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第六十話 空気が変わる


午前。


三人は、いつものようにエルザの講習を受けていた。


課題は魔力の圧縮。


セイルは以前より安定していた。


無理に力を込めなくても、魔力を維持できる時間が伸びている。


レナも同じだった。


圧縮した魔力は崩れにくくなり、制御も安定している。


エルザは小さく頷いた。


「順調ですね。」


二人は少しだけ表情を緩める。


「アッシュ。」


「何だ?」


「もう一度。」


アッシュは黙って魔力を圧縮する。


以前より速い。


そして濃い。


圧縮された魔力は微動だにしなかった。


エルザは少し驚く。


「……圧縮の感覚を掴みましたね。」


「そうか?」


本人に自覚はない。


「ええ。」


エルザは三人を見回した。


「午後は模擬戦にしましょう。」


---


午後。


訓練場。


条件は以前と同じ。


セイルは後方。


レナがセイルへ攻撃を通せば勝ち。


開始。


セイルはアッシュを見た。


アッシュはいつも剣先を高めに構える。


上段からの振り下ろしが得意だからだ。


しかし今日は違う。


剣先が低い。


後ろ足も少し横へ開いている。


それでは得意の飛び込みが遅くなる。


違和感。


アッシュがゆっくり息を吐いた。


その瞬間だった。


空気が変わる。


---


レナは咄嗟に一歩下がった。


攻撃を避けたつもりだった。


避けた。


「……この距離で?」


急かされるようにランスを整形する。


反発は使えない。


使う余裕がない。


ランスを放つ。


その死角からナイフを放つ。


アッシュ狙い。


さらにもう一本。


磁力で軌道を変える。


狙いはセイル。


前回より速い。


手数も増えていた。


---


アッシュの視線はレナにあった。


しかし、レナだけを見ているわけではない。


ランスが迫る。


それでもアッシュは動かない。


レナは直撃を予感した。


その瞬間。


アッシュの姿がぶれた。


死角のナイフへ向かっている。


……ランスは?


ランスは散っていた。


アッシュは小さく息を吐く。


視線はレナのまま。


腕を振るう。


カン。


最後のナイフは地面に落ちていた。



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