第六十三話 正直
エルザはレナを優しくベッドへ降ろした。
「レナ。」
「……んー?」
レナは薄く目を開ける。
「最近の生活は楽しいですか?」
少し間が空いた。
レナは小さく笑う。
「……楽しいよ。」
「そうですか。」
エルザも小さく頷いた。
少しだけ沈黙が流れる。
「ですが、そのまま前線へ行ってはいけません。」
レナは目を瞬かせた。
「……なんで?」
「あなたの動機が弱いからです。」
「動機?」
レナは困ったように笑う。
「私、行きたいよ?」
「前線は戦場です。」
エルザの声は静かだった。
「楽しさで人を殺す場所ではありません。」
レナは言葉に詰まる。
「……そうじゃないけど。」
「殺せなければ、あなたが死にます。」
「そういう場所です。」
レナは天井を見る。
少しだけ笑った。
「厳しいなぁ。」
エルザは否定しなかった。
「あなたは、まだ自分の心を受け止めきれていません。」
レナは黙る。
「圧縮は、相反する心を受け止める技術です。」
「ですが。」
「あなたの圧縮は、まだ不安定です。」
エルザは静かに続けた。
「その状態で前線へ行ってほしくありません。」
レナは答えない。
少しだけ目を伏せる。
エルザは問いかけた。
「レナ、あなたはどうしたいのですか?」
「私は……。」
レナは言葉を探す。
「セイルと。」
「アッシュと。」
「一緒に強くなりたい。」
少し息を吸う。
「ティアちゃんと。」
「ご飯を食べたり。」
「ちょっとしたことで笑ったり。」
「一緒に修行したり。」
「そんな毎日を送りたい。」
レナは困ったように笑った。
「それじゃ駄目?」
エルザは優しく微笑む。
「ええ。」
「間違いではありません。」
レナも少しだけ笑う。
「もちろん、エルザも一緒だよ?」
「ありがとうございます。」
エルザも微笑み返した。
だが。
少しだけ間を置く。
「ですが。」
「私は、すぐ死ぬ人とは仲良くなりたくありません。」
レナは苦笑する。
「……厳しいなぁ。」
エルザは立ち上がる。
扉へ向かう。
「私に言う必要はありません。」
「自分の中で答えを見つけてください。」
扉へ手を掛ける。
「でも。」
エルザは少しだけ振り返った。
「あなたの圧縮は、正直ですから。」
扉が静かに閉まる。
部屋にはレナ一人。
レナは天井を見つめた。
しばらく黙る。
そして。
「……本当に、厳しいなぁ。」




