第七十七話 交わらない視線
「これより、集団戦のルールを説明する。」
ローガンの低い声が訓練場へ響く。
四十名の受験者達が静かに耳を傾けた。
「勝利条件は二つ。」
「一つ。」
「相手の旗を奪うか、旗を地面に着けること。」
試験官が近くに置かれた旗を示す。
「二つ。」
ローガンは自らの胸元を指差した。
「相手全員の花を破壊する。」
「または戦闘不能にすること。」
「脱落者は速やかに自陣側から退場しろ。」
一拍置く。
「今から花を配布する。」
試験官達が動き出す。
一人ずつ、受験者の胸元へ木彫りの花を取り付けていく。
やがて全員の胸に花が揃った。
ローガンは受験者達を見渡す。
「勘違いするな。」
「集団戦の勝利が、入隊試験の合格ではない。」
「合否は我々が判断する。」
「自身の有用性を示せ。」
訓練場の空気が少しだけ変わる。
セイルも胸元の花へ目を落とした。
勝てばいい訳じゃない。
自分に何ができるか。
それを見られている。
「各隊、受験番号の最も若い者。」
「前へ。」
第一隊。
ルーク。
第二隊。
アッシュ。
第三隊。
ブラム。
第四隊。
エドガー。
四人が前へ出る。
試験官が木箱を差し出した。
四人は順番に木札を引く。
ローガンが結果を確認する。
「初戦は第一隊と第三隊。」
「次は第二隊と第四隊だ。」
それだけ告げる。
四人は元の位置へ戻った。
ローガンは踵を返す。
「試験場へ移動する。」
四十名は試験官の後に続いた。
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しばらく歩くと、視界が開ける。
集団戦用の試験場だった。
両陣営には、それぞれ低い高台が築かれている。
そこには一本の旗。
さらに。
中央の平地を挟むように、左右にはそれより一段高い高台が設けられていた。
旗へ最短で向かうなら中央の平地。
高台を使えば、旗へ向かうことも、中央を上から攻めることもできる。
セイルは歩きながら地形全体へ視線を巡らせた。
(なるほど……。)
ただ戦うだけじゃない。
地形もまた、この試験の一部だった。
試験場の中央でローガンが振り返る。
「試合開始は三十分後。」
「各隊旗の後ろに待機しろ。」
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第一隊。
十人が輪になる。
セイルはルークの隣に立つ。
しばらく沈黙が続いた。
やがて、一人の受験者が口を開く。
「高台は広くない。」
「二人か三人だな。」
「二・六・二。」
「三・四・三。」
「この配置だけは決めておこう。」
三勝無敗の受験者二人が頷く。
「俺達が中央へ行く。」
「何人か倒したら、そのまま旗を取りに行く。」
「その間、お前らは抜かれないよう守ってくれ。」
一人がルークを見る。
「……それでいいよな、一番さん。」
少し見下したような口調だった。
ルークは苦笑する。
「あ、ああ。」
作戦が悪い訳ではない。
だが。
どこか嫌な空気だった。
セイルはもう一度、試験場へ目を向ける。
乱戦を想像する。
(呼び方……。)
「まず、呼び方を決めませんか。」
全員の視線が集まる。
「右の高台を北。」
「反対を南。」
「真ん中を中央。」
「そう呼びませんか。」
一人が頷く。
「いいんじゃね。」
すぐに採用された。
セイルは改めて相手チームを思い浮かべる。
要注意は二人。
ブラム。
そしてレナ。
少しだけ迷う。
仲間の弱点を話すような気がした。
だが、小さく息を吐く。
「レナ…女性の魔法使いは磁力です。」
「木剣なら操作されません。」
一人が感心したように頷く。
「へぇ。」
「じゃあ俺が木剣を持つよ。」
「魔法使いを倒せばポイントも高そうだ。」
周囲も納得したような表情を浮かべる。
だが。
違和感。
セイルは胸の奥に引っ掛かりを覚えた。
皆、敵を倒すことを目的にしている。
間違いではない。
だが。
何かが違う。
『自身の有用性を示せ。』
ローガンの言葉が頭をよぎる。
敵を倒せとも。
仲間と協力しろとも。
言われていない。
旗を取っても不合格はある。
負けても合格はある。
なら。
自分の役割は。
何ができる。
考える。
全員、花を壊されるのは嫌がる。
おそらく様子見が続く。
今の自分に出来ること。
敵を倒すではない。
旗を取るでもない。
第一隊が旗を取れる状況を作る。
これだ。
自分を理解する。
相手を理解する。
それは変わらない。
今度は。
第一隊を理解し。
相手の隊を理解する。
見ろ。
考えろ。
セイルは静かに口を開く。
「ブラム、巨体の三番は中央に来ます。」
「中央を厚くしませんか。」
「北二。」
「中央六。」
「南二。」
三勝無敗の受験者が眉をひそめた。
「女に負けた大男だろ。」
「中央は五人で十分だ。」
「その分、旗を取りに行く南北を増やした方がいい。」
周囲も反対はしない。
セイルは黙って考える。
説明できない。
根拠もない。
だが。
ブラムは中央で脅威になる。
そう確信していた。
ブラム。
力。
体力。
巨体。
なら。
弱点は…。
視線が一人の少年で止まる。
補修だらけの訓練着。
茶髪。
持久力。
「ねぇルーク。」
ルークが振り向く。
「きつい仕事を頼めないかな。」
ルークは少しだけ目を丸くした。
そして。
「それって。」
「僕にもきついのかい?」
体力試験一位の少年は、不敵に笑っていた。




