第七十一話 魅せる魔法、見せない魔法
第一区画、第二試合。
「十一番、七十六番。」
試験官が木札を読み上げる。
ミーナは武器置き場へ向かった。
手に取ったのは一本の棒。
棒術で使う棒ではない。
魔法使い用の杖だ。
魔力増幅率は期待できない。
だが、魔力抵抗は少ない。
魔法使いにとっては、無いよりまし程度の武器だった。
区画へ入る前。
ミーナは試験官へ小さく頭を下げる。
「あの……私は魔法使いなので、怪我をさせるかもしれません。」
試験官は表情一つ変えない。
「ルールは変わらん。」
「故意に死傷させる攻撃は禁止だ。」
「武器を狙うなり、地面へ撃つなりしろ。」
「戦闘不能、降参、場外、試験官の判断。」
「勝敗はそれだけだ。」
ミーナは小さく頷いた。
「……はい。」
試験官が手を上げる。
「始め。」
ミーナは杖を握る。
小さく呟いた。
「みんなのために。」
魔力が膨らむ。
杖の先へ火が灯る。
やがて、顔ほどの大きさの火球が三つ。
ミーナの周囲を静かに漂い始めた。
相手が踏み込む。
火球が飛ぶ。
狙いは足元。
爆発。
爆発。
爆発。
土煙が舞う。
相手は飛び退いた。
すぐに体勢を立て直す。
近付かなければ勝てない。
そう思い、顔を上げた。
今度は六つ。
火球が静かに漂っている。
相手は歯を食いしばった。
軽い被弾は覚悟する。
走る。
爆発。
爆発。
爆発。
炎を掠めながら必死に避ける。
場外線ぎりぎり。
何とか凌いだ。
そう思った。
ミーナを見る。
九つ。
火球が静かに浮かんでいた。
「…………。」
相手は静かに剣を置く。
そして両手を上げた。
「降参です。」
試験官が頷く。
「勝者、七十六番。」
ミーナは火球を霧散させる。
距離を保てれば。
魔法使いは、剣士にとって脅威だった。
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第六区画、第五試合。
「三十五番、六十二番。」
レナは静かに区画へ入る。
何としても三勝したい。
可能性は十分にある。
逆に言えば。
三敗する可能性も感じていた。
懸念は三つ。
一つ。
砂鉄。
訓練用武器のみ使用を許可する。
その条件で砂鉄を持ち込むことは、おそらく認められない。
試合中に集めるには時間も量も足りない。
二つ。
剣の腕。
レナの剣術は並。
単純な剣技勝負なら、この中では下から数えた方が早いだろう。
三つ。
投げナイフ。
訓練用武器には用意されていない。
鎧が前提の騎士には、その発想自体が無いのだろう。
つまり。
今のレナの武器は磁力魔法だけだった。
とはいえ。
それは剣士殺しでもある。
簡単に負けるはずはない。
ただ。
圧縮まで扱える剣士に対策されれば、打つ手は無くなる。
勝利は最低条件。
その上で。
磁力魔法は、なるべく見せたくない。
試験官が手を上げた。
「始め。」
お互いに距離を詰める。
相手も開門済みだった。
レナも増幅する。
剣がぶつかる。
互角。
攻撃を受ける。
いなす。
牽制する。
そして理解する。
このままでは崩せない。
一戦目のように隙を待つ余裕もない。
武器操作を使うしかない。
レナは打ち合いながら考える。
一回では足りない。
一瞬で決まる実力差ではない。
二回では賭けになる。
何度も手札を晒すリスクは大きい。
三回で仕留める。
レナは覚悟を決めた。
相手が剣を振る。
一。
振り始め。
剣が重くなる。
相手は反射的に力を込めた。
二。
その瞬間。
今度は剣が軽くなる。
勢い余って半歩踏み出した。
そこへ合わせるようにレナが踏み込む。
三。
相手は慌てて剣を戻す。
だが。
今度は剣が重い。
戻し切れない。
レナの小剣が喉元へ迫る。
「そこまで!」
試験官の声が響く。
切っ先は喉の前で静かに止まっていた。
「勝者、六十二番。」
周囲のざわめきは小さい。
大半は、相手が体勢を崩しただけだと思っていた。
だが。
数人だけ。
何かを見抜こうとするような視線を感じた。
少し。
見せ過ぎたかもしれない。
レナは静かに剣を納める。
二勝。
あと一勝だった。




