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第二章 第八話 見えても勝てない


朝。


二人は街道を歩いていた。


アッシュの腰には村長から貰った剣。


セイルの腰には鉈と解体ナイフ。


背中には旅の荷物。


村長から預かった小さな木箱は、荷物の一番奥にしまってある。


中にはティアへ渡す青い宝石の付いた銀のネックレス。


失くすわけにはいかなかった。


空は晴れている。


街道も広い。


旅日和だった。


しばらく無言で歩く。


やがて。


アッシュが口を開いた。


「なあ」


「何だ」


「ガレスに勝てたと思うか?」


セイルは少し考えた。


そして。


「無理」


即答だった。


アッシュが顔をしかめる。


「お前なぁ」


「聞いたから答えた」


「もう少し言い方があるだろ」


セイルは肩をすくめた。


だが。


「一発くらいは入ったかもしれない」


アッシュが止まる。


「本当か?」


「多分」


二人は再び歩き始める。


「ガレスは傷のある方を少し庇っていた」


「右か」


「ああ」


「お前はずっとそこを狙ってた」


アッシュは黙る。


事実だった。


「あと、左への反応が少し遅かった」


「見えたのか」


「見えた」


アッシュは腕を組んだ。


「つまり左を狙えば良かった?」


セイルは首を振る。


「そこまで単純じゃない」


「だが、一回くらいなら当たったかもしれない」


アッシュは悔しそうに空を見た。


「言えよ」


「聞かれてない」


「言う暇あっただろ」


「斬られてた」


アッシュは舌打ちした。


「くそっ」


少しだけ。


嬉しそうでもあった。


しばらく歩く。


やがてアッシュが笑った。


「じゃあやるか」


「何を」


「組手」


嫌な予感がした。


「嫌だ」


「暇だろ」


「暇じゃない」


「歩いてるだけだろ」


「まぁ、休憩の時にな…」


---


昼。


街道脇の草地。


荷物を置く。


アッシュが木の枝を拾った。


「ほら」


セイルにも投げる。


仕方なく受け取った。


木剣代わりだった。


「始めるぞ」


アッシュが構える。


セイルも構える。


勝てるとは思っていない。


だが。


少しくらいは戦えると思っていた。


次の瞬間。


負けた。


気付いた時には木の枝が首元に当たっている。


「終わり」


アッシュが笑う。


セイルは枝を見た。


見えていた。


確かに見えていた。


だが。


体が動かなかった。


「もう一回」


アッシュが少し驚く。


「おう」


二回目。


負けた。


三回目。


負けた。


四回目。


負けた。


セイルは考える。


勝てない。


それは分かった。


だが。


勝つ必要はあるのか。


次。


セイルは攻撃しなかった。


避けることだけに集中する。


アッシュが踏み込む。


見える。


避ける。


横薙ぎ。


見える。


避ける。


突き。


見える。


避ける。


「お?」


アッシュの声が変わる。


セイルは何も答えない。


肩を見る。


足を見る。


呼吸を見る。


視線を見る。


全部見る。


少しずつ。


体が追いついてくる。


額から汗が落ちた。


アッシュが笑う。


「面白ぇ」


セイルはさらに観察する。


そして。


踏み込んだ。




コツン。



木の枝がアッシュの肩に当たる。


二人とも止まった。


静寂。


アッシュが目を瞬かせる。


「当たった」


セイルも少し驚いていた。


「当たったな」


アッシュは肩をさすった。


「なんで俺の攻撃が分かるんだ」


セイルは少し考えた。


上手く説明できない。


だから。


「見えた」


そう答えた。


アッシュは呆れたように笑う。


「便利なスキルだな」


「そうか?」


「そうだ」


荷物を背負う。


再び歩き出した。


アッシュは前を向いたまま言う。


「次は負けねぇ」


「負けてないだろ」


「もっと当てさせねぇ」


セイルは少し考える。


だが。


悪くない。


そんな気がした。



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