第215話・立つ
「──うおわああーーっ!!」
魔王城に轟く爆音の叫び。
その主は、何を隠そう猛紅竜こと俺である。
魔王の玉座の正面。広く長い階段を降りた先の謁見の間で、俺は歓喜に打ち震えていた。
ついに戻ってきた。戻ってきてしまったのだ。
今まで進化と改良と重ね、真魔大戦の決着に至るまで見事な働きを見せてくれた炎装の能力!
⋯⋯に、加えて!! アインとアリアが『折角だから』と、金属生成の能力を俺に戻してくれたァ!!
「──今の炎装は、以前と比べると30%程度の機能性だな。
ただ、オメーの魔力総量は変わらねぇから以前と同じ感覚で出力をあげた日にゃあ下手すりゃ死ぬ。
まぁ、魔王城で鍛えまくったその身体なら炎装を使わんでもボチボチやってけるだろ。
金属を生み出す能力は⋯⋯どうだかな。それも以前までとは程度が低くなってるだろうが──」
「いやいやいや、全然全然。復活させてくれたってだけで飛び跳ねたいくらいだ。これで野営生活が便利になる!」
「ふふふ、子どもみたいにはしゃいじゃって♪ まぁ、片手間で作れそうなものなら大体形成出来ると思うよ?」
ほうほう、そんな具合か。試しにちょっとやってみるか。
うひー! ひっさしぶりの感覚! ヌルヌルしている様な、水が高速で凍っていく様な、そんな魔力の感じだ。
まぁやっぱ規模は小さいな。目測で2メートル程度の棒切れしか作れないし、変形させようにも上手く言う事を聞かない。
せいぜい、ドラム缶でも形成して風呂に入れるかどうかってレベルか。うん、構わない構わない。
金属生成の能力を手放して以来、後悔というか用途の模索が妙に捗って唸り声をあげたものだ。
炎装と併用したらどれだけ性能を引き出せるかとか、操作率を上げたらちょっとしたカラクリも作れるんじゃないかとか。
⋯⋯しかし、これもあれかぁ。
こうして能力が戻ってきたワケだし、この場所にいる理由も本当に無くなってしまったなぁ。
いや本当、今思えば大変だったけど充実した日々だったぜ。
毎日ボコられたり、死ぬほど飯食わされたり、雑魚だと罵られたり、腹を抉られたり。
⋯⋯うん、マジで大変な日々だったな。
「──んあ、居た。紅志そろそろ出てくの? さびし〜」
懐かしの日々に思いを馳せていると、ギルルがひょっこりと現れた。
まさか見送りに? わざわざ会いに来てくれるとはな。
なんやかんや、魔王城での鍛錬で一番近くにいた時間が長いのはギルルかもな。ボコされたな〜ホントに。
最初は気難しそうというか、彼のマイペースに引きずり回されそうなんて思ってたが⋯⋯
実際はそんな事なく、仲良くなった今では可愛い弟のように見えてきた。ぐひひっ。
「おッ、逃がさねェぞ紅志ィ。魔王軍に入れコラッ!」
「ぐえああッ!? ティガ! バカ! ギブギブ!!」
「ああン? ウチに入るっつう台詞が聞こえねェなあー!!」
コイツっ、いつの間にっ。
久し振りのチョークスリーパーは効くうぅぇぁ⋯⋯
「なんつってな! しょーがねェから今回は見逃してやるぜ」
「かはッ、グフッグフッ⋯⋯。こ、今回は?」
「おン。ボスがよぉ、『好きにさせてやれ』だとさ。寛大なるマオーサマに感謝しろよ〜??」
⋯⋯そうか、ゼルがそう言ったのか。
それなら、ほんのちょっとだけ悲しいな。今の俺に魔王軍に引き入れるだけの価値は無い、という事だろう。
ネガティブな考え方かもしれないが⋯⋯あのゼルの事なら、そういった意図も含めてティガへ言伝した筈だ。
まぁどの道、魔王軍に入るつもりはないけどな。身内が物騒な連中だらけだし、人類と敵対してしまうし、あと身内が(ry
「──しっかし、“旅に出たい”かァ。紅志らしいぜマジで。
武者修行でもしてェのか? それとも、まだ見ぬ強ぇ奴らに会いてえってか?」
「喧嘩脳だなぁ、ちげーよ。⋯⋯いや、まぁそれも少なからずあるけどな? 俺は、色んな景色とか出会いとか、この世界をもっと楽しみたいんだよ──⋯」
⋯──俺、前世ではごく普通の一般人でな。
まぁ普通って言ったら聞こえはいいんだけど、日本社会での普通なんてお前ら想像出来ないと思うぞ?
