第六十八話 もう一人の女の子
第五区画、第三試合。
レナは武器棚の前で立ち止まった。
並べられた訓練用の武器を見渡し、小剣を手に取る。
磁力魔法の為に左手を空けたかった。
体力試験では無理をしなかった。
順位よりも、その後の試験を優先した。
魔力も体力も、まだ十分残っている。
試験官が手を上げる。
「始め。」
相手は剣を構えた。
レナも静かに小剣を構える。
数合。
金属音が響く。
レナは深く踏み込まない。
小剣で軽く牽制するだけ。
相手は何度か踏み込む。
だが、決定打にはならない。
「ちっ……。」
焦りが表情へ出始める。
(何だこいつ。)
(来るなら来いよ。)
呼吸が少しずつ荒くなる。
レナは変わらない。
相手は痺れを切らした。
「ここだっ!」
大きく踏み込む。
剣が振り下ろされる。
その瞬間。
レナの左手が静かに動いた。
磁力魔法。
相手の剣を引く。
「っ!?」
急に剣が軽くなり、体勢が前へ流れる。
レナは自然に半歩踏み込んだ。
気付けば、小剣が首筋で止まっている。
「そこまで。」
「勝者、六十二番。」
レナは静かに小剣を下ろした。
体力も魔力も、まだ十分残っていた。
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小剣を返却したレナは、少し離れた木陰へ向かった。
そこで、一人の少女が休んでいるのを見つける。
説明の時に見かけた、もう一人の女の子だった。
腰まで届く赤い髪を左右で三つ編みに結んでいる。
飾り気のない、素朴な可愛さがある。
胸元では、小さな木彫りの人形を大切そうに握っていた。
レナは少しだけ立ち止まった。
(女の子、二人だけだったな。)
ゆっくり歩み寄る。
「こんにちは。」
少女は顔を上げる。
少し驚いたあと、すぐに笑顔になった。
「こんにちは。」
「私、レナ。」
「ミーナです。」
レナの視線が木彫りの人形へ向く。
「それ、お守り?」
ミーナは照れくさそうに笑った。
「えへへっ。」
「不格好だけど、弟が作ってくれたの。」
レナは小さく笑う。
「へぇ、兄弟仲がいいんだね。」
「仲がいいっていうか……。」
「五人兄弟だから、毎日騒がしいって感じかな。」
「朝は取り合いばっかりだし。」
「下の子はすぐ泣くし。」
「でも。」
「家に帰ると、やっぱり賑やかで安心するの。」
そう話すミーナは、とても楽しそうだった。
木彫りの人形へそっと触れる。
「私は火魔法の才能があったから。」
「騎士団に入って、少しでも家族を楽にしてあげたくて。」
少し間が空く。
「レナさんは?」
「レナでいいよ。」
レナは少し考える。
「私も魔法使いなんだけど……。」
言葉を選ぶ。
「仲間とやりたいことがあって。」
ミーナは自然と笑った。
「へぇー。」
「素敵だね。」
「ミーナも素敵だよ。」
そう言ってレナは少しだけ俯く。
(……素敵…か。)
彼女の中には自分に無い物がある。
家族。
居場所。
誰かを想う気持ち。
はっきりとは分からない。
だが、ミーナの笑顔を見ていると、
自分が探している答えも、その先にあるような気がした。




