし」
「ハッハッ、正直だな。しかし、それでも礼はさせてもらう。
──そもそも、私は君との約束を果たす義務があるのだよ」
「約束⋯⋯?」
はて、なんの事やら。
これでも、ガバンとは精々丸一日あったかどうかの付き合いなワケだからなぁ。
真魔大戦とその準備期間の情報量が凄まじいのも相まって、正直どんな遣り取りをしたかあまり覚えていないぞ。
「まず思い出して欲しい、私と君はどうして知り合ったのか」
「それは⋯⋯あれだろ。王都クローネに魔物の大群が迫って、それを迎撃する為に戦力が必要で⋯⋯」
「その通り。あの時は、もはや戦力になれば人であるかどうかすら問わない程だった。故に、私は君に目を付けた。
そして当然、魔物相手に交渉など持ち掛けられる筈ないと、そう思っていた」
しかしながらの交渉成立。事態は簡単に進んだ。
新計画書の書き直し、旧計画の撤廃、その事情説明、なんやかんやとガバンは頭を抱えていたっけ。
んで⋯⋯どうだっかな。ギルトランク『ゼクス』のメンツと飯食ったりして──。⋯⋯ええっと。
実際に戦力になるかシルビアとの模擬試合があって、その前にはヴィルジールの家に訪れたか。
なんかこうして記憶を遡ってみると、防衛戦以降とはまた違った愉快さがあった頃だなぁ。
まぁ兎に角。その後は、俺とガバンがこの部屋で初めて出会って、防衛戦について色々話したんだったな。
「私と君の約束が円滑に進んだ、その一番の理由はなんであったか⋯⋯覚えているかね?」
「理由⋯⋯」
「──ああそうだ、王都クローネに訪れた際にそこのギルドマスターと一杯やったそうじゃないか??」
「ん⋯⋯? ああ、まぁそうなんだよ。ちょっとの誤解で一悶着があってな。その謝罪をしたいって言うから、あの人の奢りで一緒に寿司っていう食べ物をぉぉぉおああッッ!!?!?」
思い出したようだなと、ガバンは機嫌良さげに髭を整える。
そうだった⋯⋯!! それまで、俺とは全くの無関係だった王都クローネの防衛に協力するその見返り!!
野生の竜に転生して食べれる機会が消滅した、日本人としてどうしても欲求が抑えられないあの穀物を!!
防衛戦に参加した報酬として貰う約束をしたじゃないか!!
「──お米ぇぇぇ!!」
「フフ。商人との取り引きの際、どこか怪訝そうな表情で購入理由を尋ねられたのだが⋯⋯
どうやら向こうは、家畜の飼料にでも使われると想定していたようでな。
食料として受け取ると伝えてみれば、それはそれは上機嫌に値引きをしてくれたよ」
はえー⋯、俺が知らない所でそんな事があったのか。
というか、その遣り取りからしてお米を運んできた商人ってもしかすると⋯⋯??
「街の備蓄倉庫に、例の穀物が詰められた藁の入れ物──コメダワラと言っていたか、それが三つある」
「おお」
「それと、商人からほぼタダ同然で⋯⋯ドナベ? シャモジ? 椀やら箸やら、米を食すのに用いるだろう道具も貰ってある」
「おおお!!」
あーこれ、その商人絶対に日本人の転生者だわ。
どうやら、この世界の何処かに米を布教して回るやつがいるらしい。全くありがてえ限りだ。
今後の旅路の中、例えば絶景を眺めながら米を食えるなんて幸福そのものじゃないか。
茶碗に箸、土鍋に杓文字、調理・食事の道具まで用意してくれるとは⋯⋯いやあ文句無しっ。
その商人に会えた日には、もうソッコーで靴舐めにかかるかもしれないな。
貰った米と道具は、後でフィリップがくれた例の無限容量の巾着に入れておこうか。
米に合うおかずを作る為に、調味料も沢山入手しておきたいところだな。旅に出る前に市場に足を運ぼう。
「──失礼するよ」
ふと、背後の扉から嗄れた男の声が聞こえた。
正面で目を見開くガバンから首を回して声の主へと目をやると、そこには一人の老人の姿が。
微かなシガーの香りと黒茶色のベスト。印象的なそれを纏うその老人は、驚く事に王都クローネのギルドマスターだった。
「ギルさん⋯⋯!」
「ぎ、ギルバート殿! 何用で──いや、いらっしゃるのであれば此方から迎えに⋯⋯」
「無用だ。気にするな」
動揺するガバンを、右手を軽く押し出す様なジェスチャーで宥めるギルバート。
全然変わってないなぁ。相も変わらず元気そうなのはなによりだが⋯⋯はてさて。
「──紅志、またまた世話になったな」
ガバンがわっせわっせと用意したソファに座り、ギルバートが言う。
王都のギルドマスター。その肩書きから分かるように、ギルバートは大物だ。
それこそ、役職上同格であるハズのガバンがこの慌てよう。
久し振りに顔を見れたのは嬉しいが、一体何をしにきたのだろうか?
超絶今更なのですが、今作の主人公のモチーフ(というかパクり)は、ゴッドイーターというゲームに登場するアラガミと呼ばれる「ハンニバル」という敵モンスターです。
マジかっこいい。
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