第1話〜奇妙な共同戦線
でかわしちゃったのならば仕方ないり私たちは誰も私たちは入れ替わったことを悟られずに生きるため、それぞれを演じきるのよ スマホでサポートしあってさ そこら辺はうまくやろうよ、彼女はそんなようなことを言った。今後の展開は?お楽しみに
駅の喧騒から逃れるようにして、俺たちは改札外の寂れた高架下にあるコインランドリーに滑り込んだ。稼働する洗濯機の重低音だけが響く狭い空間。人目を忍ぶには好都合だった。
「――頼む、信じてくれ! 俺は本当にやってない!」
俺の身体――長身で、少し目つきの鋭い男子高校生――が、自分の大きな手で顔を覆いながら悲痛な声をあげる。その声は間違いなく俺自身のものなのに、中身が違うだけで、まるで別人の懇願を聞いているような奇妙な感覚に陥る。
「……信じろって言われても」
俺は自分の喉から出る、鈴を転がすような高い声に思わずゾクリとした。胸元の重みにも、スカートの心許なさにも、まだ頭が追いついていない。
しかし、目の前で「俺の身体」が、女子生徒のように肩を震わせ、今にも泣き出しそうな目でこちらを見つめてきた。その必死な表情は、濡れ衣を着せられた人間の絶望そのものだった。
「……もし本当にあなたが犯人なら、こんな状況でわざわざ無実を訴えないよね。得がないもん」
俺(中身は女子高生の彼女)の言葉に、「俺の身体」が弾かれたように顔を上げた。
「じゃあ……!」
「うん。信じる、というより、信じるしかない。だって、現にこんなあり得ないことが起きてるんだから」
彼女は小さく息を吐き、華奢な(つまり現在の俺の)肩をすくめてみせた。状況の異常さが、逆に彼女の冷静さを引き出したのかもしれない。
「私は橘 結衣。一応、確認だけど……あなた、名前は?」
「あ、ああ。俺は佐伯 航。……なあ、これからどうする? 警察に『入れ替わりました』なんて言っても、精神科に連れて行かれるのがオチだろ」
「そうね。それに、今のままだと『佐伯航』が痴漢容疑で捕まることになる。それは私にとっても困るの。だって、それは私の今の身体だし、冤罪で誰かの人生が狂うのを見過ごすのも嫌だから」
結衣はまっすぐに俺を見つめた。
「元の身体に戻る方法が見つかるまで、私たちは完璧にお互いを演じ切るしかない。つまり、共同戦線よ」
「共同戦線……」
航はその言葉を噛み締めるように呟き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「分かった。お互いの人生を守るために、やろう。……まずは、これがないと始まらないな」
航はポケットからスマートフォンを取り出した。結衣もまた、男子制服のポケットを探り、見覚えのある黒い端末を取り出す。
「ロック画面のパスコード、教え合おう。連絡が取れなくなったら終わりだ」
「そうね。私のパスコードは……」
お互いの暗証番号を打ち込み、画面が開いたことを確認する。画面に映る通知の数々が、これから始まる過酷な「偽りの日常」を予感させていた。
「学校の連絡網とか、家族の呼び方とか、覚えることが山ほどあるわね。それに……」
結衣は自分の(元は航の)大きな手をまじまじと見つめ、それから少し頬を赤らめて俺を見た。
「男の子の生活習慣なんて、私、何も知らないんだけど」
「……それは俺も同じだ。スカートのスースーする感覚だけで、もう限界を迎えそうだしな」
最悪の誤解から始まった二人の関係は、誰も信じてくれない秘密を共有したことで、奇妙な連帯感へと形を変え始めていた。
書かせていただきました 連続投稿 お許しください。ご一読いただきまして誠にありがとうございました。またお会いしましょう。




