第七十六話 組み合わせ
「個人戦終了!」
大隊長ローガンの声が訓練場へ響く。
「次の号令があるまで休憩!」
張り詰めていた空気が一気に緩んだ。
その場へ座り込む者。
仲間と話し始める者。
静かに目を閉じる者。
セイルもアッシュとレナを探し、歩き始める。
その時だった。
「セイル。」
聞き覚えのある声がした。
振り向く。
茶髪の少年。
補修だらけの訓練着。
ルークだった。
「ルーク。」
ルークは嬉しそうに笑う。
「セイルも突破したんだね。」
セイルは苦笑した。
「はは……。」
「結局、三勝一敗だったよ。」
少し間を置く。
「ルークこそ、すごい走りだった。」
ルークは照れくさそうに頭を掻く。
「走りだけなら負けないよ。」
「まぁ、個人戦は三勝二敗でギリギリだったけど。」
二人は思わず笑う。
「おーい!」
聞き慣れた声だった。
アッシュが大きく手を振りながら歩いてくる。
「あ、一番の人。」
「セイル、知り合いか?」
セイルは頷いた。
「ルークだよ。」
「朝走ってたら、よく一緒になってね。」
「ルーク、こっちはアッシュ。」
「村から一緒に出てきた幼馴染なんだ。」
ルークは軽く頭を下げる。
「よろしく。」
アッシュも笑顔で応えた。
「よろしくな!」
三人は自然と歩み寄る。
アッシュが大きく息を吐いた。
「ひとまず安心だな。」
セイルは苦笑する。
「俺は一敗してしまった。」
アッシュは少しだけ目を伏せた。
「……エドガーか。」
「ああ。」
「強かったな。」
短い言葉だった。
だが、その表情は嬉しさだけではない。
強さとは何か。
責任とは何か。
そんな答えを探しているようだった。
「みんな、お疲れさま。」
レナが歩いてくる。
隣には一人の少女。
腰まで届く赤い髪。
左右で三つ編みに結んでいる。
胸元では小さな木彫りのお守りが揺れている。
ミーナだった。
レナが笑って紹介する。
「紹介するね。」
「魔法使いのミーナ。」
ミーナは少し緊張した様子で頭を下げた。
「ミーナです。」
「よろしくお願いします。」
「よろしく。」
それぞれが挨拶を返す。
少しだけ沈黙が流れる。
ミーナは意を決したようにアッシュを見た。
「あの……。」
「最後の相手、強かったですよね。」
アッシュの脳裏に、エドガーとの剣戟が蘇る。
「……ああ。」
少しだけ考え、
静かに首を振った。
「いや。」
「まだまだだ。」
「足りないもんばっかだ。」
ミーナは少し目を丸くする。
あれほど強かったのに。
それでも満足していない。
もっと先を見ている。
そんな人なんだ。
自然と、その姿が少しだけ気になった。
---
騎士団会議室。
机の上には、個人戦を突破した四十名分の木札が並べられていた。
試験官達が木札を動かしながら話し合っている。
「魔法使いは三名。」
「見どころのある剣士も三名です。」
「それをどう振り分けるかですが……。」
「均等に振り分けるには…。」
静かに聞いていたガレスが口を開く。
「……ローガン。」
会議室の空気が変わる。
「魔法使いと剣士を三組作れ。」
ローガンは木札から顔を上げた。
「副団長、それでは一隊だけ戦力が劣りますが。」
ガレスは短く返す。
「戦闘以外に見どころのある者は。」
ローガンは木札へ視線を落とした。
「……一番です。」
「走力だけなら、歴代でも屈指です。」
「ですが、個人戦は三勝二敗でした。」
ガレスは頷く。
「そいつだ。」
そして、もう一枚の木札を指差した。
「四十番と組ませろ。」
ローガンは一瞬だけ視線を止める。
「……四十番ですか。」
ガレスは表情を変えない。
「少し試したいことがある。」
短い沈黙。
「……了解しました。」
ローガンは木札を並べ替えていく。
やがて四隊の編成が決まった。
---
訓練場。
ローガンが受験者達の前へ立つ。
「休憩終了。」
受験者達が素早く整列する。
「これより集団戦の組み合わせを発表する。」
「呼ばれた者は前へ。」
「第一隊。」
「一番。」
茶髪の少年。
補修だらけの訓練着を身にまとったルークが前へ出る。
「四十番。」
セイルも前へ出た。
十名が揃う。
ルークは小さく笑った。
「よろしく。」
「ああ、よろしく。」
「第二隊。」
「五番。」
アッシュが前へ出る。
「七十六番。」
赤い髪を三つ編みに結んだ少女。
ミーナが少し緊張した様子で前へ出た。
アッシュは既に隊員全体へ視線を向けている。
ミーナはその横顔を見て、小さく微笑んだ。
「第三隊。」
「三番。」
丸坊主の日に焼けた大男。
ブラムが前へ出る。
「六十二番。」
レナが前へ出た。
目が合う。
(あっ……。)
ブラムは静かに片膝をついた。
「あなたと共に戦えることを、光栄に思います。」
(えぇ……。)
レナは困ったように固まった。
「第四隊。」
「八番。」
灰色の髪を後ろで束ねた青年。
エドガーが前へ出る。
「七十九番。」
目が隠れるほど黒に近い深緑の髪。
細身の青年が静かに前へ出た。
ノクトだった。
「…………。」
小さく何かを呟いている。
エドガーは一度だけ横目で見た。
それ以上、お互いに言葉はなかった。
四十名が整列する。
ローガンは全員を見渡した。
「以上だ。」
一拍置く。
「これより、集団戦のルールを説明する。」




