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第七十九話 孤高の可能性


「ルーク!」


ルークが振り向く。


「旗だ!」


迷いはなかった。


一直線に第三隊の旗へ走り出す。


ブラムは迎え撃つように構えていた。


だが。


ルークはブラムを見ない。


旗だけを見て走る。


「っ!」


ブラムは慌てて追い掛けた。


その瞬間。


ようやく気付く。


自分達の大将は旗だ。


剣の一振りで終わる。


味方の位置。


今、旗を守れるのは自分しかいない。


ブラムは地面を蹴る。


巨体ゆえ、走り始めは遅い。


だが。


最高速度なら追い付ける。


もう少し。


もう少し。


距離が縮まる。


ブラムは大剣を握ったまま、左手を伸ばした。


襟首を掴める。


その瞬間。


「ルーク!」


「南だ!」


再びセイルの声が響く。


ルークは一瞬も迷わず進路を変えた。


ブラムの左手は空を切る。


「……は?」


思わず声が漏れた。


今の一瞬。


もし躱されていたら。


正直、五分五分だった。


ブラムは足を止める。


味方が一人やられた。


中央へ戻れば押し返せる。


その自信がある。


だが。


自分がルークより前へ出れば。


ルークは再び旗へ向かう。


「くそっ!」


悪態をつく。


選択肢は二つ。


ルークを追うか。


旗を守るか。


それしか残されていなかった。


ブラムは再びルークを追った。


---


南の高台。


レナは最初に相手の木剣を見た時。


少しだけ嬉しかった。


セイル。


自分を対策すべき相手だと思っている。


だから木剣を持たせた。


認められている。


そう感じた。


だから、真正面から乗り越えてみせる。


そう思っていた。


だが。


これは許せない。


敵の雄叫び。


セイルの指示。


盤面が傾く。


違う。


セイルが戦場を動かしてた。


アッシュは、驚くほどの速さで強くなっている。


セイルも、自分の才能を活かし始めた。


私は。


何もしていない。


これから二人に引っ張ってもらうのか。


認めない。


そんな自分は許せない。


その時。


後ろにルークが見えた。


更にその後ろにはブラム。


レナは気にしない。


ルークはどうせ戦わない。


そう思った瞬間。


「ルーク!」


「北だ!」


ほらね。


ルークは迷わず進路を変える。


レナは少しだけ考える。


この試合は、多分負ける。


それでも。


試したいことがある。


レナは左手を地面へ向けた。


「ちょっとここお願い。」


味方が驚いた顔をする。


「はぁ?」


レナは振り返らない。


ブラムとすれ違う。


「高台お願い。」


ブラムは深く頷いた。


「お任せください。」


ルークには、もう追い付けない。


でも、それでいい。


ルークを追っている。


そう見えることが大切だった。


私は。


私の可能性を信じる。


---


セイルは中央から戦場を見る。


中央を崩壊させたら。


そのまま旗へ向かう。


ブラムには、旗の前に居られた方が厄介だった。


だが今は南へ向かっている。


北の高台は押している。


南も高台を取っている以上、すぐには崩れない。


レナはルークを追っている。


だが追い付けない。


ルークが北へ合流すれば、高台も押し切れる。


その時に中央から一人抜ければ。


いける。


セイルは戦線から少し下がり、横へ走った。


旗へ向かう。


そう見せる。


わざと敵の近くで胸の花を晒す。


「させるか!」


一人が飛び込んでくる。


「バカ! 罠だ!」


敵の仲間が叫ぶ。


遅い。


セイルは紙一重で躱した。


体勢を崩した敵へ、味方の剣が振り下ろされる。


花が砕けた。


「脱落!」


中央で二人の人数有利。


「一人抜けろ!」


セイルが叫ぶ。


「俺が行く!」


三勝無敗の受験者が迷わず旗へ走り出した。


同じ頃。


北の高台でも勝負が決する。


ルークが一人を倒した。


第三隊の戦線が崩れる。


敵は自陣へ下がる。


第一隊は一人先に抜けている。


こっちが早い。


勝てる。


セイルは走りながら戦場を見る。


ブラム。


高台で戦っている。


やや不利。


だが、すぐには崩れない。


レナは。


レナは?


視線を巡らせる。


いた。


北の高台。


一人で立っている。


諦めた。


いや。


そんなはずはない。


セイルは根拠もなくレナへ向かって走り出した。


圧縮。


何かを狙っている。


黒い塊が見えた。


……砂鉄。


どこから。


考える。


レナは南の高台にいた。


ルークを追って北まで来た。


違う。


追っていたんじゃない。


砂鉄を集めていた。


だが。


ランスでは届かない。


反発だけでは精度が足りない。


それでも。


レナの目は諦めていない。


セイルは全力で駆けた。


---


レナは一人、高台に立っていた。


集まった砂鉄は、ランス一本分。


そのまま飛ばしても届かない。


ボックスを作るほどの量もない。


今回狙うのは旗ではない。


木製の台座。


大きな槍はいらない。


レナは砂鉄を球体へ圧縮する。


飛ばす。


いや。


これじゃ当たらない。


反発用の棒を作る。


違う。


外れる予感。


棒ではない。


咄嗟に筒状へ変える。


だが。


維持できない。


その時。


『維持と回転を同時に行っていますからね。』


エルザの言葉が頭をよぎる。


何の話だったかは思い出せない。


それでも。


筒を回転させてみる。


みるみる安定していく。


同時に。


魔力もみるみる減っていく。


レナは慌てない。


人差し指で照準を付ける。


磁力の線を引く。


「ショット。」


キィィィン――。


筒を抜けた球体は、甲高い音を響かせながら旗へ飛んでいった。



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