朝起きて、仕事行って、帰って寝て、朝起きて、また仕事。
それが充実しているって言う人もいるし、俺も気分によって認識は変わったりしてきたが⋯⋯
やっぱり、誤魔化しきれないところはあったよ。退屈というやつをさ。
死んで良かったと言いたい訳じゃない。今からでも日本に戻れるぞとか言わたら、かなり揺らぐと思う。
生活は便利だし、日常に命の危機を感じる事なんて無いし、娯楽とかなんかもう凄いんだからな?
⋯⋯でもなぁ。こんな素晴らしい世界に、それもドラゴンに転生したんだから。
その確率が万が一か、那由多が一か。それは分からないが、折角のこの機会を楽しまない手はないだろ?
だからさ、俺は生きている限り、この世界を遊び尽くしたいんだよ。
この世界の誰もが見た事ない景色や、人間だけじゃない色んな者達との出会いや、どんな戦いにだって──⋯
「⋯──って、ちょっと妄想が過ぎたな。兎に角、俺は自由に生きたいんだ」
「いいね〜、楽しそうじゃん。私も昔はよく旅をした。この星は愉快だよ〜?」
にっこり顔を浮かべながら、アリアは両手を広げる。
彼女がそう言うのであれば、今後の期待もより膨らんでくるというものだ。
⋯⋯まぁ“昔は”というワードには少し引っかかるが。アリア単位での昔ってどんな数値なんだかな。
「旅かぁ。それなら、いつか僕の“魔宮”にも遊びに来なよ」
「おほッ! そいつァいいぜ。んなら俺のトコにも来やがれ。手厚〜くオモテナシしてやるからよ」
「あぁ、楽しみにしとく。いつかは顔を出すよ」
ダンジョン⋯⋯。この世界にはそんなものがあるのか。
二人の表現の仕方からして、魔族にとっての自分ちみたいな扱いのようだな。
けど、俺がここで生活していた間にはティガ達も魔王城からあまり出ていなかった気が⋯⋯?
まぁ状況が状況だったワケだし、散らばっているよりここに固まっていた方が都合が良かったのかもな。
最奥にて魔王幹部が待ち構える魔宮⋯⋯。いいね、冒険心が擽られる。
気が向いたら──というよりも、俺がちゃんと強くなれたら赴いてもいいだろうな。
⋯⋯どんな歓迎をされるか分かったものじゃないし。
「──ンまぁ、気合いだ気合。これから俺らも忙しくなるし、グレンデルの野郎がバチギレんのが目に見えてるからオメーに手を貸す事ぁ出来ねェ。
オメーはオメー自身の努力で強くなれ。その結果次第じゃ、俺らとオメーはまた会えるだろうぜ。
ダチとしてか、ライバルとしてか⋯⋯もしくは敵としてか、それァ分かんねェけどな♡」
「ハッ。次にコイツに会う時は、紅志の方から絞め落としてやれよ。俺ぁ応援するぜ〜??」
「あは、いいねソレ。僕も紅志を応援するぅ〜」
「えー、無茶言うなよ」
俺がティガを絞め落とせるようになるのなんて、100年くらい後の話だろ。
まぁそれだけ経てば可能になるって自信は、無くはないかもしれないけど。
いつかは、本気の魔王幹部とも戦ってみたいという願望は少なからずあるからなぁ。
強くなって強くなって、そんで⋯⋯。今まで支えてもらった恩を、期待に応えるって形で返せたらいいな。
ふふふ。今度会った時は、お前らの方を挑戦者として扱ってやるぜ。
「──そんじゃ、これ以上の言葉を交わす必要はねェな。また会おうぜ、紅志」
「このアイン先生が教えてやった魔力の知識、ちゃんと活かしてけよ。そんじゃあな」
「今度会った時は鍛練じゃなくて本気で戦おーね。それじゃ、ばいばーい」
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふふふ。
「──ああ、おう!!」
これ以上の言葉は要らないか。
忘れられない思い出となった良い日々だったし、いつかまた会う約束もした。⋯⋯十分さ、それで。
もう支えられなくても大丈夫だ。俺は、俺の足で道を歩いていくよ。
──さて、立つか。
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