第八十話 数歩の差
ルークは第三隊の旗へ向かって走っていた。
脚が重い。
肺が焼けるように苦しい。
試合開始から走り続けている。
体力はもう限界だった。
目の前では第三隊の受験者が一人、必死に逃げている。
そのさらに先。
中央を抜けた味方が旗へ向かっていた。
味方の方が速い。
もう休んでも勝てる。
そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。
だが。
足は止めない。
敵を追っている。
それだけで意味がある。
セイルが託してくれた役割。
その先にしか、自分の役目はない気がした。
低い高台が近付く。
味方が先に駆け上がる。
あと数歩。
その時だった。
キィィィン――。
どこか遠くで甲高い音が響く。
味方が少しだけ振り返った。
何をしてるんだ。
進んでくれ。
直後。
ドォンッ!!
空気が震えた。
地面まで揺れた気がした。
目の前の敵も思わず振り返る。
隙だらけだった。
いや。
今は旗だ。
ルークは敵を追い抜く。
そのまま高台へ駆け上がった。
味方はまだ振り返ったまま動かない。
何をしてるんだ。
ルークはそのまま旗を掴む。
全身から力が抜けた。
膝が崩れる。
そのまま地面へ倒れ込んだ。
「取った。」
荒い呼吸だけが耳に響く。
「そこまで!」
試験官の声が試験場へ響き渡った。
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少し前。
セイルはレナへ向かって駆けていた。
高台の坂へ入る。
レナは砂鉄の形を変え続けていた。
球。
細長く伸びる。
崩れる。
また形を変える。
何かを作ろうとしている。
ここにきて。
新しい魔法を作っている。
セイルは息を切らしながら駆け上がる。
砂鉄は再び形を変えた。
回転している。
今度は崩れない。
安定した。
同時に。
レナの魔力が一気に減っていく。
完成してしまった。
あと数歩が間に合わない。
レナは人差し指を第一隊の旗へ向けた。
「ショット。」
キィィィン――。
次の瞬間。
轟音が試験場へ響き渡る。
狙いは木製の台座だった。
だが。
威力は想像を遥かに超えていた。
台座ごと。
地面を抉り飛ばす。
第一隊の旗が宙へ舞う。
第三隊の旗まであと数歩。
味方は振り返ったまま止まっている。
第一隊の旗は、まだ地面に付いていない。
「走れ!」
セイルは叫ぶ。
誰も動かない。
その時。
ルークが高台に駆け上がる。
しかし。
ゆっくりと。
第一隊の旗が地面へ落ちる。
レナはその場で膝をついた。
全身から力が抜けていく。
セイルは駆け寄り、その体を抱き止める。
「へへっ。」
レナは満足そうに笑った。
「明日。」
「ティアに自慢するから。」
「あ、ああ。」
レナは安心したように目を閉じる。
「そこまで!」
「勝者、第三隊」




