第七話 それぞれの道
翌朝。
セイルは一人で橋へ来ていた。
崩れた石橋はそのままだった。
中央部分がごっそり無くなっている。
周囲にはロープが張られ、騎士達が見張りに立っていた。
朝日に照らされた橋を見上げる。
本当に落ちた。
あの日見えたひび。
落ちるかもしれないという予感。
全部正しかった。
だが二人は死んだ。
誰も悪くなかった。
村長も。
ガレスも。
自分も。
それでも結果は変わらない。
セイルはしばらく橋を見つめた後、静かに踵を返した。
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昼前。
亡くなった神官と従者の追悼が行われた。
村人達も集まっている。
教会関係者もいる。
ティアもいた。
白い聖女服を身にまとい、静かに祈っている。
まだ少し服に着られているように見えた。
オズワルドが前へ出る。
低く落ち着いた声が広場に響いた。
亡くなった者達への祈り。
残された者達への慰め。
派手な言葉はないが、不思議と耳に残った。
追悼が終わった後も、オズワルドは休まなかった。
負傷者の元へ行く。
村長と話す。
神官達が何度か声を掛けていた。
「オズワルド様、王都への報告を」
「聖女様の移送準備を」
オズワルドは頷く。
だが足は止めない。
「分かっています」
「ですがこちらが先です」
そのまま名簿を確認しに行った。
セイルはその背中を見ていた。
昨日までとは何かが違う。
上手く説明はできない。
だが。
悪くない。
そんな気がした。
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夕方。
村長宅。
ティアとアッシュとセイル。
そしてオズワルドが集まっていた。
数日後に王都へ向かうためだ。
橋は使えない。
使節団は迂回路を通ることになった。
「本来なら皆さんも一緒にお連れしたいのですが」
オズワルドが申し訳なさそうに言う。
「私にその権限はありません」
「正式な使節団です」
「勝手な同行は認められないのです」
ティアは少し残念そうな顔をした。
アッシュは腕を組む。
「じゃあ後から行けばいいだろ」
「そうですね」
オズワルドは微笑んだ。
「王都でお待ちしています」
少し空気が和らぐ。
その後。
オズワルドはティアへ向き直った。
「ティア様」
「はい」
少し緊張した声。
オズワルドは柔らかく言った。
「王都では色々なことを学んでいただきます」
「歴史」
「法律」
「国の仕組み」
ティアの顔が少し青くなる。
「勉強ですか……」
「勉強です」
即答だった。
アッシュが吹き出す。
ティアが睨む。
オズワルドも少しだけ笑った。
「ですが無理に覚える必要はありません」
「少しずつで構いません」
ティアは少し安心したようだった。
オズワルドは続ける。
「王都では多くの人と関わることになります」
「力だけでは足りないのです」
部屋が静かになる。
「聖女様の言葉は多くの人に影響を与えます」
「良くも悪くも」
「教会にも」
「貴族にも」
「軍にも」
「ティア様の力だけを見る者もいるでしょう」
ティアは不安そうな顔になる。
「怖いです……」
「ええ」
オズワルドは否定しなかった。
「だから学ぶのです」
「人を見るために」
「自分で考えるために」
少しだけ間を置く。
「私は聖典も良い指針になると思っています」
「ですが」
オズワルドは静かに言った。
「決めるのはティア様です」
ティアは目を瞬かせた。
「私が?」
「はい」
「私にも信じる道はあります」
「ですが押し付けるものではありません」
「最終的に選ぶのはティア様です」
ティアはしばらく考えた後。
「難しそうです…」
そう答えた。
オズワルドは苦笑した。
「私もそう思います」
部屋に小さな笑いが生まれる。
セイルはオズワルドを見ていた。
不思議だった。
命令しない。
押し付けない。
だがティアはちゃんと話を聞いている。
上手く説明はできない。
だが。
悪くない。
そんな気がした。
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翌日。
出発準備が進んでいた。
村長が二人を呼び止める。
「餞別じゃ」
まずアッシュへ。
鞘付きの剣だった。
アッシュの目が輝く。
「おお!」
「上級剣士への先行投資じゃ」
「任せろ!」
村長は笑った。
次にセイル。
差し出されたのは鉈と解体ナイフだった。
アッシュが首を傾げる。
「剣じゃないのか?」
「こっちの方が役に立つ」
村長が即答した。
「薪も割れる」
「草も刈れる」
「魔物も捌ける」
セイルは鉈を手に取る。
重さを確かめる。
「確かに便利そうです」
すぐ納得した。
最後に。
村長は小さな木箱を取り出した。
「それと一つ頼まれてくれるかの」
箱を開く。
青い宝石の付いた古い銀のネックレスだった。
祭りの日に飾られていたものだ。
見覚えがある。
「ティアに渡してやってくれ」
「今から渡せばいいじゃないですか」
「今渡すと寄与扱いで教会のものになるんじゃ」
それ以上は語らなかった。
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出発の日。
村の入口。
馬車が並ぶ。
ティアは白い聖女服を着ていた。
やはりまだ少しだけ似合っていない。
アッシュが言う。
「似合わねぇな」
「ひどい!」
いつものやり取りだった。
ティアは笑う。
アッシュも笑う。
セイルも少しだけ口元が緩んだ。
すぐに出発の時間となった。
ティアは二人を見る。
「王都に…来てくれるよね?」
アッシュは即答した。
「もちろん行くぜ」
ティアはセイルを見る。
少しだけ間。
「行く」
ティアは安心したように笑った。
「約束だからね」
馬車へ乗り込む。
その時だった。
「小僧」
低い声。
アッシュが振り返る。
ガレスだった。
「名前は」
アッシュは胸を張る。
「アッシュだ!」
ガレスは一度頷いた。
「そうか」
それだけ言って去って行った。
アッシュは固まる。
そして。
「副団長に覚えられた!」
嬉しそうだった。
そして。
馬車が動き出す。
ティアが窓から手を振る。
栗色の髪が風になびいていた。
やがて見えなくなる。
少し沈黙。
「行ったな」
「ああ」
ふと。
セイルが橋を見る。
崩れたままの石橋。
夕日が赤く照らしている。
「早く直るといいな」
アッシュが言う。
セイルはしばらく橋を見た。
そして、二人は歩き出した。
「そうだな」
夕日が二人の背中を照らしていた。
第一章 完
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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