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第六十九話 基礎


個人戦が進んでいた。


試験責任者のローガン大隊長は、受験者達を静かに見渡していた。


先ほどの試験説明は我ながらよく声が出ていた。


少しだけ満足している。


その時。


一人の男が歩み寄ってきた。


ローガンは姿勢を正し、敬礼する。


「これは、ガレス副騎士団長。」


ガレスは軽く頷いた。


「首尾はどうだ。」


「魔法使いが三人おります。」


「火、風、磁力です。」


「剣の腕は三番、五番、八番がそれなりかと。」


ガレスは訓練場へ視線を向ける。


「あとは。」


ローガンは少し考えた。


「それと、四十番が少し面白い戦い方をしておりました。」


ガレスはわずかに口元を緩める。


「……うむ。」


「今回は少し見ていくか。」


「はっ。」


ローガンは再び訓練場へ視線を戻した。


---


第二試合まで少し時間がある。


アッシュは空き時間を利用して、他の区画の試合を見て回っていた。


最初は何となくだった。


だが、見ているうちに少しずつ共通点が見えてくる。


開門済みは、およそ半数。


勝者の多くは開門済み。


敗者の多くは未開門だった。


開門済み同士の試合は、攻防の速度が明らかに違う。


未開門同士は決着まで時間が掛かる。


圧縮は見かけない。


使わないのか。


使えないのか。


そこまでは分からない。


増幅は時折見かける。


だが安定していない。


一瞬だけ強くなったかと思えば、すぐに乱れてしまう。


操作が未熟なのだ。


心を落ち着けられていない。


アッシュは静かに訓練場を眺めた。


エルザは圧縮の安定ばかりを口にしていた。


最初は面倒だと思っていた。


だが今なら分かる。


圧縮は、操作と増幅という土台の上にしか成り立たない。


これが基礎なのだ。


何度も繰り返した講習は、決して遠回りではなかった。


試験官が木札を読み上げる。


第二試合の組み合わせが発表された。


アッシュは剣を握る。


ここからは開門済みの相手も増えてくるだろう。


それでも焦りは無い。


落ち着いて操作する。


安定して増幅する。


それだけで負ける気はしなかった。


---


第五区画。


「始め。」


相手も開門済みだった。


開始直後から激しい攻防になる。


剣と剣が何度もぶつかる。


技量は互角。


速度も互角。


力だけは、アッシュがわずかに勝っていた。


少しずつ押し込む。


それでも深追いはしない。


焦らず、一撃一撃を積み重ねる。


やがて相手が勝負へ出た。


増幅。


一気に踏み込む。


アッシュも迷わず増幅する。


激しい金属音が響く。


力は拮抗した。


だが。


相手だけが体勢を崩す。


操作が乱れたのだ。


対して、アッシュの構えは崩れていない。


振り下ろすだけで十分だった。


「そこまで。」


「勝者、五番。」


アッシュは静かに剣を下ろす。


エルザの教え方は正しい。


アッシュはそう確信した。


---


区画を出ようとした、その時だった。


隣の区画から試験官の声が響く。


「そこまで。」


アッシュが振り向く。


そこでは。


セイルの首元には剣が突き付けられていた。


「勝者、八番。」


セイルは静かに相手を見ていた。


初めての黒星だった。



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