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第七十四話 剣撃の思い


第五区画。


第十一試合。


「五番、八番。」


アッシュは相手を見る。


セイルに勝った男。


エドガーだ。


やや長身。


細身だが鍛えられた体。


灰色の髪を後ろで束ねている。


試験官が手を上げた。


「始め!」


アッシュが先に踏み込む。


エドガーはいなす。


受ける。


流す。


再び攻める。


序盤は互角だった。


力はアッシュがやや上。


速度もほぼ互角。


だが。


エドガーは間合いと立ち回りで凌ぐ。


アッシュは攻め切れない。


エドガーも余裕は無かった。


埒が明かない。


増幅を使う。


エドガーの技術に。


力と速度が加わる。


一気に攻守が入れ替わる。


アッシュも増幅で応じる。


真正面から受け止める。


それでも互角。


お互いの増幅は乱れない。


圧縮を使う余裕もない。


しばらく均衡が続く。


僅かな優勢は。


すぐに反転する。


攻めても互角。


守っても互角。


アッシュは自然と考える。


攻め。


守り。


……境界線。


ふと。


円を思い出す。


今の自分はどうだ。


攻めに伸びたり。


守りに伸びたり。


丸さは歪。


濃さもバラバラ。


広さも不安定。


---


一撃を受ける。


アッシュは距離を取った。


「ったく……。」


「俺は何にも学んでねぇな……。」


ゆっくり息を吸う。


もっと丸く。


もっと広く。


もっと濃く。


重心を低く。


剣先は下に。


足は広く。


エドガーには。


構えを少し変えただけに見えた。


だが。


違う。


隙が増えた。


攻めるべきだ。


いや。


どこを攻める?


エドガーは軽く頭を振る。


今までの印象を捨てる。


組み立てた戦術も捨てる。


目の前のアッシュだけを見る。


---


アッシュは摺り足で。


ジリジリと距離を詰める。


円ごと押し出すように。


エドガーは考える。


攻めても。


崩れない。


守っても。


危ない。


攻めあぐねる。


だが。


もう距離はない。


意を決したエドガーが勝負へ出る。


初めて見せる圧縮。


鋭い一撃。


アッシュも圧縮。


真正面から受け止める。


最大出力でも互角。


エドガーの二撃目。


下からの斬り上げ。


だが。


それはフェイント。


剣が僅かに引かれる。


その瞬間。


アッシュの視線は剣ではなくエドガーにあった。


打ち合わせない。


剣を滑らせる。


刃が刃をなぞる。


衝撃が柄へ伝わる。


二人は最後まで剣を振る。


しかし。


首元へ添えられていたのは。


アッシュの剣だけだった。


エドガーの剣が宙を舞う。


地面へ突き刺さる。


「そこまで!」


「勝者、五番!」


訓練場は静まり返っていた。


見届けた誰もが魅入っていた。


エドガーは落ちた剣を見つめる。


そして小さく息を吐く。


「君、名前は?」


「アッシュだ。」


アッシュは拳を差し出す。


エドガーも拳を合わせる。


「俺はエドガー。」


一度だけ言葉を飲み込む。


そして静かに笑った。


「次は負けない。」


そう言い残し。


エドガーは足早に去っていった。


アッシュはその背中を見送る。


交わした言葉は少ない。


だが。


剣撃から思いは伝わっていた。


勝つことも。


熱い勝負も。


もっと楽しいものだと思っていた。


だが。


相手の思いの分だけ。


背中が重くなるのを感じていた。


アッシュ、三勝。


個人戦突破。



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