第七十三話 逆光の女神
「第八区画、第十一試合。」
「三番、六十二番。」
試験官が木札を読み上げる。
レナは静かに区画へ入った。
対戦相手は大柄な男だった。
丸坊主。
日に焼けた肌。
分厚い腕。
その体格に見合う大剣を、軽々と肩へ担いでいる。
男は口を開いた。
「ブラムだ。」
レナも小さく頷く。
「レナよ。」
ブラムはレナを真っ直ぐ見つめる。
「妙な技を使ってたな。」
レナは口元だけで笑った。
「どうかしら。」
「楽しみにしてて。」
試験官が手を上げる。
「始め!」
ブラムは慎重だった。
何かある。
そう考えながら大剣を振るう。
レナは受け流す。
重い。
腕が痺れる。
磁力魔法を使っても。
正面から押し返せる相手ではない。
しばらくは。
お互いに様子見。
探り合う攻撃が続く。
ブラムは考える。
何かある。
だが分からない。
なら。
ねじ伏せる。
そこから攻撃が変わった。
激流だった。
止まらない。
一撃。
また一撃。
さらに一撃。
レナは後ろへ避け続ける。
場外線が迫る。
もう下がれない。
ブラムは体力試験三番。
スタミナ切れも期待できない。
一敗を受け入れるか。
いや。
ここで決める。
もう出し惜しみはしない。
レナは覚悟を決めた。
磁力魔法。
しかし。
正面からは押し返せない。
なら。
横へ。
激流のような攻撃の波に。
一歩も引かない。
磁力で逸らす。
流し切れない力は小剣で逸らす。
圧縮も使う。
凌ぐ。
凌ぎ続ける。
周囲から声が漏れる。
「何だあれ……。」
「あの大剣を片手で捌いてるぞ。」
「いや……何か魔法を使ってる。」
「でも何だ?」
ブラムはさらに力を込めた。
攻撃は紙一重になる。
服が裂ける。
腕を掠める。
それでもレナは下がらない。
ブラムが大剣を振り下ろす。
レナは横へ逸らした。
勢いのまま。
大剣が地面へ突き刺さる。
好機。
レナはその剣を踏み台に跳んだ。
ブラムは力任せに剣を引き抜く。
地面を砕きながら。
レナの体も空へ打ち上げる。
ブラムは叩き落とすため、そのまま剣を振り上げた。
その瞬間。
レナは左手を前へ向ける。
全力。
磁力魔法。
空中で細かな制御などできない。
振り上げて。
振り下ろす。
その刹那。
大剣が押された。
ブラムは後ろへ体勢を崩す。
それでも踏み止まる。
だが。
その瞬間。
レナの両足がブラムの顔を蹴り抜いた。
巨体が仰向けに倒れる。
砂煙が舞う。
やがて静かに晴れていく。
レナはブラムの胸へ膝をついていた。
前屈みになり。
小剣を首元へ添えている。
「そこまで!」
試験官の声が響く。
「勝者、六十二番!」
ブラムは目を見開く。
「……負けた。」
レナは笑った。
「どう?」
「強いでしょ。」
差し込む日差しに目を細める。
ブラムは何も言えなかった。
ただ、その笑顔が、まるで女神のように見えていた。
レナ、三勝。
個人戦突破。




